古楽と現代音楽の両方で活躍して、現在、世界中から注目されている指揮者、フランソワ=グザヴィエ・ロトさんが都響に客演するコンサートを両日聴いてきました。ラモーにも期待しましが、何と言っても、ダフニスとクロエが非常に楽しみです!(なお、感想はほぼ初日のサントリーホールのもので、2日目の東京文化会館を聴いて少し追記しました。)

 

 

東京都交響楽団都響スペシャル

(サントリーホール)

 

東京都交響楽団第896回定期演奏会Aser.

(東京文化会館大ホール)

 

指揮:フランソワ=グザヴィエ・ロト

合唱:栗友会合唱団

 

ラモー/オペラ=バレ『優雅なインドの国々』組曲

ルベル/バレエ音楽《四大元素》

ラヴェル/バレエ音楽《ダフニスとクロエ》(全曲)

 

 

 

まずはジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)。ロトさんのラモーは、マルク・ミンコフスキさんのようなキレキレのラモーというよりは、しっかりとした足取りのテンポ、雅で充実の響きのラモーという印象です。

 

第1曲「ヘーベーとその一行の登場」はとても典雅な音楽。都響のラモーは初めて聞きますが、サントリーホールで聴く都響には特別なものがあり、きらびやかかつ見事なバランスの演奏でした(東京文化会館では、いにしえの響きに聴こえたのが面白い)。第2曲「リゴードン」と第3曲「タンブーラン」では太鼓やタンバリンがいい感じ。モーツァルト/後宮からの逃走につながる音楽を感じました。

 

第4曲「未開人たちの踊り」はやはり名曲ですね!スレイベルと、さらに赤ちゃんのガラガラを金属製&巨大にしたような楽器(音はシャンシャンというスレイベルに似た音だったので、これも特別仕様又はラモーの時代のスレイベル?)の響きを聴けたのもとても貴重でした。最初は床を叩いて、ロトさんが踏み込んだフォルテでは揺すって賑やかな音を出していい感じ。第5曲「シャコンヌ」はトランペットが高らかに鳴って、晴れやかな音楽でした。

 

(参考)ラモー/未開人の踊り(優雅なインドの国々)

https://www.youtube.com/watch?v=uZtWNZ_U_f8 (2分)

※フランソワ=グザヴィエ・ロト/レ・シエクルのプロムスでの演奏、BBCの公式動画より。男性が抱えてリズミカルにシャン!シャン!と鳴らしているのがその謎の楽器(スレイベルの一種?)です。ロトさんはこの時は木の棒のようなもので指揮台を叩きながら指揮をしていますが、おそらくリュリが杖を床に突いて指揮をしたのをイメージしているものと思われます。

 

 

続いてジャン=フェリ・ルベル(1666-1747)。ラモーと同じ時代の作曲家で、「火」「空気」「水」「土」の四大元素をテーマにした曲です。第1曲「カオス」は「世界の始まりを想起させる強烈な不協和音」と解説にあり、ドキドキしながら聴きましたが、現代曲の不協和音を聴き慣れた耳には、何だか親しみすら感じます、笑。でも、この時代の聴衆は大いに驚いたことでしょうね。

 

フルートの旋律をかき消すようにその不協和音を重ねていたのが印象的。ヴァイオリンによる火と、フルートによる水が絡み合う音楽も出てきましたが、魔笛のタミーノとパミーナの試練の場面を連想します。都響のヴァイオリン群が充実の響きで聴き堪え満点!

 

第6曲「狩り」のホルン、第7曲「タンブーラン」の太鼓も印象に残りました。ルベルの曲は初めて聴きましたが、とても楽しめました。

 

 

 

後半はラヴェル。ダフニスとクロエは個人的に大大大好きな曲です。第1部冒頭の音楽。静かに幽玄に始まるオケ、加わる合唱のヴォカリーズ。ごくごく遅めのテンポでだんだん高まり、神秘的な瞬間を経て、解き放たれる頂点!サントリーホールに鳴り響く、都響と栗友会合唱団による見事なハーモニー!

 

何という美しくかつ芳醇な響き!押し寄せる感動に、涙が自然と溢れてきます…。

 

うねりながら続く美しい音楽を、うっとりと感動と幸せを噛み締めながら聴きました。前回のエルガー/エニグマ協奏曲の時にも感じましたが、都響とサントリーホールの相性は、ムジークフェラインでのウィーン・フィルのようなフィット感を感じます。また、東京文化会館で聴くと、ゼンパーオーパーで聴くシュターツカペレ・ドレスデンのような木質の音色を感じるところが面白い。ホールの聴き分けの楽しみですね。

 

そして、都響の木管群のキレの良い演奏に導かれて、物語が進んでいきます。ロトさん、ドルコンの踊りの場面をゆっくりユーモラスにやって楽しい!海賊の場面の前の神秘的な音楽は都響の繊細な響きが絶妙!海賊の場面のズバッと決める切れ味、迫力の響きも素晴らしい。

 

そして迎える第3部。ダフニスとクロエで一番好きな「夜明け」。静かに神秘的に始まり長調に転じ、ゆっくりのテンポで楽器を変えてリレーしていく都響の響き、そして、それに溶け込むようにこだまする栗友会合唱団のヴォカリーズが素晴らしいのなんの!

 

そして低弦がきっかけを作って再び雄大な頂点に!都響の美しい音色、栗友会合唱団の見事な歌がホールを包み込み、大いなるカタルシスを感じる場面!背中から頭の裏が何度もゾクゾクきて、ほとんど昇天!(笑) めちゃめちゃ感動しました!

 

(参考)ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲)。ユッカ=ペッカ・サラステ指揮/ケルンWDR交響楽団の演奏。私がロト/都響/栗友会合唱団の演奏で昇天しかかった「夜明け」は39:33~44:46。この世にはこんなにも繊細で雄大で美しい音楽がある。

https://www.youtube.com/watch?v=O4lzPz3NnI0

※WDR Sinfonieorchesterの公式動画より

 

この「夜明け」はオーケストラのみの第2組曲でもよく演奏されますが、切り取り感を強く感じる組曲を聴く度に、合唱込み&全曲で聴きたいと強く思ってしまう場面。冒頭からの紆余曲折の物語があるからこそ、この場面が光り輝くのです。2日連続で都響&栗友会合唱団の繊細で美しい演奏で全曲を聴けて、これ以上の幸せはありません!

 

続くシランクスの場面は、都響のフルートのソロが見事すぎる!最後の全員の踊りも迫力の進行、特に東京文化会館ではキッレ切れの演奏を存分に体感!ラストの盛り上がりもスペクタクル&ど迫力!素晴らしいダフニスとクロエ!!!

 

 

私はダフニスとクロエの全曲の実演は、1995年のピエール・ブーレーズ/N響の実演が圧倒的な思い出となっていますが、今回のフランソワ=グザヴィエ・ロト/都響もそれに匹敵する素晴らしさ!もう圧巻でした!

 

2日とも観客も大いに盛り上がってブラボーが沢山飛んで、いわゆる一般参賀もありました。ロトさんと都響の相性はとても良いと感じました。またのお越しを楽しみにしています!

 

 

そして、この2日間のロト/都響/栗友会合唱団のダフニスとクロエの名演を聴いて思ったのは…、

 

とにかくバレエで観たい!

 

ダフニスとクロエはバレエ音楽だけでなく、バレエとしても大変な名作だと思いますが、なかなか公演にかからないんですよね~。新国立劇場か東京バレエ団でぜひやってほしい。その時はこの4月の東京バレエ団の「第九」の公演のように、ぜひとも都響にピットに入ってほしい!こことても大切なポイント。よろしくお願いします!

 

 

 

 

(写真)ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲)の愛聴盤は、名盤として名高いアンドレ・クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団/ルネ・デュクロ合唱団。ジャケットの後ろ姿のクロエの踊りのポーズがまたいいんですよね。私はフラフラと、あれこれCDをつまみ食いすることはせず、1枚のCDとじっくり向き合って、しっかりと音楽を入れるタイプ。このCDも100回は聴いたと思います。