ウィーン・フィルと紀尾井ホール室内管弦楽団のメンバーによる、マーラー/大地の歌の公演を聴きに行きました。

 

 

紀尾井ホール室内管弦楽団アンサンブル・コンサート

室内オーケストラ版 マーラー《大地の歌》

ウィーン・フィルのメンバーを迎えて

(紀尾井ホール)

 

ヨハン・シュトラウス2世/入り江のワルツ(シェーンベルク編曲)

ヨハン・シュトラウス2世/酒、女、歌(ベルク編曲)

ヨハン・シュトラウス2世/皇帝円舞曲(シェーンベルク編曲)

 

マーラー/大地の歌(シェーンベルク&リーン編曲室内オーケストラ版)

 

 

 

マーラー/大地の歌の室内楽版!非常に興味深いコンサートです。実は大地の歌は、以前にザルツブルク音楽祭でピアノ版も聴いたことがあります。ピアノはアンドラーシュ・シフさん。それまで十分に親しめていなかった長大な第6楽章が、ピアノの響きによって、非常に身近なものに感じることのできた、素晴らしいリサイタルでした。

 

今回も通常のオケによる演奏とは異なり、室内楽による演奏です。違う響きの演奏を聴くことは、きっと曲への理解を深めるいいきっかけとなることでしょう。東京には本当にいろいろなコンサートがありますが、このような趣向を凝らしたコンサートを聴きに行くことこそ、東京のコンサート・ライフの醍醐味だと思います。

 

 

 

前半はヨハン・シュトラウス2世の3つのワルツの曲。これはもう、楽しい!素晴らしい!ハッピー!以上!あれっ!?どこかで聞いたような?(笑)(注:一昨日のオーケストラ・アンサンブル金沢のニューイヤーコンサートの感想)

 

最初の「入り江のワルツ」は、この冬の旅行でハンブルクで観た、ヨハン・シュトラウス2世/ヴェネツィアの一夜のウルビーノ公爵の歌うワルツなんです。なんだかつながる!

 

(参考)2019.12.27 ヨハン・シュトラウス2世/ヴェネツィアの一夜(ハンブルク・アレー劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12565826182.html

 

「皇帝円舞曲」はやっぱり名曲ですね。今回はウィーンで聴けなかったので、ここで聴けてとても嬉しい。「酒、女、歌」は、お酒にまつわる歌の多い、後半の大地の歌につながりますね。こういう選曲の妙は本当に粋だなと思います。

 

 

 

後半はいよいよマーラー/大地の歌の室内楽版です!

 

第1楽章「現世の愁いをうたう酒歌」。室内楽ですが、非常に聴き応えあり!程よい大きさの紀尾井ホール、ということで、歌手(第1楽章はテノールのアダム・フランスンさん)も声を張り上げずに、心地良く歌っているよう。ウィーン・フィルのカール=ハインツ・シュッツさんのフルートがど迫力で圧倒されました!

 

第2楽章「秋に寂しき人」。冒頭からのライナー・ホーネックさんの叙情的で魅惑の音色のヴァイオリンにうっとりします。チェロもウィーン・フィルから参加のゼバスティアン・ブルさん。チェロが奏でられるシーンがあるごとに魅了されました。メゾソプラノのミヒャエラ・ゼーリンガーさんの雰囲気のある歌もとてもいい。

 

第3楽章「青春について」。以前にテレビのコマーシャルにも使われていた、大地の歌で最も有名な曲です。明るい音楽が素敵。室内楽版はここでピアノも入りますが、明るく軽快な雰囲気を高めていて、とても効果的でした。若者の集いが向かいの池にさかさまに映っていることのおかしみを伝える、李白の詩もいいですね。

 

第4楽章「美しさについて」。花を摘む優美な少女たちと、駿馬を翔ける勢いの良い少年たちの対比を歌いますが、レニー(レナード・バーンスタイン)がクリスタ・ルートヴィヒさんとこの曲で共演した時に、馬のシーンを最速で演奏したいレニーと、それでは歌詞を歌えないというルートヴィヒさんが、かなり強く意見をぶつけ合っていたのが懐かしい(笑)。でも、今日もかなりの速いテンポでの演奏でした。途中にはマーラー4番の音楽も感じます。

 

第5楽章「春に酔う人」。この楽章は明るくコミカルさも感じる音楽。歌詞もふるっていて、私、一番好きな楽章かも知れません。カール=ハインツ・シュッツさんのピッコロがまた抜群に上手い!ちなみに、歌詞の一部は以下の通りです。これ、ほとんど堪え性のないパパゲーノが歌っているかのよう?(笑)

 

人生もまた一場の夢なら

艱苦(かんく)に耐えて何になろう?

さあ呑むぞ とことんまで

日がな一日呑んでやる!

 

これより先はもう呑めぬ

喉も心も一杯なりと

そうなりゃ よろりと戸口へ戻り

あとはたんまり寝るだけさ

 

 

第6楽章「告別」。大地の歌で最も長く、中心となる楽章です。室内楽の魅力を存分に堪能できる素晴らしい時間!オブラートに包まれない単体の楽器による生の音。オーボエの音が、フルートの音が突き刺さる!痛々しいまでの厳しさ、寂寞感を感じます。

 

そして幸福と青春に憧れる場面は、マーラーの妖しい和声が美しすぎる!世紀末の雰囲気たっぷり。自然と涙が溢れてきますが、私、第6楽章で涙を流したのは初めて。こんなにも美しい音楽、哀しい歌詞だったのか!と感動の瞬間。

 

そして歌が終わり、間奏の厭世観たっぷりの厳しい音楽は、どことなくワーグナー/パルジファル第3幕の音楽を思わせて、あたかもアンフォルタスの嘆きや死への憧れのよう。

 

そしてラストに訪れる長調に転じての安らぎの音楽!美しい!ミヒャエラ・ゼーリンガーさんの感動の歌に、もう涙流れっぱなし…。音楽とはかくも美しいものなのか!最後の天国に召されたようなグロッケンシュピールも絶妙ですね。

 

 

いや~、特別な演奏を聴けた喜びに打ち震える瞬間!!!マーラー/大地の歌の室内楽版、極めて感動的なコンサートでした!!!

 

 

めちゃめちゃ凄かった!私、なぜこの曲が「大地の歌」と名前が付けられているのか、初めて理解できたような気がします。なかなか馴染めなかった第6楽章「告別」が、ひしひしと心に沁みた貴重な演奏。観客のみなさまも大いに唸っていらっしゃいましたね。こういう演奏に当たるので、ライヴを聴きに行くのは止められないのです!

 

 

そして、この公演にはウィーン・フィルのメンバーが4名参加していましたが、個々の演奏のインパクトが絶大で、さすがウィーン・フィル!と改めて感じ入りました。それでも、他の多くは紀尾井ホール室内管弦楽団のメンバーです。

 

ウィーン・フィルのメンバーと見事に融合して、素晴らしいパフォーマンス!クオリティの高さを大いに感じました。東京を代表する珠玉の室内管弦楽団。もう頼もしすぎます!

 

 

 

 

(写真)マーラーが大地の歌を作曲したトブラッハのドロミテ山脈の景観。ドロミテ山脈は苦灰石(ドロマイト)による灰色の荒々しい岩肌の山が特長で、東洋の奇岩の雰囲気があります。

 

今日のプログラムでは、大地の歌は「作曲を始める少し前に長女を亡くしたり、ウィーン国立歌劇場での自身のポストとの決別といった状況が作曲家の心のありように影響を及ぼしているだろうと同時に、世紀末的な死や厭世観、東洋への関心といった、当時の分過程時流・潮流も反映されている作品」と解説されていましたが、併せて、上の写真のような、トブラッハの東洋的趣のある風景も、マーラーに影響を与えたと言われています。