20日(金)のセバスティアン・ヴァイグレ/読響とのベートーベン4番も素晴らしかったルドルフ・ブッフビンダーさん。今日はピアノ・リサイタルを聴きに行きました。十八番のオール・ベートーベン・プロです!

 

 

ルドルフ・ブッフビンダー ピアノ・リサイタル

(東京オペラシティ・コンサートホール)


【オール・ベートーベン・プログラム】

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調「熱情」

 

 

 

ルドルフ・ブッフビンダーさんはこれまで何度も聴いてきていて、クリスチャン・ツィメルマンさんと並んで大ファンのピアニストです。ベートーベンのピアノ協奏曲全曲のコンサート、ブラームスのピアノ協奏曲第1番・第2番のコンサート、ザルツブルク音楽祭でリストの超絶技巧の曲を何曲も弾いて聴衆から大喝采を浴びていたリサイタル、などなど。

 

ベートーベンのピアノ・ソナタのリサイタルも過去に何度か聴いています。重厚で質実剛健なベートーベン、というよりは、格調高く、モーツァルトのピアノ・ソナタを思わせるような、自由闊達さや遊びも感じる粋なピアノ。正にウィーンのピアニスト、という印象です。今日も楽しみでなりません。

 

 

ということで聴いてきましたが、いや~、やっぱりブッフビンダーさんのベートーベンは凄かった!何と言うニュアンスに溢れて、ユニークさもあるピアノ!弱音から強音まで振幅が激しく、それでいて格調の高いピアノ!正に至芸のベートーベンでした!!!

 

(なお、私は以下の3曲は、それぞれ全曲ではないものの自分でも弾いたことがあるので、楽譜は把握していて、一般的な演奏も踏まえていての感想です。)

 

 

 

まずは8番。冒頭から速めのテンポで突き進む第1楽章です。重厚感もありつつ、格調の高さを感じるピアノ。第2楽章はたっぷり歌うというよりは、余韻を残しつつ先に進んで行くピアノ。最後の方の長調には諦念を感じました。

 

第3楽章は激しい音楽になりますが、深刻さと同時に軽やかさも併せ持つピアノ。何か研ぎ澄まされた、大理石のような質感の美しさを感じる8番でした。

 

 

 

続けて第21番。冒頭からの和音の連打は速めの進行。第1楽章全体に少し弾き急いでいるような、何かに追われているような印象を持ちました。第2楽章は一転、ゆっくりで逡巡するような演奏。生気を感じない、意気消沈した雰囲気のピアノです。

 

そこに、一筋の光が差し込むような第3楽章の冒頭!速めのテンポでめくるめく音楽が展開されます。息つく暇もないくらいに魅了されるピアノ!終盤のグリッサンドやトリルのニュアンスが凄すぎる!何か救済が得られたような清々しい印象。極めてポジティヴで格調の高い21番でした!

 

 

 

後半は第23番。冒頭の深刻な旋律はあっさり目、その後の単音の連打の部分を強調して、この時点で既に運命に打ちひしがれているような印象です。途中のフォルテで盛り上がる場面の前に、高音から低音に単音で降りてくる場面も、意気消沈しているようなとぼとぼと弱々しい足取りの雰囲気。

 

中間部の聴かせどころ、左手が上下に飛んでダブル・フォルテで運命の動機を弾く最も激しい場面は、意外にもメゾ・フォルテくらいの強さ!もはや疲れ果てていて、最も深刻な一撃すら十分に感じられないくらい弱っている印象を持ちました。

 

第2楽章はかなり自由なピアノ。左手を強調したり、テンポを緩めたり、旋律を途中で右手から左手に受け渡したり自由自在。これぞ変奏曲!という印象。厳しい状況の中で、救いとなるのは笑いとユーモア、そんな印象すら持ちました。

 

第3楽章の冒頭のダブル・フォルテでの厳しい和音による運命的な入りの場面は、何と肩の力を抜いて穏やかなテンポ、あたかもモーツァルトを弾くかのごとくに切って軽やかに入りました!そこからテンポを上げて、その後はめくるめく展開。

 

聴いていると、何か覚悟や主体性、前向きさが感じられず、あたかも運命に翻弄され、流されていてどうにもならない、その焦りが感じられるような雰囲気です。プレストのフィナーレは嵐のような激しさのピアノでしたが、情熱のほとばしりによる解決や大団円、というよりは、葛藤や闘いが続いていく人生、そのことを描出したような演奏に感じました。

 

 

 

いや~、最初から最後まで魅了されっぱなし、本当に凄かった!以前に比べると、よりオーソドックスな演奏に感じましたが、それでも場面場面で絶妙なニュアンスが付けられているので、いろいろとイメージが湧いて仕方ない、そんな卓越したピアノです。アンコールの劇的な第17番第3楽章と、遊び抜かれたバッハもお見事でした!

 

 

来年2020年はベートーベン生誕250周年なので、今からベートーベンのリサイタルを聴く気満々ですが、来年になる前にこんな凄いベートーベンを聴いてしまって、一体どうしてくれるんだ~!(笑) 本番が始まる前に真打ちが出てきてしまった~!と思ってしまうくらいにブッフビンダーさんのベートーベンは素晴らしかったです!ぜひ来年もどこかで聴いてみたい!!!