サンクトペテルブルクから21年ぶりに来日した、ボリス・エイフマンさん率いるエイフマン・バレエの公演を観に行きました。演目はロダン~魂を捧げた幻想です!
エイフマン・バレエ
ロダン~魂を捧げた幻想
(東京文化会館 大ホール)
台本・振付・演出:ボリス・エイフマン
音楽:モーリス・ラヴェル/カミーユ・サン=サーンス/ジュール・マスネ/クロード・ドビュッシー/エリック・サティ
舞台装置:ジノーヴィ・マルゴーリン
衣裳:オリガ・シャイシメラシヴィリ
照明:グレプ・フィリシチンスキー/ボリス・エイフマン
ロダン:オレグ・ガブィシェフ
カミーユ:リュボーフィ・アンドレーエワ
ローズ・ブーレ:リリア・リシュク
(写真)ロダン(左端)とカミーユ(右下)が一緒に彫刻作品を作っていくシーン
※購入したプログラムより
このバレエは彫刻家オーギュスト・ロダンと、同じ彫刻家の恋人カミーユ・クローデル、ロダンの内縁の妻ローズ・ブーレの3人の物語です。ロダンとカミーユ・クローデルのことについては、1989年にBunkamuraのル・シネマで観た映画「カミーユ・クローデル」で知りました。イザベル・アジャーニさんの代表作、魂の演技が素晴らしかったことを記憶しています。
第1幕。冒頭はロダンとの関係が終わったカミーユの入っている精神病院。白い群舞が独特な踊り、カミーユも奇抜な踊りです。ロダンがお見舞いに来ますが、何と、カミーユはロダンを刺す仕草まで!
時はロダンとカミーユの出逢いの場面に遡ります。サン=サーンス/動物たちの謝肉祭「終曲」に乗って賑やかな彫刻のアトリエ。大理石やシャベルカーも出てきて楽しい。2人の女性のモデルが、私がモデルになるの!と諍い(笑)。
そしてロダンが1人のモデルにポーズをつけますが、羽生結弦くんのスワンのスピンのポーズのような、かなり体を捻った困難なポーズ。そしてロダンはインスピレーションが降りてこないのか夢想。ほっとかれたモデルが助けてくれ~とジタバタ(笑)、怒って出て行きます。
カミーユはシャベルカーを押しながら作業着姿で登場。皆には馬鹿にされるも、ロダンは一瞬でカミーユに魅了されます。ドビュッシー/月の光に乗った美しい踊り!最後はカミーユの美しい肢体にポーズを付けて(うずくまる女)、布で覆って永遠に閉じ込めようとするロダン。
音楽は一転、サティ/グノシェンクに。ローズが家で一人、ロダンを待つシーンです。何と倦怠感の溢れた音楽と踊り!そしてアトリエではサン=サーンス/交響曲第3番第1楽章第1部の音楽に乗って、ロダンとカミーユが彫刻を創作していきます。彫刻はバレエ・ダンサーたちが表わしますが、鍛え上げられた肉体による見事な作品!(カレーの市民)
しかし、そこにはローズの視線。ロダンは新たに出現したミューズのカミーユと、長年連れ添ったローズの2人の間で悩みます。その流れの中、第1楽章第1部の最後に第2部のコラールの音楽が一瞬出てくる瞬間がありますが、そこで先ほどカミーユと創作した彫刻がスポットライトを浴びて一瞬出てきました!ロダンの救いは彫刻にある。そのことを暗示する素晴らしい演出!
カミーユは芸術家としての自分とロダンへの愛の間での葛藤を感じさせる踊り。その後はロダンと作品を交えた濃厚な踊りとなりました。批評家たちが沢山出てきてロダンを大いに賛美します。自身の小さな作品を丸めて絶望するカミーユで第1幕を終えました。
第2幕。カミーユがいなくて大作のアイデアに悩むロダン。カミーユの小品に救いを求めるとカミーユが登場!すると大作の土台(多くのバレエ・ダンサー)が忽然と登場!このライトの切り替えはとても素晴らしい!
二人で大作を創作していく感動のシーン!肉体美のバレエ・ダンサーが縦に折り重なるように並んで素晴らしい!(地獄の門) しかしそこにローズの影が。カミーユとローズの間で葛藤するロダン。カミーユはロダンから去って行き、大作も消えてしまいました。
ここでロダンとローズとの馴れ初めのシーンに。ワインの葡萄の収穫。足踏みで葡萄を絞るローズをデッサンするロダン。2人が距離を近づける素敵な踊りのシーンになりますが、ロダンがローズのふくらはぎに固執して、それをローズが嫌がる振付が付きました(笑)。さすが彫刻家!昔を思い出したロダンが、年を重ねたローズに寄り添うシーンは感動的。
一方のカミーユは自暴自棄に。運命を操られ、スーツケースを持ってパペットのような振付がとても印象的。酒場でのフレンチカンカンのシーンとなります。エイフマン・バレエのみなさんのキレキレのフレンチカンカンが素晴らしい!
しかしフランチカンカンには興味を示さず、お酒に溺れて酒場の男性と踊るカミーユ。そこにロダンが現れ、感動の再会の踊り!さらにそこにローズが現れて、3人の葛藤の踊りとなります。胸が締め付けられるような、非常に切ない3人の踊り…。
カミーユは創作活動に打ち込みます。大理石をリズミカルに掘る動作が、ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲のジャズっぽい音楽にピッタリ!しかしカミーユの作品(クロト)は批評家たちには受け入れられず…。
ただ一人カミーユの作品を高く評価するのはロダンその人。ロダンはカミーユの作品に魅了されますが、自分のインスピレーションを盗みに来たと思ったカミーユは、ロダンを追い払います!打ちひしがれたロダンを優しく介抱するローズが感動的。
ここからはカミーユの内面の世界の踊り。ラヴェル/ダフニスとクロエの、ラストのバッカナールの音楽を背景に踊ります。バッカナールはダフニスとクロエのバレエの実演でも、個人的に振付が難しいと思う場面。
それを、光と影も上手く使って、見事に音楽とカミーユの精神世界を融合させるボリス・エイフマンさん!大いに魅了されました!バッカナールのラストはカミーユが群舞に追い掛けられて彫刻作品となる印象的なシーン!(地獄の門)大いなる感動!
ここで流されたのがマスネ/タイスの瞑想曲!ここでこれが来るのか!とめちゃめちゃ感動!第1幕冒頭の白い女性たちお互い手を繋いで出てきて、こちらへおいでとカミーユを誘います。葛藤するカミーユ。もうハラハラと涙が溢れる素晴らしいシーン!遂にカミーユは白い女性たちと手を繋いで舞台を去っていき、その後にロダンが彫刻造りに邁進するラストで幕が閉じました!
何この心の奥底から沸き起こる感動!エイフマン・バレエの素晴らし過ぎる踊りと振付!
いや~、もうこのラストには痺れまくりました!タイスの瞑想曲はヴァイオリン独奏がしみじみ美しい曲ですが、マスネのオペラ「タイス」では放蕩を尽くした遊女タイスが、苦行僧アタナエルの真摯な心に惹かれて、逸楽か信仰かを悩むことを示す音楽です。
自分自身の芸術か?それともロダンの作品の中に生きるのか?(白い女性たちは大理石の精あるいはモデルの女性たちで、ロダンの作品を象徴と推察)その葛藤を描いていたと思われるシーンにタイスの瞑想曲を当ててきて、大いなる感動を与えてくれたラストでした!
カーテンコールは素晴らしいダンサーのみなさんに万雷の拍手!ロダン役のオレグ・ガブィシェフさん、カミーユ役のリュボーフィ・アンドレーエワさん、ローズ・ブーレ役のリリア・リシュクさん、みな普段のバレエでは観られないような独特な振付を見事に踊って素晴らしかったです!そして、何と生ボリス・エイフマン登場!会場は大いに盛り上がりました!
エイフマンさんはこの作品について、「永遠の傑作を生み出す才能に対して天才が払わねばならない、莫大な対価について熟考した作品です。それはあらゆる芸術家にとって重要であろう、創作過程での苦しみと極意についての考察でもあります。」と語られています。
ロダンとカミーユ・クローデルとローズ・ブーレの葛藤の物語を、3人への愛情をひしひしと感じさせる振付で描くとともに、彫刻という芸術の素晴らしさを、バレエ・ダンサーたちの美しい肉体で見事に表わしたエイフマンさん。偉大な芸術家たちによる素晴らしい公演でした!
