ボローニャ歌劇場の来日公演、ロッシーニ/セヴィリアの理髪師を聴きに行きました。
ボローニャ歌劇場
ロッシーニ/セヴィリアの理髪師
(神奈川県民ホール大ホール)
指揮:フェデリコ・サンティ
演出:フェデリコ・グラッツィーニ
舞台:マヌエラ・ガスペローニ
衣裳:ステファニア・スカラッジ
照明:ダニエレ・ナルディ
合唱指揮:アルベルト・マラッツィ
アルマヴィーヴァ伯爵:アントニーノ・シラグーザ
フィガロ:ロベルト・デ・カンディア
ロジーナ:セレーナ・マルフィ
ドン・バルトロ:マルコ・フィリッポ・ロマーノ
ドン・バジリオ:アンドレア・コンチェッツティ
ベルタ:ラウラ・ケリーチ
フィオレッロ:トンマーゾ・カーラミーア
アンブロージョ:マッシミリアーノ・マストロエニ
士官:サンドロ・プッチ
ボローニャ歌劇場管弦楽団/合唱団
昨年の没後150周年を大いに楽しんだロッシーニ。結局オペラ6作品を観たほか、スターバト・マーテル、小荘厳ミサ曲など素晴らしい曲をいろいろ聴きました。ペーザロで観たセヴィリアの理髪師は脇園彩さんのロジーナがとても印象に残りました。
(参考)2018.8.13 ロッシーニ/セヴィリアの理髪師(ペーザロ・ロッシーニ音楽祭)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12411267493.html
なので、今回のボローニャ歌劇場の来日公演は観に行くかどうか迷いましたが、アントニーノ・シラグーザさんがアルマヴィーヴァ伯爵を歌うとなると観に行かない訳には参りません。言うまでもなくアルマヴィーヴァ伯爵の第一人者、非常に楽しみです!
第1幕。序曲はオーボエ、ホルン、フルートと明るい音色に魅了されます。「パーン!」と音を立ててハンター姿のバルトロが鴨を仕留めて幕明け。フィガロが床屋さんの電飾の看板をかざして、フィガロ劇場開幕の予感。舞台は2階建ての家に生け垣とスッキリとした作りです。
アントニーノ・シラグーザさんのアルマヴィーヴァ伯爵が登場。冒頭から明るい高音が突き抜ける素晴らしい歌!以前にレオ・ヌッチさんの至芸のリゴレットを聴きましたが、シラグーザさんのアルマヴィーヴァ伯爵も、もはやその域に達しているかのようなはまり具合です。
ロベルト・デ・カンディアさんのフィガロが登場。有名なまちの何でも屋の歌。こちらも素晴らしい!歌だけでなく、ちょっとした仕草が見事に決まって、酸いも甘いも嚼み分けた、百戦錬磨のフィガロ、という印象。見た目はほとんど新国立劇場でも観たファルスタッフですが(笑)。あるいはファルスタッフの修行時代のオペラかのよう。
シラグーザさんはギターでリンドーロの歌を歌います。ソット・ボーチェの柔らかい歌に痺れます!さりげないけど、めちゃめちゃ綺麗な歌!その後のアルマヴィーヴァ伯爵とフィガロの2重唱も楽しい。
セリーナ・マルフィさんのロジーナ登場。初めて聴きますが、かなりの実力者という印象。ロジーナの有名なアリアをたっぷり聴かせました。「私は大人しくて従順で」と歌う場面では銃を持ち、最後はバルトロの胸像の頭を壊してしまいました(笑)。
アンドレア・コンチェッツティさんのバジリオはほとんど妖怪のよう、見るからに怪しい雰囲気で登場。中傷のアリアは大いに聴き応えあり。ロジーナにリンドーロのことを話すフィガロ。「リンドーロには欠点がありまして」「恋をしているんです!」何という素敵な欠点!(笑)
便せんの紙が一枚少ないとロジーナを疑うバルトロ。ギャー!博士なのに、どこまで監視するんでしょうか、このおやじ!キモすぎる!その後の早口言葉の歌はさすが。マルコ・フィリッポ・ロマーノさんのバルトロは小憎たらしさとユーモアがほどよくミックスされていて絶妙でした。
アルマヴィーヴァ伯爵は酔っ払った兵士に変装して登場。南国の雰囲気の歌が好き。提示した宿泊許可証はバルトロに丸めてポイされてしまい、逆にバルトロの提示した宿泊免除証を丸めて放り投げ、シラグーザさんのスキンヘッドによるヘディング!(笑)1998年のワールドカップ決勝でブラジルを沈めたフランスのジダンのヘッドばりの見事なヘディングでした!
何だかんだやりとりがあり、アルマヴィーヴァ伯爵とロジーナの間で手紙も無事に渡りました。大騒ぎに登場した警ら隊には、身分を明かして諫めるアルマヴィーヴァ伯爵。ラストはロッシーニお得意の大混乱のシーン。空から白い大きな球が降ってきて、それに押しつぶされそうになって、散り散りに逃げる登場人物が楽しい!素敵な第1幕でした!
第2幕。アルマヴィーヴァ伯爵が今度はドン・アロンソに変装して登場。藤原歌劇団のオリー伯爵の時にも感じましたが、シラグーザさんはコミカルな演技が抜群に上手い!(笑) 早速バルトロを騙して、ロジーナとのウキウキのレッスン、眠りをこくバルトロも楽しい。
病気のはずのバジリオが登場!ここの木管の南国の雰囲気の音楽は本当に好き。ボナセーラのリレーの歌も楽しいですが、ここは昨年のミケーレ・ペルトゥージさんの、場違いに神々しいばかりのボナノッテ(笑)が懐かしい。結局、バルトロが変装に気付いて大混乱に(笑)。
小粋なベルタの歌。ほとんど死にかけているような冴えなかったアンブロージョが、ここの場面だけ活き活きとするのがいい!やはり女の人がいての男の人生ですね。歌詞の内容はクリムト展の女の三世代の絵を思わせます。
嵐の場面はロジーナの演技が付きました。夜中に忍び込んできたアルマヴィーヴァ伯爵とフィガロ。リンドーロがアルマヴィーヴァ伯爵と分かって喜ぶロジーナ。2人のアジリタを駆使した喜び歌が延々と続き、なかなか逃げないので焦れまくる(笑)フィガロの演技が楽しい!
入ってきたバジリオと公証人に指輪を与えて、結婚の証書を作らせるアルマヴィーヴァ伯爵。バルトロが抗議するも、身分を明かして抵抗するなと言い放つアルマヴィーヴァ伯爵。う~ん、知恵を働かせていろいろ展開した上で、結局はそこですか?セヴィリアの理髪師は楽しいオペラですが、ここはどうしても好きになれないシーン。
しかし、その後のシラグーザさんの大アリアは魅せました!超絶技巧の歌を見事なまでに歌います!お客さんもよく分かっていますね。拍手が鳴り止まずに延々と続き、何度も感謝のポーズを入れるシラグーザさん。こういうシーンは本当にいいものだ。
そして、拍手が止んだ後、バルトロがうるさい、静かにしろ!と、プシッと口を鳴らして合図しましたが、意表を突いて、シラグーザさんの手を取り再度舞台前方に誘導して拍手を求める展開!(笑)そして観客から再び湧き起こる大きな拍手!こういうのは本当に楽しい。ラストはリレーの歌、赤い風船が沢山落ちてきて楽しく終わりました。
何この楽し過ぎるセヴィリアの理髪師!イタリアの歌劇場の底力!
いや~たっぷり堪能できました!アントニーノ・シラグーザさん、ロベルト・デ・カンディアさんという2枚看板に加えて、セレーナ・マルフィさん、マルコ・フィリッポ・ロマーノさん、アンドレア・コンチェッティさんほかみなが適役。イタリアの声と演技による、絶品のセヴィリアの理髪師でした!
指揮者のフェデリコ・サンティさんもツボを押えた素敵な指揮。オケも明るい音色でイタリア・オペラを聴く喜びを叶えてくれました。演出は比較的シンプルな舞台ですが、そこここに工夫が見られて、オペラの魅力をストレートに打ち出すもの。しっくり馴染んでいい感じ。
それにしても、アントニーノ・シラグーザさんのアルマヴィーヴァ伯爵は超絶に素晴らしい!世界中で歌っているので、お子さんが学校で「お父さんの職業は?」と聞かれた時に「アルマヴィーヴァ伯爵!」と答えたエピソード(笑)があるというハマり役、さすがの歌でした!
(写真)終演後に楽しんだワイン。ワインの名前にご注目!アルマヴィーヴァ1999。シャトー・ムートン・ロートシルトがチリのコンチャ・イ・トロと共同で造る、チリの素晴らしいワインです。セヴィリアの理髪師かフィガロの結婚の後に飲みたいと思っていましたが、ようやく開けることができました。
20年ものですが、まだまだ活き活きとしつつ、こなれた熟成感も十分あり、まるでアントニーノ・シラグーザさんの歌の様に見事なワインでした!(なお、アルマヴィーヴァの文字はボーマルシェ本人による直筆です。)