パーヴォ・ヤルヴィさんとN響の定期演奏会を聴きに行きました。何と言っても、ハンス・ロットの交響曲が注目です!

 

 

NHK交響楽団第1906回定期演奏会Apro.

(NHKホール)

 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ

 

シュトラウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調

ハンス・ ロット/交響曲第1番ホ長調

 

 

ハンス・ロット(1858-1884)。マーラーの友人にして、精神を病んで、若くして25歳で亡くなってしまった才能のある作曲家です。20年以上前、ハンス・ロットの交響曲が話題になったことがあり、出たばかりのCDを購入して聴きましたが、1回聴いてビックリして、2度と聴きませんでした。というのも…、

 

第3楽章の主題が、マーラーの交響曲第1番第2楽章の主題にそっくりだから!

 

なんです。ハンス・ロットの交響曲が作られたのは1878-1880年。マーラーの交響曲第1番は1884-1888年。え!?ということは…?

 

恐ろしいのでこれ以上は言いませんが、何か聴いてはいけないものを聴いてしまったショックを覚え、それ以来、この曲には近寄らないようになりました。

 

しかし、パーヴォさんがN響定期で取り上げるとなると、聴かない訳にはまいりません。20年以上前に1回聴いただけの曲ですが、恐る恐る聴きに行きました。

 

 

 

(写真)私が一度聴いて封印してしまったハンス・ロット/交響曲第1番のCD。後期ロマン派で定評のある、レイフ・セゲルスタムさんの指揮。

 

 

 

その前に、前半はRシュトラウスのヴァイオリン協奏曲。R.シュトラウス17歳の若書きの曲です。第1楽章は明るい音楽が印象的、アリョーナ・バーエワさんのヴァイオリンはよく歌います。木管や金管の合わせ方にR.シュトラウスらしさを感じます。

 

そして、オペラ「ナクソス島のアリアドネ」を思わせるような、明るい調性の中に宿る寂しさ!キュンとする瞬間、R.シュトラウスならではの音楽に魅了されます。

 

シューマン/交響曲第2番第3楽章を思わせるような、真摯に歌われる第2楽章、リズミカルなヴァイオリンが聴かれる第3楽章も素敵な音楽ですね。アリョーナ・バーエワさんの見事な演奏、さすがはR.シュトラウス、という素晴らしい音楽でした!

 

 

 

後半はいよいよその問題のハンス・ ロットの交響曲第1番です。

 

第1楽章。冒頭からの朗々と吹かれる金管の主題が素晴らしい!恰幅の良い、スケールの大きな音楽に魅了されます。ブルックナーを基本に、ワーグナー、マーラーを感じさせる音楽が次々出てきて、本当に聴き応えがあります。

 

第2楽章。第1楽章に引き続き、大いに惹き付けられる音楽。コラール風の音楽が聴かれますが、これはブルックナーにオルガンを師事したハンス・ロットならではなのでしょう。途中、ティンパニが印象的に叩くシーン。コルンゴルトの交響曲に似た雰囲気の響きまで聴こえてきました。

 

第3楽章。冒頭からマーラー/交響曲第1番第2楽章そっくりの旋律!これが私がCDで聴いた時に、聴いてはいけないものを聴いてしまった、と感じた旋律です。さらには、マーラー/交響曲第2番第5楽章、第5番第3楽章の旋律まで出てきました!最後は賑やかなウィンナ・ワルツのようで大盛り上がりに。パーヴォさんはリズムやテンポの処理が抜群に上手くて、非常に雰囲気のある演奏!

 

第4楽章。どこまでたっぷり展開するんだろう?と思わせるような巨大な楽章です。途中から出てくる主題は、ブラームス/交響曲第1番第4楽章に似ているとプログラムにありましたが、トライアングルが効果的に入るので、私にはスメタナの音楽を思わせ、チェコの古城のような壮麗さの印象を持ちました。

 

後半に第1楽章冒頭の主題と、さきほどの第4楽章の主題が絡み合って展開する音楽は真に感動的!フーガも見られてブルックナー/交響曲第5番第4楽章を思わせるめくるめく展開と盛り上がり。そして最後は何と、ワルキューレのラストのように終わりました!

 

 

何この素晴らしい交響曲!!!そしてパーヴォさんとN響の怒濤の名演!!!

 

 

いや~、凄すぎました!私はブルックナーとマーラーの交響曲の後を継ぐ、ドイツ・オーストリア系の最高傑作は、かの偉大なる指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラーが作曲した交響曲第1番と思っていますが、強力なライバルが出現した印象です。

 

そして、この交響曲はウィーン音楽院の卒業制作で審査員から嘲笑われた、とプログラムにありましたが、その理由がよく分かりました。決して拙いのではなく、その時代では新し過ぎたんだと思います。途中、既にマーラーよりも先を行っているような調性の音楽も随所で聴かれました。正しく天才作曲家による渾身の作品。世に出るのが早過ぎたために、ハンス・ロットはこの1曲だけで天に召されてしまったんですね…。

 

 

そして、マーラーの交響曲とのこと。私が20年以上前にCDで聴いた時には、マーラーがハンス・ロットの旋律を勝手に拝借したのではないか?と思ってショックを受けましたが、その後に知ったのですが、マーラーはウィーン・フィルの演奏会でこの曲を取り上げようとしたり、高く評価していたそうです。

 

つまり、マーラーはハンス・ロットの旋律を「いただき!」と言って拝借したのではなく、この偉大な天才の友人の生きた証を、自らの交響曲の中で永遠のものとしたかったのではないか?と感じました。特に今日、第3楽章で聴こえてきた旋律は、マーラー/交響曲第2番第5楽章の中では、静かな転換点とも言うべき、とても重要な場面の音楽です。

 

 

それにしても、パーヴォさんとN響の演奏のまた見事なこと!パーヴォさんが腕を大きく振って、恰幅の良い音楽を作っていたのが印象的でした。N響は1月のステファヌ・ドゥネーヴさんとトゥガン・ソヒエフさんとのコンサートも絶好調で抜群に良かったですが、今日はもう圧倒的な名演だったと思います!特に大活躍だった金管が見事でした!

 

 

 

ということでハンス・ロットの交響曲の実演を大いなる感動のもと聴くことができ、過去の勘違いも解けて、めでたしめでたしでした!

 

さて、今回のN響を聴けなかった方に朗報です。今年9月に読響の定期演奏会でセバスティアン・ヴァイグレさんがハンス・ロットの交響曲を取り上げます!さらに会場はサントリーホール!今回聴き逃した方にはチャンスです!私も聴きに行く予定。めちゃめちゃ楽しみです!