(NY旅行記の続き)素晴らしいミュージカル、COME FROM AWAYを堪能しましたが、この日の観劇はこれで終わりません。夜は久しぶりにMETにオペラを観に行きました。

 

演目は?これが奇しくも、昨日に藤原歌劇団の公演の記事を書いたラ・トラヴィアータです!(笑)

 

 

THE METROPOLITAN OPERA

Giuseppe Verdi

La Traviata

 

Conductor: Yannick Nézet-Séguin

Production: Michael Mayer

Set Designer: Christine Jones

Costume Designer: Susan Hilferty

Lighting Designber: Kevin Adams

Choreographe: Lorin Latarro

 

Violetta: Diana Damrau

Alfredo: Juan Diego Flórez

Germont: Quinn Kelsey

Annina: Maria Zifchak

Frora: Kristin Chabez

Giuseppe: Marco Antonio Jordao

Baron Duophol: Dwayne Croft

A Messenger: Ross Benoliel

Dr. Grenvil: Kevin Short

Gaston Scott Scully

 

 

 

 

(写真)上からメトロポリタン・オペラ、デビッド・ゲフィン・ホール(ニューヨーク・フィルの本拠地)、デビッド・H・コーク・シアター(ニューヨーク・シティ・バレエの本拠地)

 

 

METは久しぶりに来ましたが、ガラス越しに内部がよく見えて、外から劇場を眺めること自体が一つの芸術作品を見るよう。右にデビッド・ゲフィン・ホール、左にデビッド・H・コーク・シアター、とリンカーン・センターの素晴らしい空間です。

 

 

第1幕。幕には大きな紫のバラが描かれています。序曲に演技が付きました。第3幕のシーンでヴィオレッタの死の病床。ヴィオレッタが旅立ち、アルフレードがヴィオレッタに涙ですがります。そして?そのアルフレードに寄り添う一人の女性が?アンニーナではなさそうですが、フローラでしょうか?

 

場面が変わっての夜会の舞台は緑青の色を多く使ったエキゾチックで重厚なもの。人々の衣装が原色の上下で非常にカラフル。ヴィオレッタは奔放な雰囲気。ドゥフォール男爵がブルーの服でとても立派です。 

 

ヴィオレッタのラストの2連発の歌はシャンパンを飲みながら。このような演出はありそうで、あまり見られないかも?ペーター・コンヴィチュニーさんの演出を彷彿とさせます。ヴィオレッタは途中でヤケになったようにグラスを放り出し、ベッドカバーまでも投げ出しますが、最後はベッドの上で後悔の念を見せたように思いました。ディーナ・ダムラウさんのヴィオレッタの歌はもう完璧!難しい高音の旋律を楽々と歌っていました。

 

 

第2幕。背景に蔦のような装飾が入りましたが、第1幕と変わらない舞台配置。アルフレードは昨年のロッシーニ/リッチャルドとゾライデでは、最高の歌唱で魅了されたファン・ディエゴ・フローレスさん。ヴァルディを聴くのは初めてですが、冒頭のアリアなど、さすがの素晴らしい歌!歌としては完璧ですが、ロッシーニのイメージが強すぎるので、ヴェルディで聴くと何となく不思議な感じがします。

 

ジェルモンが出てきて、娘が結婚すると歌う場面では、何と!アルフレードの妹が黙り役として出てきました!このパターンは初めて観ました。その妹は伏し目がちで、ヴィオレッタに対して申し訳なさを醸し出していました。老ジェルモンが家長として支配する家族を思わせるシーン。第1幕の序曲のシーンに出てきた女性は、アルフレードの妹だったんですね。

 

ジェルモンが出てきてからのヴィオレッタとのやりとりは大変な聴きもの。“Morrò La mia memoria”と歌う場面はダムラウさんがベッドを大きく叩いて、理不尽さを強調。これまで聴いた中で一番激しい“Morrò”でした!そしてアルフレードに“Amami, Alfredo”と歌う場面はオケとともに、これでもかとタップリ盛り上がっていましたが、逆に盛り上がり過ぎて、なかなか泣くところまではいかない印象。この辺りのバランスは本当に難しい。

 

 

第2場は場面転換なしにそのまま始まりました。これはあまりないパターンでかなり効果的。つまり第1場も第2場も結局は同じ、ということを表わしていて、これはなかなかにして意味深長です。バレエはかなりエキゾチックでアグレッシブな踊り。大いに盛り上がりました!

 

身持ちが固くないと侯爵を占う前の音楽は、ヤニック・ネゼ・セガンさんの溜めた表現の指揮のユーモア!さあ、あなたの占いはどうなるんでしょうか?凄いのが出ますよ~!というニュアンス(笑)。セガンさんお見事!

 

この場のヴィオレッタもかなり力強い女性の印象。儚くたおやかなヴィオレッタとは一線を画す演出でした。私がこれまでに観てきたマリエッラ・デヴィーアさんやエヴァ・メイさん、そして昨日の愛すべき砂川涼子さんのヴィオレッタとは異なり、ディーナ・ダムラウさんの場合はこのような強いヴィオレッタの方が合っているのかも知れません。

 

 

第3幕も同じセットの舞台。序曲ではアルフレードの妹が結婚ドレス姿で幻想的に出てきて、それを背景にヴィオレッタがベッドで苦しむ演出が付きました。アリア“Addiio del passata”は1番目は繊細、2番目は力強く歌いましたが、最後はディーナ・ダムラウさんが化粧台に強く当たって終えました。

 

ジェルモンが出てくるところでは、併せて再びアルフレードの妹が出てきて、最後は一番最初に観た序曲のシーンの再現となりました。最後、スクリーンが降りてきて紫のバラを映して終了。

 

 

 

さすがMETならではのきらびやかな舞台、歌手もビッグネームが揃ったゴージャスな公演でした!しかしその一方で、正直なところ、昨日の藤原歌劇団までの感動には至らなかった公演という印象も持ちました。これはもはや好みの問題なんだと思いますが、ヴィオレッタのディーナ・ダムラウさんとアルフレードのファン・ディエゴ・フローレスさんの歌が、歌としては素晴らしくて完璧なのですが、そこまで心に響いて来なかった感じです。もう当たり前のように、さらっと完璧な歌として聴こえてきた、という印象。歌が上手すぎるというのも困りものなのかも?

 

そして、アルフレードの妹を登場させた演出が、コンセプトは面白かったものの、どうして出したのか?を説得力を持って伝わってこなかったことも一因です。せっかくのアイデアなのに、1+1が3や5にならないもどかしさ。そういう点では、藤原歌劇団の公演の粟國淳さんの演出は、よく考えられていてさすがだな、と改めて思ったところです。

 

そして、もしかすると、十分な感動が得られなかった、これが一番大きな原因だったのかも知れませんが、METは歌劇場としては、やはり箱が大き過ぎる印象です。座席数は3,800席!NHKホールと同じくらいの広さです。座席にもよりますが、とにかく広くて歌が拡散してしまって、歌手の歌声が、迫力を持って聴こえてこないのです。

 

その点、我らが新国立劇場の1,800席というのは絶妙な座席数。一番端っこの奥の席でもそこそこ聴こえて、それなりの観客数を確保できるので、ちょうどいい大きさのように思います。新国立劇場を建設する時にもっと大きくすべき、という議論があったとも聞きますが、この席数をキープしたのはアーティスト・フレンドリー、そして観客フレンドリーで、とてもいい判断だったと思います。

 

METを観に行く時には、頑張って高い値段の、より舞台に近い席を取った方がいいようです。めっちゃ高いですが(笑)。そして、むしろMETのライブビューイングがいかに素晴らしいか、ということを図らずも体感したところです。(なお、私の観たこのラ・トラヴィアータの舞台も、2月にMETライブビューイングで上演予定です。上演のレベルとしてはハイ・クオリティなので、ぜひご覧になられてみてください。)

 

 

と、いろいろな感想を持ちましたが、結論として、素晴らしい公演だったことには変わりはありません。カーテンコールは大いに盛り上がり、特にヤニック・ネゼ・ネガンさんは大きな拍手が送られていて、とても人気があると思いました。メトロポリタン・オペラはヤニック・ネゼ・セガンさんと新しい時代に入ります。大いに期待しましょう!

 

 

(写真)公演後、リンカーン・センターの前に出ていたクリスマス・ツリー