藤原歌劇団のヴェルディ/ラ・トラヴィアータの公演を観に行きました。目的は何と言っても、砂川涼子さんのヴィオレッタです!

 

 

藤原歌劇団公演

(東京文化会館大ホール)

 

ヴェルディ/ラ・トラヴィアータ

 

指揮:佐藤 正浩

演出:粟國 淳

 

ヴィオレッタ:砂川 涼子

アルフレード:西村 悟

ジェルモン:牧野 正人

フローラ:丹呉 由利子

ガストン:松浦 健

ドゥフォール:東原 貞彦

ドビニー:田島 達也

グランヴィル:坂本 伸司

アンニーナ:牧野 真由美

ジュゼッペ:有本 康人

使者:相沢 創

召使:市川 宥一郎

 

合唱:藤原歌劇団合唱部

バレエ:竹内 菜那子/渡邊 峻郁

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

 

 

砂川涼子さんのヴィオレッタは過去に一度観たことがあります。2013年の神奈川県民ホールでの公演。あのミミやパミーナ、ミカエラを歌って最高の砂川涼子さんが、ヴィオレッタを歌うとは?とやや驚いた公演で、ドキドキしながら観ましたが、そこはやはり砂川涼子さん。素晴らしいヴィオレッタでした!あれから6年が経ち、どのように成熟したのか、本当に楽しみです。

 

 

第1幕。序曲はパリの街並みを背景に、ヴィオレッタがリュクサンブール公園を歩いているような情景。しかし暗い舞台なので、あたかも他の人びととともに、死へ向かう途上のようにも見えます。舞台の左に置かれた大きなヴィオレッタの肖像画が印象的。

 

序曲が終わると、舞台には人々の集う大きな絵画が配され、とても綺麗。右側には沢山の肖像画も。砂川涼子さんは紫のドレスで登場。今日も美しい!歌も一声目から引き込まれます。私は砂川涼子さんの声が本当に好きなんです。

 

さすがは藤原歌劇団の公演。前半はリズミカルに進み、安心して観ることのできる、本当に素敵な舞台です。アルフレードの西村悟さんも一本気なところがよく出ていて、真っ直ぐな歌でいい感じ。「幸福なある日のこと」の歌もとても良かったです。

 

ラストのヴィオレッタの2連発の歌は砂川涼子さんのドラマティックな歌!いつも綺麗に丁寧に歌う砂川涼子さんが、思い切って声を張り上げて迫力の歌!限界を超えたような魂の歌に大いに魅了されました!

 

この場面はコロラトゥーラを得意とする歌手が楽々歌うのもいいですが、スリリングな歌の方が感銘は深いのかも知れません。

 

 

第2幕。背景の大きな絵は風景画になりました。自然の中の雰囲気。アルフレードの「燃える心を」から「ああ何と言う後悔」。西村悟さんの情熱的な歌がいい感じ。ジェルモンが出てきてからの、ヴィオレッタとの掛け合いは最初から最後まで魅了されっぱなしで、ずっと涙流していました…。

 

牧野正人さんは昨年の道化師のトニオが人間味溢れて素晴らしかったですが、今日はジェルモンということで、固めの歌い回しをしていたように感じました。

 

中盤のヴィオレッタの「私は死んでしまいます」の歌。砂川さんの情感溢れる歌が本当に心に沁みます。第1幕も良かったですが、第2幕は一番声質に合っているのではないでしょうか?ジェルモンが去って、アルフレードが出てきてからの「私を愛してね、アルフレード」。砂川さん、たっぷり歌ってめちゃめちゃ感動的!ほぼ号泣…。

 

最後のジェルモンの「プロヴァンスの海と陸」から「いや、咎めているのではない」は牧野さん、さすがの貫禄の歌。最高の第1場!

 

 

第2場は背景の大きな絵がヌードの絵になりました。どうやら、今回の粟國さんの演出は絵にヒントがあるようです。ジプシーと闘牛士のバレエも気が利いていて、とてもいいですね。砂川涼子さんは今度は赤のドレスで登場。

 

アルフレードがヴィオレッタに札束を投げつけた後の合唱は藤原歌劇団合唱部の素晴らしさ。その後の砂川涼子さんの「アルフレード、アルフレード」の歌!ほとんど天使が歌っているかのごとく、慈愛に満ちた印象的な歌でした。

 

 

第3幕。序曲では再び冒頭のヴィオレッタの肖像画の絵。病床のヴィオレッタ。砂川涼子さんはか弱い声で死の間際のヴィオレッタの雰囲気をよく表していました。当たり役のミミの時とも何かが違う役作り。

 

そしてアリア「さようなら、過ぎ去った日の美しく楽しい夢よ」。切々と歌って心に響き、決して迫力で押している訳でもないのに、どうしてこんなにも迫ってくるのか?やはり砂川涼子さんの歌には特別なものがあります。アルフレードが出てきてからの二重唱も素晴らしい。

 

そしてラストのヴィオレッタのシーン。何と、舞台が暗くなり、アルフレードたちが闇に消え、ヴィオレッタが冒頭の絵に別れを告げて、舞台奥に両手を広げて、十字架のポーズで去って行くシーンで終わりました!これはいったい!?

 

私はヴィオレッタが現世での想いを自画像に託して、天使に転生するシーンと見受けました。きっとその前のシーンでヴィオレッタがアルフレードに自身の肖像画の入ったメダルを託して見守ると歌うので、それをラストの「不思議な力がみなぎる」のセリフや音楽に掛け合わせて、視覚化したのでは?粟國淳さんのセリフや音楽を踏まえたと思われる、素晴らしいラストでした!

 

 

砂川涼子さんのヴィオレッタ、やはり素晴らしかったです!そして6年前に観た時よりも、余裕を持って歌っているように見えました。長時間、砂川涼子さんの歌・声を聴いていられて至福の時間。粟國淳さんの演出も本当に見事。この方の演出はオーソドックスを基本としつつ、それだけではない何か一味違う素敵なもの。

 

藤原歌劇団の公演はイタリア・オペラの真価を常に伝えてくれて本当に好き。正統派・王道という言葉が似合います。これからもお世話になります!

 

 

 

(写真)それにしても素晴らしいのはヴェルディの音楽。ヴェルディの故郷、ブッセートのヴェルディ像。