会期末ぎりぎりとなりましたが、昨年の積み残しの美術展、ムンク展を観に行きました。

 

(ムンク展は年末の12月22~24日の3連休に観に行くこともできたのですが、無理はしませんでした。その理由は、NY旅行の前に風邪をもらいたくないから。旅行のリスク・マネジメントは行く前も重要です。)

 

 

もともとムンクは大好きな画家で、過去の記事にも何度か出てきますが、以前ノルウェーのオスロに行ったことがあり、今回の作品のほとんどを提供しているオスロ市立ムンク美術館も観に行きました。2010年のことなので、記憶がおぼろげになっていますが、中にはよく覚えている作品も。久しぶりにムンクをまとめて観て、非常に感銘を受けました!特に印象に残ったのは以下の作品です。

 

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/マドンナ

※購入した絵葉書より

 

有名なムンクのマドンナ。私にとっては一言で言うと、憧れの絵です。マリア様が受胎した瞬間を描いている絵、そしてそのマリア様もいつかは死して朽ちていくことを表している絵と言われていますが、ありとあらゆる女性的なものを感じて大好きな絵。描かれ方や色の異なる3枚の絵が並んでいて大いなる感動でした!

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/森の吸血鬼

 

みなさまはこの絵には何を感じますか?ギャー!吸血鬼に吸われて怖い~!でしょうか?(笑)私はこの絵には、例え相手の女性が吸血鬼であってもすがりたい。男性の言いようのない孤独感を感じます。

 

さらには、女性に血を吸われてしまいたい衝動。自分の血が女性の体の中に入っていくことで得られる一体感や安心感すらも感じます。2017年にバイロイト音楽祭で観たカタリーナ・ワーグナーさん演出のワーグナー/トリスタンとイゾルデは、第2幕で血を介した男女の高まりをよく表わしていました。

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/二人、孤独な人たち

 

この絵は、「別離」というタイトルの別の絵(絵葉書なし)とともに観たくなります。その絵では、同じ白い服の金髪の女性が胸を張って悠々と男性から去って行くように見えますが、その金髪の髪は男性になびき、男性は胸を押さえて、手が血の色に染まって、下の植物まで血の色。男性の別れのショック、女性への未練や忘れられない想いを表わした絵のように感じます。上の写真の絵は、あたかもその前のシーンのよう。

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/叫び

 

言わずと知れたムンクの叫び。やはり圧倒的な迫力で迫ってくる絵です。この絵は本人が叫んでいるのではなく、自然の叫びに反応している絵とも言われています。つまり、いかに自然に対して、あるいは周囲に対して敏感になっていたのか?ということ。感受性が豊か、というよりは精神的に追い詰められている印象。奥に見える2人の男性も気になります。

 

なお、オスロに行った時に、ムンクがこの絵を描くきっかけとなる体験をしたところ、と推測される場所にも行きました。橋の上の絵のように見えますが、丘の上に向かう道の途中です。橋の欄干のように見えるものは、道の手すりでした。

 

 

 

 

(写真)ここがムンクが叫びを描くきっかけとなった体験をしたところと言われている場所とそこからの風景。記念のプレートもありました。

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/絶望

 

この絵も実物を観ると、もの凄いインパクトで迫ってきます。うねる地平や空。やはり奥に2人の男性を配しています。こういう構図で見ると、友人のいない孤独感も感じますし、2人の噂話に怯えているようにも見え、何もかも疑心暗鬼になっているのかも知れません。ただ、タイトルが絶望なので、男性たちのことは一切目に入らず、内なる絶望に打ちひしがれている、と見た方がいいのかも知れません。

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/星月夜

 

この絵には何となく、つい最近見た既視感が!タイトルを見て納得です。ニューヨーク近代美術館で観たゴッホ/星月夜と同じタイトル、雰囲気が似ていました。ただし、ゴッホの絵に比べると星は控えめにまたたき、手前には人が3人見えます。ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンの戯曲をイメージして描かれた作品とも言われているそうです。

 

 

(参考)フィンセント・ファン・ゴッホ/星月夜(ニューヨーク近代美術館)

 

 

 

(写真)エドヴァルド・ムンク/太陽

 

一見して非常に印象的な絵。絵の具が塗り重ねられて、おびただしい光の噴出を感じる太陽。手前には雄大なフィヨルドの大地。光が当たっているところはフェルディナンド・ホドラーの山の絵のようにピンクで表わします。太陽の前の物体のようなものは何でしょうか?神様かな?とも思いましたが判別はできず。最後の方でこの絵を観て、何だかホッとしました。

 

 

 

その他、絵葉書はありませんでしたが、印象に残った絵は以下の通りです。

 

◯エドヴァルド・ムンク/夏の夜、渚のインゲル

ムンクの妹インゲルの絵です。価値あるもの、守らなければいけないものを描いているかのよう。白い服のインゲルと周りの暗めの色の石の対比、繊細な女性と大きな石との対比。若い頃に母親や姉を亡くしたムンク。まるで大きな石(人生における困難)からインゲルを守っていこう、という決意表明のよう。

 

◯エドヴァルド・ムンク/メランコリー

この絵も「別離」と同様に、男性の哀愁漂う表情が印象的な絵です。想いを寄せる女性が他の男性とこれから船出をする様子が、奥に小さく描かれています。

 

◯エドヴァルド・ムンク/夏の夜、声

この絵はいくつかのバージョンがあって、私はオスロで観た絵がとても印象に残っています。もしかするとムンクの絵で最も好きな絵かも知れません。懐かしく拝見しました。

 

◯エドヴァルド・ムンク/接吻

男女がキスをしている絵ですが、両者の顔の境界がよく分らなくて、ほとんど顔が溶け合っているような絵です。狂おしいほどの愛情、世間から隔絶された秘めたる愛を感じます。ニューヨーク近代美術館でルネ・マグリットの有名な”The Lovers”(男女が顔を布で覆ってキスをしている絵)を観たことを思い出しました。

 

◯エドヴァルド・ムンク/すすり泣く裸婦

全裸の女性がベッドの上ですすり泣いている絵です。表情はほとんど分かりません。身体と足の構図が見事。輪郭が太くジョルジョ・ルオーを思わせます。非常に印象的な絵。

  

◯エドヴァルド・ムンク/ニーチェ

ムンクは若い頃からフリードリヒ・ニーチェの著作に感銘を受け、その思想に傾倒したそうです。構図は叫びと同じですが、堂々としていているニーチェ。瞑想しているようにも見えます。

 

◯エドヴァルド・ムンク/黄色い丸太

森の中に黄金色の丸太を配した絵です。極端な遠近法で描かれていて、非常に印象的。黄金色の丸太が神々しいばかり。

 

 

 

ムンク展、沢山の素晴らしいムンクの絵を観ることができ、大いに感動、大満足の美術展でした!最終日の前日ということで、非常に混んでいましたが、それでも絵のオーラを十分に感じることができました。

 

NY旅行でも、ニューヨーク近代美術館で”The Storm”、メトロポリタン美術館で”Cypresses in Moonlight”という絵を観ましたが、沢山の画家の絵がある中で、ムンクの絵にはなぜか惹かれます。これからもいろいろな作品を観て行ければと思います。

 

 

 

(以下、2010年にオスロに行った時の写真です。)

 

 

(写真)オスロ市立ムンク美術館。GWに行ったのですが、不思議なことに、ここに来た瞬間だけ、雪が降りました!ムンクの絵にはノルウェーの気候も影響しているのかも知れません。

 

 

(写真)オスロ市内のメイン・ストリート、カール・ヨハン通り。ノルウェーの国旗がいい感じ。

 

 

(写真)ヴィーゲラン公園。人間の彫刻が沢山あって見応え十分でした。

 

 

(写真)夕ご飯を食べたグラン・カフェ。ムンク展では「グラン・カフェのヘンリック・イプセン」というリトグラフの展示もありましたが、そのグラン・カフェです。

 

 

(写真)ノーベル平和センター。ノーベル賞と言えばスウェーデンですが、平和賞はノルウェーから。ダライ・ラマ法王のノーベル平和賞受賞のスピーチの映像が流れていて感動的でした。

 

 

(写真)オスロ・コンサートホール。ユッカ・ペッカ・サラステ/オスロ・フィルのコンサートを聴きましたが、メインの曲目はショスタコーヴィチ/交響曲第8番。ムンクの「叫び」や「絶望」の絵を観た後に聴くショスタコ8番には、非常に響くものがありました。