新国立劇場のニューイヤー・バレエの公演を観に行きました。火の鳥&ペトルーシュカのストラヴィンスキーのバレエが楽しみです!

 

 

新国立劇場ニューイヤー・バレエ

 

(1)レ・シルフィード

 

音楽:フレデリック・ショパン

振付:ミハイル・フォーキン

(主な出演)

出演:小野絢子、井澤駿ほか

 

(2)火の鳥

 

音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

振付:中村恩恵

(主な出演)

火の鳥:木下嘉人

娘:米沢唯

リーダー(指導者):福岡雄大

王子:井澤駿

 

(3)ペトルーシュカ

 

音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

振付:ミハイル・フォーキン

(主な出演)

ペトルーシュカ:奥村康祐

バレリーナ:池田理紗子

ムーア人:中家正博

 

指揮:マーティン・イェーツ

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

 

 

(写真)公演リーフレットはレ・シルフィードより

 

 

 

私は新国立劇場のバレエはあまり観に行っていなくて、昨年11月の不思議の国のアリスを観たのが5年ぶり。しかし、ストラヴィンスキーの火の鳥とペトルーシュカには目がなく、特にペトルーシュカが大好きなミハイル・フォーキンの振付、ということで観に行きました。

 

 

 

(1)レ・シルフィード

 

このバレエは名前はよく耳にするので、観たことのあるバレエだとずっと思っていましたが、いざ舞台を観て初めてだと判明(笑)。

 

牧歌的でロマンティックなバレエで、素直に美しいものを観た、という感動を覚えました。シルフィード(空気の精)ということで、女性陣のコスチュームの背中にちょこんと付いている羽根がとても可愛いですね。

 

よく言われている話ですが、新国立劇場のバレエのコールドは素晴らしい。20人で輪っかになったり、十字になったり、いろいろな形で群舞を踊りますが、ピタッと決まって本当に見事。なお、年末年始のNY旅行では、このコールドに匹敵する素晴らしい踊りを観ましたが、その時にも即座に新国立劇場のコールドのことを思い浮かべました。そのことは、また後日の旅行記で。

 

音楽はショパンのプレリュードやノクターン、ワルツ、マズルカのオケ版。1つ点気付いたのが、長調の曲ばかりの中、1曲だけ、ワルツ第7番嬰ハ短調だけが短調の曲。この曲は短調長調短調で構成される曲ですが、短調の場面では男女2人のうち女性がつれない踊り、長調の場面では甘い踊りで描き分けられていました。この曲の魅力を改めて見せてくれた感じで、とても印象的でした。

 

 

 

(2)火の鳥

 

実は行く前までは、火の鳥も2013年にも観たミハイル・フォーキンの振付だとてっきり思っていましたが、よく見たら振付は「中村恩恵」さんとあります。しかも、火の鳥のストーリーもオリジナルにアレンジしたもの!いったいどんな舞台になるのでしょうか?

 

 

冒頭は「娘」が寂しく一人でいるところ、反乱軍のリーダーに男もののジャケットを着せられます。3人の黒尽くめの踊り手が登場。この3人は後に出てくる火の鳥をリフトしたり、周りで踊ったりしますが、3人ということで、文楽の人形遣いをイメージしていると思いました。一人だけ腕を出していて、人形遣いで1人だけ顔を出せる主遣いを思わせます。

 

火の鳥が登場。何と、男性です!フォーキン振付での女性のイメージがあったので、男性とは意外。しかも、赤が目立つ衣装でヒールを履いています!これは一体?実はNY旅行でキンキーブーツというミュージカルを観たのですが(記事は後日)、その主役の一人のドラッグクイーンに似ていました(笑)。明らかに性とは何か?を問いかける内容の振付です。中村恩恵さん、やりますね!

 

王子の対抗勢力の反乱軍のみなさんが登場。反乱軍のみなさんもしぐさだったり、スカーフを頭に巻いていたり、オネエっぽい雰囲気。この中に先ほど男装した主役の「娘」が入っていますが、何となくウエスト・サイド・ストーリーのエニボディの立ち位置を思わせます。

 

王子と娘の踊りはしだいに打ち解けていく感じが印象的。王子役の井澤駿さん、娘役の米沢唯さんの踊りが素晴らしい。反乱軍たちはソッポを向いています。娘に普段は男にさせておきながら、こういう時だけ女にさせて、さらに自分たちは見て見ぬふりをして。組織の勝手さ・非情さを感じました。

 

カッチェイの凶悪な踊りの音楽の場面は迫力の踊り。流れるような音楽に、くるくる回る踊りを付けて、音楽と踊りがよく馴染みます。娘はだんだんと女を意識し、組織を裏切って王子を守りますが、火の鳥の羽根はお前にかすめ取られた、と王子に拒絶され、反乱軍にも裏切り者にされて切ない…。その後には、ウエスト・サイド・ストーリーのアニタがジェッツに行くシーンのような、かなり大胆な振付が付きました。

 

戦いは激しさを増し、最後は火の鳥によって全て焼き尽くされてしまいました。しかし、火の鳥は倒れている娘と入れ替わり、娘は生き返ります!まるで火の鳥が、希望や救いの象徴として娘を選び出したかのよう。フェニックス(不死鳥)、という言葉が思い浮かびます。

 

娘はその後、皆が死んでしまい自分だけ生き残る中、沈痛な踊りを踊りますが、終曲が聞えてくると、希望を見いだします。ここはそれまでの悲愴的な音楽と重なる形で終曲が出てくるので非常に感動的!今回、火の鳥の曲は、1910年版ではなく1945年版を使用していたと思いましたが、ここ場面のために1945年版を使ったのか?と思えるくらいにめちゃめちゃ感動的!悲しみの中に湧き起こる希望をよく表していました。

 

 

最後は希望で終わりますが、中村恩恵さん、そこに凄いメッセージを込めてきましたね!あの完成度の高いフォーキンの振付がある中で、今回の新しい振付を敢えて入れてきただけのことがある、非常に勇気のいる、意欲的なストーリーです!時代を汲み取って、新機軸を取り入れることこそ芸術に他なりません。新しいチャレンジに大いに唸りました!

 

 

 

(3)ペトルーシュカ

 

ペトルーシュカはミハイル・フォーキン振付の舞台です。このフォーキン振付のペトルーシュカは、昨年パリ・オペラ座の舞台の映画を観て、大いに魅了されました。今日はどうでしょうか?

 

(参考)2018.1.26 映画/バレエ・リュス(パリ・オペラ座バレエ・リュス100周年記念公演)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12348223544.html

 

 

冒頭からカーニバルの雑踏、様々な人が行き交うサンクト・ペテルブルクが美しい。最初は2人の踊り子のお捻りを巡っての諍いが楽しい。そして「私のお客なの!」と2人のジプシーの女性の諍いと、それを収める太っ腹な商人の男性客。気前のいい男は同性として見ていて気持ち良いですね。

 

ペトルーシュカ・バレリーナ・ムーア人の3人が登場。音楽に合わせての足技が見事。続いて3人が演技を見せますが、ペトルーシュカ役の奥村康祐さん、なよなよ感や手が自由にならない感じを抜群に表わしていました!バレリーナの池田理紗子さんの人形の機械的な踊りも見事。外側にピンと張った足、頭を手でパタパタ押さえるポーズが雰囲気出ていました。

 

場面は変わり、ペトルーシュカの部屋。奥村康祐さんのペトルーシュカは閉塞感、服従感、絶望、虐げられる不幸な心境などを見事に表す踊り。恋するバレリーナが入ってきても、気持ちを上手く伝えられないもどかしさ。切なさが素晴らしい!

 

続いてムーア人の部屋の場面は中家正博さんのムーア人のダイナミックな踊り。バレリーナとの絡みやペトルーシュカが乱入してのドタバタも見事な連携でした。ムーア人がペトルーシュカやバレリーナほどのインパクトのある動きが付いていないのも分るような気がします。

 

再び広場、まず乳母たちの踊り。乳母たちがくるくる周りながら上着を脱ぐシーンは、音楽にものの見事に合って素晴らしい!熊使いのシーンはユーモラスでいいですね。ガオー!って奴がくるよ~と予告する子役の演技も可愛い。余談ですが、この熊使い、沢山食べる熊のエサ代が賄えるほど、お捻りをもらえるのでしょうか?前から思っていた素朴な疑問?

 

さきほどの気前の良い商人とジプシー2人の3人組が出てきて、ジプシーの女性2人はタンバリンで魅せます。御者たちがコサックのように豪快に踊る場面では、雪が降ってきて美しい絵!ますます盛り上がるカーニバルは動物たちの被りもの隊も入ってきて楽しい!

 

そしてペトルーシュカがムーア人にサーベルで追い回され、最後バサッとやられてしまいます…。バレリーナは頭を抱えるも、そのままムーア人に付いていってしまいます。選択肢のない切なさ。最後はペトルーシュカの幽霊が出てきて、見世物小屋の親方に大きく訴えた後に死んでしまい、幕となりました。

 

 

ものの見事なペトルーシュカ!新国立劇場のバレエのレベルの高さをまざまざと見せつけるような素晴らしい舞台でした!中でもペトルーシュカの奥村康祐さんとバレリーナの池田理紗子さんは、独特な踊りと動きを見事に表わして傑出していました!パリ・オペラ座で観た時のクレールマリ・オスタさんにも魅了されましたが、池田理紗子さんはもう完璧では?難しい人形の動きの中、軸が全くブレないのが凄い!

 

そして、今回の公演を観て、強く感じたのは、(ペトルーシュカの原作うんぬんはさておき)ペトルーシュカとムーア人によるバレリーナの取り合い、ではなく、これは弱者の物語、ということです。ペトルーシュカは見世物小屋の親方に言われた通りに動く一方、部屋では何とか逃げ出せないかと探したり、親方の「絵」に訴えたりしますが、これは権力者や上司などに直接意見を言えない弱者、望まない服従やパワハラを感じます。

 

バレリーナも切羽詰まると頭パタパタのポーズで一杯いっぱいになりますが、まるでそうした病気を抱えているかのよう。ムーア人の描かれ方も然り。そして、結局はそれらの弱者同士で殺し合いとなり、親方は弱者が殺されても知らんぷり。人形は単に置き換えられているだけ、中身は人間そのもの、弱者の厳しい現実を表わしている。そのように感じました。

 

何度か観ているフォーキン振付のペトルーシュカで今回特にそう感じたのは、奥村康祐さんや池田理紗子さんの迫真の踊りで伝わってきたことにもよりますが、その前に火の鳥を観たことも大きかったです。今回の振付の火の鳥でも弱者・被害者が出てきますが、ペトルーシュカと火の鳥の物語に、単にストラヴィンスキーが作曲したバレエというだけでなく、似通ったテーマを持たせて、一方には希望(火の鳥)、一方には絶望(ペトルーシュカ)のラストとして対比させた、とてもよく考えられたプログラムだと思いました。

 

 

 

ということで、新国立劇場の2019年のニューイヤー・バレエ、めちゃめちゃ楽しめました!私は普段、バレエをそんなに観ている訳ではありませんが、古典的な振付の良さや奥深さ、新しい振付の気概や挑戦など、いろいろなことを感じることのできた、大変貴重な機会でした。今後の新国立劇場のバレエにも期待します!