アレクサンドル・ヴェデルニコフさんがN響に客演するオール・ロシア・プロのコンサートを聴きに行きました。アンドレイ・コロベイニコフさんのスクリャービンも非常に楽しみです!
NHK交響楽団第1900回定期演奏会Apro.
(NHKホール)
指揮:アレクサンドル・ヴェデルニコフ
ピアノ:アンドレイ・コロベイニコフ
スヴィリドフ/組曲「吹雪」―プーシキン原作の映画から
スクリャービン/ピアノ協奏曲嬰ヘ短調
グラズノフ/交響曲第7番ヘ長調「田園」
1曲目はスヴィリドフの吹雪。この曲は今月Bプロに客演されるウラジーミル・フェドセーエフさんが得意にしていて、過去にフェドセーエフさんが振った実演も聴いたことがあります。ロシアの雰囲気に溢れ、とても楽しく聴き応えのある曲、非常に楽しみです。
冒頭の「トロイカ」は金管と鈴による印象的な音楽。これこれ!と唸りました。久しぶりに聴きますが、トロイカの雰囲気がよく出ていますね。ヴェデルニコフさんは冒頭のフォルテの後、小太鼓をごくごく弱音にして、ピンと張りつめた雰囲気をよく出していました。最後の幻想的なチェレスタがまたいい!
その後も、哀愁のワルツ、勇壮な行進曲などが続いていき、最後はまたトロイカの音楽が帰ってきます。めっちゃ楽しい!この雰囲気のある素敵な演奏を聴いて、一気にロシアのモードになりました。
2曲目はスクリャービンのピアノ協奏曲。第1楽章。ときめく第1主題、そして軽やかな第2主題に魅了されます。アンドレイ・コロベイニコフさんのピアノは強いところと弱いところ、巧みなニュアンスで自由自在の表現、完全に自家薬籠中という感じの見事なピアノでした!オケもいつもながらに見事、ヴェデルニコフさんは最後の方で、低弦を強調していたのが印象的でした。
第2楽章。この楽章はピアノが変奏を弾いて行きますが、コロベイニコフさんのニュアンスに溢れるピアノだとイメージがどんどん膨らみます。オケと最初のピアノによる変奏は、男性が女性を真摯に思う、そっと見守る愛情のよう。次はテンポと音量が上がって、弾けるようなピアノ、愛の喜びを伝えます。
そしてその次が悲しい別れの音楽(私は恋人との死別を連想しました)。そして最後は、恋人のことを思い出して一人寂しく踊る切ない音楽を連想します。しかし、最後はオケの伴奏が帰ってきて、二人して踊る音楽。神が宿るかのような素晴らしい瞬間!ここは魂が既にこの世を離れ、二人が天国で再会して踊るイメージを持ちました。コロベイニコフさんのイメージを膨らませてくれる素晴らしいピアノに涙涙です。
第3楽章。ここは決然とした第1主題とめくるめく第2主題が見事。最低音から最高音までを走り回るスクリャービン独特のアルペジオも、コロベイニコフさんは見事にピタピタっと決めます。
(参考)スクリャービン/ピアノ協奏曲嬰ヘ短調の第3楽章
https://www.youtube.com/watch?v=DexY8l3LT1A (12分)
※アイスランド交響楽団の公式動画より。ヴィキングル・オラフソンさんのピアノ。私の大好な第2主題は1:37と4:52と7:12から。8:01の高まる場面もめっちゃ好き。スクリャービンのピアノ協奏曲は残念ながらなかなか演奏されません。この動画を見れば分るように、プロのピアニストにも難しすぎるからですね(笑)。今回のコロベイニコフさんの実演は本当に貴重でした。
私はここの第2主題が好きで好きでたまらないのですが、コロベイニコフさんは3回出てくるところを(2回目はオケと)、全て異なる表情付けで弾かれていて、本当に魅了されました!この方はテクニックも完璧ですが、表現力がまた凄い!オケもチャイコフスキーの和声進行のように金管が盛り上がるところなどを始め、充実の響き。最後も大きく決めました!ブラボー!
何この素晴らしいピアノ!!!最高のスクリャービン!!!
観客も凄いものを聴いた雰囲気に満ち満ちていて、大いに湧いていましたね。カーテンコールでの拍手の途中、私が心の中で祈っていたことはただ1つ。
「アンコールもスクリャービンやって!お願い!」
そして、そんな願いが通じたのか、アンコールはスクリャービン/エチュードop.8-12。きた~!
そのアンコールがこれまた神演奏!速い流れの中でのハッとさせるような強調、テンポを自由自在に動かして、あたかも即興的に弾いているかのよう。この超絶技巧の難曲をここまで揺らしてニュアンスを込めて弾くなんて、どんだけ凄いんでしょうか?
アンドレイ・コロベイニコフさん、今日の凄すぎるピアノ協奏曲とエチュードを聴いて、当代随一のスクリャービン弾きだと確信しました。リサイタルもぜひ聴いてみたいです!
(追伸)なお、今日2日(日)の2日目のアンコールはエチュードop.42-5だったそうです。そんな予感がしていたんです。これも聴きたかった!
後半はグラズノフの7番。先月にラザレフ/日フィルの素晴らしい8番を聴いたばかりですが、今日は7番。複雑な8番に比べると、比較的平易な曲。私にはその点がやや聴き応えを感じない部分のある曲です。実演で聴くとどうなるのでしょうか?
(参考)2018.11.10 アレクサンドル・ラザレフ/日フィルのグラズノフ&ショスタコーヴィチ
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12418191652.html
第1楽章。この楽章はベートーベンの田園交響曲を連想させる音楽が出てきてとても面白い。冒頭のオーボエの旋律は、田園の冒頭の旋律の五線紙を逆さまにしたかのよう(笑)。N響の木管セクションのみなさんが大活躍、行進するような旋律も楽しいです。ベートーベンの田園と同様、田舎の自然の風景、という印象です。
第2楽章。ここは金管によるコラール風の荘厳な音楽。私は田舎の厳粛なお葬式のイメージを持ちました。途中、ハープが印象的な半音階の音楽はグラズノフならでは。バレエ音楽「ライモンダ」でも同様の場面がありましたね。
第3楽章。ここは賑やかな音楽。田舎の祭りの情景を思い浮かべました。ここの後半の盛り上がっていく旋律は、スクリャービン/ピアノ協奏曲の第3楽章第2主題と似ているような気がします。これはプログラミングの妙として意図的に組んだのでしょうか?
第4楽章。これまでの3つの楽章の音楽が組み合わさって、形作られる楽章です。ちょっと前に聴いた旋律がどんどん出てくるので楽しい!タネーエフに影響されて対位法を駆使した音楽、と解説にありましたが、ほとんどブルックナーを思わせる第8番に比べると、この第7番はまだ構築感が緩やかで遊びがある感じがします。
第3楽章でも出てきますが、ここで木管により軽やかに奏でられる「ドシラ~ラシド~シラソ~ラ~シ~♪」の旋律は、カリンニコフの1番の第4楽章のリズミカルな旋律を思わせてめっちゃ好き。最後は冒頭の主題が金管により荘厳に鳴らされて終わりました!
ヴェデルニコフさんの指揮でこの曲の実演を聴いて、私はフェデリコ・フェリーニの映画「アマルコルド」を思い出しました。フェリーニが子供の頃の思い出を象徴的に描いたノスタルジックな映画。副題こそ「田園」ですが、グラズノフが望郷の念を交響曲としてギュッと詰めた音楽、という印象を持ちました。ヴェデルニコフさんとN響の素晴らしい演奏でした!
アレクサンドル・ヴェデルニコフさんとアンドレイ・コロベイニコフさんとN響のコンサート、めちゃめちゃ楽しめました!スクリャービンはさておき、ロシアの定番の曲が入っていない、どちらかと言うと渋めのプログラムのコンサートでしたが、こういうコンサートは幅が広がるので大いに歓迎です。それをこんなにも見事に演奏してくれて、本当に嬉しい限り。素晴らしい演奏をありがとうございました!
そして、土曜の夜の公演、ということで、終演後にはちゃんとウォッカも飲んできましたよ~(笑)。ロシア・プロのコンサートの後のウォッカ。もはやルーチンの域に達しているかも?(笑)
(写真)そのウォッカ。いつものストリチナヤに、スクリャービンに敬意を表してモスコフスカヤもいただきました。素晴らしい演奏に、終演後の歓談もかなり盛り上がりました。ウォッカにビールに赤ワインも入ったので(笑)、コンサートを聴いた感想は半分くらい飛んでしまいましたが…、それでもいろいろなことが印象に残った、感動のコンサートでした!