(私は1日1記事を目安にしていますが、この記事はクラシック音楽を愛する東京の1人のクラシック音楽ファンとして、早めにアップしたかったので、急ぎ書きました。)
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団の来日公演、ラフマニノフとチャイコフスキーのコンサートを聴きに行きました。
サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団
(文京シビックホール大ホール)
指揮:ニコライ・アレクセーエフ
ピアノ:ニコライ・ルガンスキー
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調
今回のサンクトペテルブルク・フィルの来日公演は、何種類かのプログラムがありますが、私はロシアもので揃えたプログラムを聴きたかったので、今日のチケットを取りました。
今回の来日公演は、当初は芸術監督・首席指揮者のユーリ・テミルカーノフさんが指揮をされる予定でした。しかし、健康上の理由により、来日が不可能となり、ニコライ・アレクセーエフさんに交代となりました。
会場で配られたお知らせにも「健康上の理由により」とだけ書かれていましたが、情報によると、テミルカーノフさんは先日お兄さんを亡くされたばかりで、深い悲しみの中にあり、指揮をすることが難しくなった、と伺いました。指揮者・芸術家とは感受性が豊かでナイーヴなもの。テミルカーノフさんにはご親族がお亡くなりになったことにお悔やみ申し上げますとともに、テミルカーノフさんご自身の快方を心より祈っております。
そして、この急場を救っていただいたニコライ・アレクセーエフさんには大いに感謝の念を表わしたいと思います。今日の指揮、本当に楽しみです!
前半はラフマニノフのピアノ協奏曲2番。ピアノ独奏はニコライ・ルガンスキーさんです。今年2月に聴いたチャイコフスキーは圧巻でした!今日のラフマニノフはどうでしょうか?
第1楽章。冒頭のルガンスキーさんのオクターブの和音!このシンプルな音の進行に、この方は一体どれだけのニュアンスを込めるんだろう?と痺れました!そして加わるオケは、ほの暗く土っぽい音色、ラフマニノフにピッタリです。
ルガンスキーさんは打鍵が強く、ハッキリと主旋律や内声部を浮き立たせる、非常に聴き応えのするピアノ。また、テンポも揺らして、ほとんどジャズのよう。ラフマニノフはこういう演奏の方が雰囲気出ますね。
後半の盛り上がりでは、いよいよオケが全開になって、その迫力の響きに圧倒されますが、さらにそれを突き破ってピアノを響かせるルガンスキーさん!その後のピアノと弦や木管との絡み、夢のようなホルンもいい感じ。最後もビシッと締めて終わりました。素晴らしい第1楽章!
第2楽章。ここはルガンスキーさん、夢見心地ではかなく漂うピアノ。それに合わせる弦の何とも言えない内向的な音色に魅了されます。途中の盛り上がりに向けては、ピアノがかなり走り、盛り上がりでは大見得を切って、全く見事なピアノ。
第1主題が戻ってからは、ピアノに付き添うピュアで透明感のある弦!まるで白い天使が舞い降りたかのよう!その天使に見守られながらのピアノの幸せな旋律。素敵なピアノと弦の演奏に、大いなる感動、もう涙涙でした…。
第3楽章。冒頭のアクロバティックなピアノは、1音目でなく、2音目にアクセントを入れて、これまで聴いたことのないような響き、まだ開放され切っていないような印象です。その後のオケとのやりとりもいちいち魅了されます。
第2主題の途中、ピアノとオケがごくごく弱音になる場面がありますが、ここの弦の弱音のニュアンスがもう抜群!アレクセーエフさんの素晴らしい指揮にまたしても涙涙…。ラストはチャイコフスキーの時にも見せた、ルガンスキーさんにしかできない高速和音の連打でもの凄い迫力!そのままの勢いで逃げ切りました!
ラフマニノフの2番はよく演奏されるので、これまで20回は実演を聴いていると思いますが、間違いなく生涯最高の演奏!ルガンスキーさんの圧巻のピアノ!オケはひたすらラフマニノフに見事にはまる音色と響き、アレクセーエフさんの的確なニュアンス付け。やはり本場は凄かったです!
ルガンスキーさん、主催者から渡された花束を、第2楽章で好演のフルートの女性奏者に渡して素敵ですね。アンコールのチャイコフスキー/子守歌も叙情的で見事な演奏でした。
後半はチャイコフスキーの5番。大好きな曲ですが、ロシアのオケの来日公演では、これまでショスタコーヴィチばかり聴きに行っていたので、チャイコフスキーを聴くのは本当に久しぶり。今日はどうでしょうか?
第1楽章。運命の動機は弱々しい入り。大いに意気消沈しているニュアンスが出ていました。ラフマニノフに続いて、オケの灰色を思わせる音色がチャイコフスキーにピッタリはまります。速すぎずにしっかりと進むテンポがいい。途中の長調の2回の盛り上がりはそこまでは突出させず、最後の短調を大きく盛り上げて、よく考えられた指揮。アレクセーエフさん、いいですね!
第2楽章。冒頭のホルンが見事な演奏。そして、並走する弦がニュアンスに満ちて素晴らしい!途中の盛り上がりまでは比較的インテンポで進み、最後の盛り上がりはたっぷり!サンクトペテルブルク・フィルの金管の素晴らしさに惚れ惚れとします。非常に聴き応えのある第2楽章。
第3楽章。ワルツの音楽ですが、ロシアのオケで聴くと、ウィーンの舞踏会のイメージはなく、トルストイの「アンナ・カレーニナ」や「戦争と平和」での夜会のシーンを思い出します。軽やかというよりは、しっとりと重厚さを感じたワルツでした。
第4楽章。第1楽章の運命の動機が長調で始まりますが、オケをたっぷり鳴らして、第1楽章との対比を見せていました。その後のトゥッティで盛り上がるシーンは、金管がズバーンと鳴り響いてど迫力!
その後は走る演奏と走らない演奏に分かれますが、今日は走らない演奏。弦がザクザクと刻んで進んで行って、とても聴き応えあり。私はこちらの方が好みです。運命の主題が帰ってくるラストは、オケが大迫力で高らかに鳴り響いて、素晴らしい聴きもの!最後はたっぷり目のダダダダ!で終わりました。
いや~素晴らしいチャイコフスキー!やはり本場のオケで聴くチャイコフスキーは格別です!ニコライ・アレクセーエフさんはさすがマリス・ヤンソンスさんに師事された本格派の指揮。曲想を高めるいい感じのニュアンスも随所で付けていましたが、オケを良く鳴らして充実の響き。最近聴いたこともあり、どこか同じく本格派の小泉和裕さんの指揮に似ている印象です。
そしてアンコールは何とエルガー/エニグマよりニムロッド!始まった時には、ロシアのコンサートなのに、なぜにニムロッド?と思いましたが、すぐに、これはテミルカーノフさんのお兄さんを追悼するために、そして、そのことに大きな精神的ショックを受けたテミルカーノフさんを励ますために演奏されたもの、と理解しました。
ゆっくり弱音から始まり、壮大に盛り上げ、オケのみなさんの万感の想いが込められたニムロッド。大いなる感動、もう涙でボロボロ…。音楽って、本当に素晴らしい!
ニコライ・アレクセーエフさんとニコライ・ルガンスキーさんとサンクトペテルブルク・フィルのコンサート、心の底からの感動を覚え、めちゃめちゃ素晴らしかったです!レニングラード・フィル時代からの伝統を保っていると言われるサンクトペテルブルク・フィル。そのラフマニノフとチャイコフスキー、さすがの演奏でした!
なお、この週末は金曜のN響、土曜の日フィルと続いて、プロコフィエフ→グラズノフ→ショスタコーヴィチ→ラフマニノフ→チャイコフスキーとロシア祭りとなりました(笑)。東京はコンサートが沢山あるので、こんな楽しみ方もできます。
ところで。代役のニコライ・アレクセーエフさんがこの急場を救ってくれて、さらに見事な指揮で、ニムロッドまで付いて、逆に貴重な思い出にすらなった感のある今回の公演でしたが、心ないクラオタたちは、やれ指揮者が代わったのに払い戻しがないだとか、その告知が遅すぎるだとか、相変わらず、ちっちゃなことでピーピーギャーギャーわめき散らしています。ほとほとウンザリ…。
大変な思いをしているのはあんたたちでなく、テミルカーノフさんでしょ?どうして、そこに同情の気持ちを持てないの?
公演中止になるかも知れないピンチを救ってくれたのはアレクセーエフさんでしょ?どうして感謝できないの?
本当に酷い限りで辟易しますが、今日、文京シビックホールに行って私はホッとしました。大多数のクラシック音楽のファンは、テミルカーノフさんのキャンセルを惜しみつつも、アレクセーエフさん指揮のサンクトペテルブルク・フィルの演奏を大いに楽しんで、ニムロッドに涙を流して、大きな拍手で応えて、存分に楽しんでいたのです。帰りの観客のみなさまの笑顔や涙がそれを物語っていました。
今日は日曜日ということもあって、ご家族連れやカップルで来ている観客が多かったように思います。きっと家族団らんの夕ご飯の食卓や帰りのデートのディナーも大いに盛り上がったことでしょう。
要するに、今回のテミルカーノフさんのキャンセルの件をブログやツイッターでことさら騒ぐような、心ない哀れなクラオタはごくごく一部、ということです。
私はこういう時にこそ、慌てず騒がず、しっかり応援するのが、本当のクラシック音楽のファン(注:クラオタではない)だと思います。感動のニムロッドが終わった後、客席から代役を見事に務められたアレクセーエフさんに花束が渡され、アレクセーエフさんは非常に感激の面持ちで受け取られていました。花束渡した方、GJ!会場の観客の気持ちを代弁するような、素晴らしい花束でした!