上野の国立西洋美術館で始まったルーベンス展を観に行きました。

 

 

ルーベンスは今年の年初に、ウィーンの美術史美術館でルーベンスの企画展を観たばかりです。数々の名画に唸らされましたが、再びルーベンスを観ることのできる喜び!非常に楽しみです。

 

(参考)2018.1.2 ウィーン観光その6(美術史美術館/ルーベンス展)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12352334457.html

 

 

 

まず入口近くで、今回の美術展に関連した映像が流されていました。アントワープのまちが映し出され、ノートルダム大寺院が紹介され、キリストの三連祭壇画と見事な聖母被昇天(アッスンタ)の絵が出てきました。

 

アッスンタはこの夏のイタリア旅行でいろいろな画家によるアッスンタを観ることができ、昨年の「聖アントニウスの誘惑」「バベルの塔」に続き、私のテーマの絵となりました。ノートルダム大寺院の素晴らしいアッスンタを壮麗なオルガンの響きを背景に観て、映像ではありますが、非常に感動しました!ウィーンで観たルーベンスのアッスンタとの違いを見比べるのも楽しい。

 

ベルギーはブリュッセルには行きましたが、アントワープはまだ行けていません。いつかぜひ現地で観てこようと思います。

 

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/聖母被昇天(アッスンタ)

※購入した絵葉書より。なお、アッスンタは映像のみで、絵の展示はありません。

 

 

 

ルーベンスと言えばさきほどの映像のようにアントワープ、フランドルの画家、というイメージがありますが、1600年から1608年までイタリアで過ごしています。今回の美術展は、ルーベンスをいわばイタリアの画家として紹介する試み、と案内にありました。特に魅了されたのは以下の絵です。

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/聖アンデレの殉教

 

十二使徒のひとりアンデレは、ギリシャでローマ総督アイゲアテスによって磔にされてしまいます。アンデレは磔にされながらも2万人に人々に教えを説き、怒った人々が総督を脅し、十字架から外されることになりました。しかしアンデレはそれを拒み、祈りを唱えたところ、その瞬間に天から光が差して、光とともに彼の魂は昇天した、という物語の絵です。

 

必ずしもたくましい訳ではないアンデレの堂々たる態度、それに献身的に寄り添う人々。正しいことを貫き通す勇気、それに報いる宗教。とても大きな絵で、非常に感銘を受けました!

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/天使に治療される聖セバスティアヌス 

 

古代ローマの指揮官セバスティアヌスは、密かにキリスト教を信仰したことをとがめられ、弓兵たちによって処刑されたが、生き延びて、のちに撲殺されます。この絵では民間伝承にもとづき、天使たちが彼を介抱している姿を描いています。

 

聖セバスティアヌスは痛々しいですが、温かい慈しみを感じる絵。ルーベンスの肉体の白色にはハッとさせられます。聖セバスティアヌスと言えば、クラシック好きに馴染みのあるのはドビュッシー/聖セバスティアンの殉教。昨年4月にシルヴァン・カンブルラン/読響の素晴らしい演奏を聴いたこと、そして今月始めにシプリアン・カツァリスさんによる珍しいピアノ版を聴いたことを思い出しました。

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/パエトンの墜落

 

ルーベンスらしい光差す大胆な構図、人間や馬の躍動感溢れる絵です。少年パエトンは太陽神である父の戦車で天を駆けようとしましたが、パエトンに馬を御す力はありませんでした。戦車は大地を猛火に包みながら暴走し、やむなくユピテルは雷でパエトンを打ち殺してしまいます。

 

17世紀の美術理論家ベッローリは「絵筆の熱狂」という言葉でルーベンスの絵画を説明したそうですが、正にそのことを思わせる、躍動的な筆致が素晴らしい。

 

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/ヘスペリデスの園のヘラクレス

 

ヘスペリデスの園から黄金のリンゴを持ち帰る英雄ヘラクレスを描いた絵です。画面いっぱいに堂々たる体躯のヘラクレスを描いた構図が素晴らしい。

 

ワーグナー好きがこの絵を観ると、ラインの黄金で、ファーゾルトが黄金のリンゴを持ったフライアを連れ去るシーンを連想するのかも(笑)。

 

 

 

(写真)ペーテル・パウル・ルーベンス/ヴィーナス、マルスとキューピッド

 

この絵は、ヴィーナスの色香の虜となって武装を解くマルスの姿を通して、愛による戦争の抑止を示す伝統的な寓意表現がなされている、ということでした。ヴィーナスがキューピッドに授乳をしている愛情に満ち溢れた絵、とても惹き込まれます。

 

 

 

その他、以下の絵が気になりました。

 

 

◯ペーテル・パウル・ルーベンス/セネカの死

セネカはネロ帝の家庭教師を務めましたが、後に陰謀への加担を疑われて自殺を強要されてしまいます。静脈を切り毒を服しても死にきれず、湯に身体を沈め、血を流れやすくしてようやく死に至った、ということでした。

 

無実のセネカの口惜しい表情がよく伝わってくる絵でした。セネカと言えば、昨年11月に観たモンテヴェルディ/ポッペアの戴冠で、東京オペラシティコンサートホールの客席を十字架に見立てて、静かに去っていったセネカが印象的。

 

◯ピエトロ・ダ・コルトーナ/懲罰を受けるヘラクレス

友人を殺した罰として、女王オンファレのもとで奴隷として働くヘラクレスを描いている絵です。ヘラクレスは棍棒を取り上げられ、糸紡ぎの道具を渡されています。ヘラクレスの意気消沈した様子が見事に描かれていました。昨年のクラーナハ展の、デレデレの(笑)ヘラクレスとは好対照の表情。

 

◯ペーテル・パウル・ルーベンス/聖ゲオルギウスと龍

リビアの王の娘がくじに当たり、龍のいけにえにされそうになった時、たまたま通りかかったキリスト教徒の聖ゲオルギウスが龍に立ち向かい退治した、その時の絵です。非常に立派な聖ゲオルギウスが印象的。

 

◯ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ/獅子を引き裂くサムソン

ディムナの町へ急ぐサムソンの前に獅子が立ちはだかりましたが、サムソンは獅子の口を両手で掴んで素手で引き裂いたそうです。こんなにも怪力を誇るサムソンも、デリラの美貌にはメロメロになるのが面白いところ。

 

◯ペーテル・パウル・ルーベンス/聖ウルスラの殉教

ブリタニア(イギリス)の王女ウルスラとその一行は、ローマ巡礼の帰途、ケルンでフン族に襲われて皆殺しにされてしまいますが、そのシーンを描いた絵。細やかな描写で意外にルーベンスっぽくない一枚でした。

 

◯ペーテル・パウル・ルーベンス/サウロの改宗

キリスト教徒を弾圧していたサウロは、軍を進める途中、突然聖なる光に撃たれ、「サウロ、サウロ、なぜ私を迫害するのか」というキリストの声を聞き、それがきっかけとなって改宗したそうです。塗られた絵具の質感に魅了される見事な絵でした。

 

◯ルカ・ジョルダーノ/ヨーロッパの寓意

王冠を抱く女性の周囲に、ヨーロッパを象徴する多種多様な持物(アトリビュート)-馬、豊穣の角、学芸に関する品々や哲学を象徴するフクロウなど-がちりばめられ、左奥には、古典詩の伝統を象徴するふたりの男性が控えている、と解説にありました。女性達の描かれている前景の静と、雲など後景の動の対照的な描かれ方が見事な絵でした。

 

 

 

ルーベンス展、非常に観応えがありました!大胆な構図、躍動する活き活きとした筆致、本当に見事な絵の数々。来年1月20日(日)まで上野の国立西洋美術館にて。お勧めの美術展です!