国立新美術館のピエール・ボナール展を観に行きました。

 

 

まずは、最初の案内のパネルから。ボナールのおさらいです。

 

◯ピエール・ボナールはナビ派の一員としてパリで活躍(ナビはヘブライ語の「預言者」に由来)

◯批評家フェリックス・フェネオンから「日本かぶれのナビ」と称されるほど、日本美術に愛着

◯生涯の伴侶はマルト

◯しばしばノルマンディー地方や南フランス地方に滞在

◯身近な主題を描き続けたボナールは、目にした光景の鮮烈な印象を絵画化することに専心 

 

 

この展覧会は、時代別にボナールの沢山の絵画が展示されていて、大変魅了されましたが、特に気になったのは以下の絵です。

 

 

 

◯ピエール・ボナール/フランス=シャンパーニュ

※購入した絵葉書より

 

1891年にパリの街中に貼り出されて話題となり、ボナールが芸術家としてのキャリアをスタートさせるきっかけになった絵です。シャンパンの勢いをよく表している素敵なポスター!シャンパンの勢いにタジタジになっているような女性の表情もチャーミングでいいですね。

 

シャンパンは香りをより楽しめるよう、現代ではほとんどフルート型グラスですが、私はクープ型グラスで楽しむシャンパンも結構好きです。あ~もうっ!シャンパン、飲みたくなってきました!(笑)

 

 

 

 

◯ピエール・ボナール/黄昏(クロッケーの試合)

 

浮世絵の影響が出ている絵で、この絵をアンデパンダン展に出したところ、批評家フェリックス・フェネオンから「日本かぶれのナビ」と評された絵です。今年が没後100周年のドビュッシーが交響詩「海」の表紙に使ったのも浮世絵ですが、浮世絵がフランスの芸術に与えた影響というのは本当に多様ですね。また、浮世絵の素晴らしさを感じとったところが、フランスの素晴らしさだと思います。

 

 

 

 

◯ピエール・ボナール/化粧台

 

色あざやかで質感の豊かな化粧台の絵ですが、ポイントは鏡に映っている裸婦でしょう。ボナールの絵には、しばしば裸婦と浴槽がセットで描かれていますが、これは伴侶のマルトが神経障害を和らげるため、一日に何度も入浴する、水治療法に関係していると理解されているそうです。この絵も、そんな日常を切り取った絵、なんだと思います。

 

 

 

 

◯ピエール・ボナール/静物:皿と果物(桃を盛った鉢)

 

ボナールは静物の絵もいろいろ描いていますが、これはその中でも特に印象に残った絵。桃色が非常にあざやかです。同じ静物でも、セザンヌの果物の絵とは、全く違いますね。

 

 

 

 

◯ピエール・ボナール/猫と女性 あるいは 餌をねだる猫

 

解説では、マルト、猫、食卓という、おなじみの主題を同時に描いている絵、ということでした。とても温かさやほっこり感を感じる絵ですが、マルトの前に猫の餌と見られるお魚があるので、実は猫の行儀が悪かったので、餌をお預けくっている絵なのかも知れません?あるいは、マルトの前に猫の餌を置いているので、マルトはひいては女性は猫である、ということを示しているのかも知れません???

 

ボナールの絵は、ボナールが後年に「不意に部屋に入ったとき一度に目に見えるものを描きたかった」と語っているように、フェルメールなどの絵のように寓意を持たせた絵、ということでもないようですが、それでもいろいろと想像力を働かせてみるのは楽しいものです。

 

 

 

 

◯ピエール・ボナール/アンティーブ(ヴァリアント)

 

ボナールは晩年、南仏のコート・ダジュールのル・カネに居を構え、風景画を沢山描きました。この作品もその中の一作。コート・ダジュールのアンティーブを描いた作品で、後年に影響を受けた印象派の雰囲気も感じられます。

 

コート・ダジュール!ニースやカンヌ、モナコのある海岸沿いの一帯ですね。引退したら、バカンスで2ヶ月くらい滞在して、毎日ボーっとして過ごしてみたいです。無理か!(笑)

 

 

 

その他、絵葉書はありませんでしたが、以下の絵に惹かれました。


 

◯ピエール・ボナール/双心詩集(ポール・ヴェルレーヌ)

◯ピエール・ボナール/ロンゴスの田園詩ーダフニスとクロエ

双心詩集はあまりにも官能的な絵で、昨年3月に三菱一号館美術館のオルセーのナビ派展で観たボナールの絵を思い出しました。ヴェルレーヌの詩集を読み返してみたくなります。ボナールはヴェルレーヌの享楽的な世界観を繊細な描線で翻訳し評価され、その結果、ダフニスとクロエを依頼されたそうです。ダフニスとクロエの絵もとても印象的な絵でした。

 

 

◯ピエール・ボナール/桟敷席

オペラ座の桟敷席に2組の夫婦がいる絵です。2組の夫婦は観劇中にもかかわらず、倦怠感を醸し出し、場の空気は重苦しく見える、と解説にありました。確かに、観劇を楽しんでいる、という風には見えない絵。舞台というよりは、2組の夫婦の間に何か微妙なものがありそうな、そんな印象を持ちました。

 

 

◯ピエール・ボナール/トルーヴィル、港の出口

ボナールがこんな色遣いをするんだ!と驚かされる、まちが黄色で輝いて描かれている、非常に印象的な絵です。ホテルやカジノが建ち並ぶトルーヴィルは、印象派の画家が好んだリゾートということです。

 

複数のカンヴァスに同時に取り組んでいたボナールは、非常に制作の遅い画家。数年に渡って描き続けることはしばしばで、ときには10年以上の時を経て、再び着手された作品もある、と解説にありました。そして、この絵は正に、約10年の歳月をかけて完成された絵だそうです。

 

 

◯ピエール・ボナール/水の戯れ あるいは 

◯ピエール・ボナール/歓び

この2つの大きな絵は、オレンジ色の縁取りの中、神話のようなめくるめく世界が展開されていて、非常に魅了されました!ボナールの絵は身の回りの風景を切り取った素朴な絵が多いので、趣の異なるこの2枚は大変印象に残りました。

 

 

◯ピエール・ボナール/花咲くアーモンドの木

冬が終わりを告げるとともにピンクがかった白い花を咲かせるアーモンドの木。自ら筆をとることのできなくなっていたボナールは、甥に頼んで画面左下の緑色の部分を黄色で覆い尽くしたそうです。ボナールの遺作に相応しい、ボナールの魂の飛翔を感じさせる感動的な絵でした。

 

 

 

最後の方に年表がありました。おさらいですが、特に気になったのは以下の項目でした。

 

◯1889年 ランス産のシャンパン「フランス=シャンパーニュ」の広告コンクールで最優秀賞を受賞し、初めて絵の仕事で収入を得る。

◯189年 国立美術学校で開催された「日本の版画展」に感銘を受ける。日本美術に傾倒し、クレポン(ちりめん浮世絵)を買い集めるようになる。

◯1892年 アンデパンダン展に、日本美術からの影響が顕著な《黄昏(クロッケーの試合)》や《格子柄のブラウス》を出品。それを見た美術評論家のフェリックス・フェネオンはボナールを「日本かぶれのナビ」と評する。

◯1893年秋 パリの街角でマルト・ド・メリニーと出会う。ふたりは恋人となり、その後も生活を共にするようになる。

 

◯1925年 マルトと正式に結婚する。この時になってボナールは、マルトの本名(マリア・ブルサン)と年齢を初めて知る。(なお、結婚式の後まもなく、マルトの友人でボナールの愛人だったルネ・モンシャティが自殺)

→出逢ってから32年、この時、ボナール58歳、マルト56歳です。これには非常に驚きました!

 

 

 

ピエール・ボナール展、とても楽しめました!これだけボナールの絵を集中して体系的に観ることのできる美術展は初めてだそうです。決して派手さはないものの、じっくり向き合うと、しみじみと感じ入る絵の数々。12月17日(月)まで国立新美術館にて。どうぞお楽しみに!

 

(なお、たまたまかも知れませんが、館内は非常に寒かったので、1枚多めに持って行くことをお勧めします。)