METのライブビューイングで、ロッシーニのブッファの傑作、オリー伯爵を観に行きました。
METライブビューイング(東劇)
ロッシーニ/オリー伯爵
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
演出:バートレット・シャー
オリー伯爵:ファン・ディエゴ・フローレス
女伯爵アデル:ディアナ・ダムラウ
イゾリエ:ジョイス・ディドナート
ランボー:ステファン・デグー
養育係:ミケーレ・ペルトゥージ
ラゴンド夫人:スサネ・レーズマーク
オリー伯爵は過去に一度だけ観たことがあります。2014年の藤原歌劇団の公演。アントニオ・シラグーザさんが無双して、藤原歌劇団の女性陣が素晴らしかった公演。再び楽しい舞台が観れる喜びで一杯です。
(参考)2014.2.2 ロッシーニ/オリー伯爵(藤原歌劇団)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-11769772388.html
今回の演出はとある舞台での上演、という設定です。第1幕、黙り役の大道具の方が舞台を杖でコンコンと叩いて音楽が始まりました。これはリュリが杖で指揮をしたことへのオマージュ?序曲はキラキラしたフルートが楽しい!
オリー伯爵は聖者に化けて、夫が十字軍で遠征して寂しさを感じている女性たちを、慰めるフリをしてよろしくしてしまう、稀代のペテン師です。冒頭、民衆が「隠者様」「聖者」とありがたみを連呼する歌が可笑しいのなんの。いやいやいや、その人はペテン師なんですが?(笑)。
その聖者に変装したオリー伯爵が登場。ファン・ディエゴ・フローレスさんの歌、この夏の旅行のロッシーニ/リッチャルドとゾライデでも素晴らしい歌を体感しましたが、このオリー伯爵でもハイD連発で本当に素晴らしい!その後の早口言葉の歌のシーンも楽しい。”Bon, Bien, Bien, Bon”とリズミカルに歌いながら、祈る人たちから貢ぎものを巻き上げていきます。
ディアナ・ダムラウさんのアデル登場。嘆きの歌はしっとりと、オリー伯爵から「愛の炎を燃やせ!」とそそのかされて、その後はコロラトゥーラの素晴らしい歌!この方の歌はほとんどシンセサイザーのように正確です。
最後、オリー伯爵の正体がばれてしまって「一度撤退して、また出直そう」と歌うラストのコンチェルタート!もうウキウキの素晴らしい歌!内容は本当に馬鹿馬鹿しいけど(笑)、超楽しい!ロッシーニ・クレシェンドきた~!舞台も大混乱で、めちゃんこ楽しいのですが、自然と涙が流れます。素晴らしい第1幕のラストでした!
幕間のインタビューはまずファン・ディエゴ・フローレスさん。何とこの日の上演の開演8分前に、始めてのお子さんが産まれた!ということで、ルネ・フレミングさんから祝福されていました。喜劇を演じるには肩の力を抜くことが大切、とのことです。最後、ペルー、南米に挨拶した後、日本のみなさんに、と挨拶されていました。(この公演は2011年4月の公演です。)
続いて演出家のバートレット・シャーさんのインタビュー。このオペラはロッシーニがフランスの笑劇、モリエールの伝統を参考にして書いているので、それの雰囲気を大切にした。悲劇の演出よりも喜劇の方が桁違いに難しい、とのお話でした。
休憩後はMETの今後の上演作品の紹介。R.シュトラウスの大好きなカプリッチョが流されて大いに興奮!マドレーヌの最後の歌のシーンに感動しました。今一番観たいオペラかも知れません。
続いて、ジョイス・ディドナートさんとディアナ・ダムラウさんのインタビュー。ディドナートさん、同じ超絶技巧のロッシーニとヘンデルの違いを聞かれて、ロッシーニはリズムが定型的だが、ヘンデルは変化があって技巧的でより難しい、とのお話でした。
さて、第2幕。冒頭に舞台のシャンデリアが上がっていく演出が付いて、まるでMETの劇場の客席のよう。アデルは嵐の中、オリー伯爵に追われた巡礼の修道女たちを助けましょう、と言って、城の中に入れて保護し、立派な行いを自画自賛します。しかし、その巡礼は変装したオリー伯爵たちでした(笑)。
巡礼を代表してアデルにお礼の面会をするのは修道女姿のオリー伯爵(笑)。ちょこちょこした仕草や、都合が悪くなると両手を合わせて祈りのポーズでごまかすところとか、もう可笑しいのなんの!(笑)しばし2人の高音の2重唱が続きますが、大変な聴きものでした。
地下室のワインを見つけて大騒ぎするオリー伯爵たちと、それを怪しんで睨みを利かせるラゴンド夫人のシーンも可笑しい。ワインを讃える歌詞では、トゥーレーヌとアキテーヌの地名が出てきます。アキテーヌは現代のフランスワインでは出てきませんが、ボルドーのことですね。
イゾリエが伝令でアデルの兄たちが帰ってくるのを伝えますが、イゾリエの「(突然の帰りで)驚きは危険となることも」の歌詞に、アデルがあらまあ!という表情に。今年1月に観たオッフェンバック/美しきヘレナの第2幕で、ヘレナの浮気を捕まえた夫のメラネスが、紳士たるもの帰宅の前には事前に連絡するものだ、と逆にとっちめられるシーンを思い出して、大笑いしてしまいました。
アデルとイゾリエが寝室でいい感じのところに、オリー伯爵が夜陰に紛れて乱入します。ここは3人で歌いながら、ベッドの上でゆっくり動いて相手がどんどん変わって、エッチなのも含め、いろいろなポーズを決めて可笑しい(笑)。METの客席も大盛り上がりでした。これはもしかして、歌舞伎のだんまりを参考にしたのかも知れません。
そして、大好きな3重唱「ここからも武器(ラッパ)の音が聞える」。この3重唱を歌って、もしかして世界最高の組み合わせの3人の歌。素晴らしかったです!最後はオリー伯爵が退散して、十字軍が帰ってくる中、アデルとイゾリエが結ばれて幕。こんな馬鹿馬鹿しいストーリーなのに、最後はなぜか爽やかなエンディングを迎えるのもどこか可笑しい(笑)。とても楽しい公演でした!
METライブビューイングのロッシーニ/オリー伯爵、めちゃめちゃ素晴らしかったです!常に動きのある楽しい演出で、バートレット・シャーさんの演出は別の作品でも観てみたいと思いました。歌手では初めて聴いたジョイス・ディドナートさんは歌に演技にとても惹かれました。いつか生で観てみたい。ファン・ディエゴ・フローレスさんはやはり喜劇が一番似合っているように感じました。もう抜群に上手い。ロッシーニの楽しさを存分に堪能できた、素晴らしい公演でした!