素晴らしかった24日(月・振)のラトルさんとツィメルマンさんとロンドン交響楽団のバーンスタイン/不安の時代。そのバーンスタインが指揮者として、生前最も得意としたマーラーの交響曲第9番を聴きに行きました。

 

 

ロンドン交響楽団

(みなとみらいコンサートホール)

 

指揮:サー・サイモン・ラトル

 

ヘレン・グライム/織り成された空間(日本初演)

マーラー/交響曲第9番ニ長調

 

 

(参考)201.9.24 サー・サイモン・ラトル/クリスチャン・ツィメルマン/ロンドン交響楽団のバーンスタイン/不安の時代

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12408007757.html

 

 

 

私はマーラーの9番は3番と並んで大好きな曲。マーラーを得意としたレニーが特別な曲として位置付けていたこともありますが、純粋に古今東西の交響曲の中で、最高傑作の有力候補だと思うからです。

 

マーラー研究の第一人者で作曲家の柴田南雄さんも、「これ(9番)によって彼の創作活動の画竜点睛が成った」「マーラーにおける交響曲の完結であり、頂点である」「どの楽章どの主題も、高い音楽的表現力を保有しており、平易凡俗の影はまったくない」と述べられています。

 

中でも、もちろんあの第4楽章は素晴らしいですが、第1楽章には、人間はどうやったらこのような一点の曇りなく芸術性の高い、素晴らしい曲を作曲できるのだろう?と、マーラーへの畏敬の念を大いに持ちます。今日はどんな演奏になるのでしょうか?とても楽しみです。

 

 

 

前半はヘレン・グライム。現代曲で初めて聴きますが、とても聴きやすい曲でした。第1楽章。「ファンファーレ」というタイトルらしく、金管が活躍する楽章。反復的な音型が多く、途中、メシアンっぽい響きも聴かれました。何かの始まりを連想させる音楽です。

 

第2楽章。この曲はイギリスの現代造形美術科ローラ・エレン・ベーコンさんのヤナギの枝を使った現代アートにインスパイアされて作られた曲ということですが、冒頭からの繊細で不思議な生命力を感じさせるヴァイオリンに、そのヤナギの枝が様々な場所に織り成されていくイメージを持ちました。

 

途中、随所でパーカッションが入るのは、何か段階を踏んでいる合図のよう。最後の方では、低弦とコントラ・ファゴットが聴こえ、しっかりと根を張り終えた、そんな印象を持ちました。

 

第3楽章。第2楽章から引き続く音楽、と言った印象。「水路」というタイトルらしく、最後の方は無窮動のように反復する音楽。あたかも、永遠の水の流れ、さらには人間の魂が輪廻していくことを表しているかのような印象を持ちました。

 

 

非常に見通しの良い現代曲。ヘレン・グライムさんはロンドン交響楽団に重宝されているそうですが、そのことをよく実感できた、素晴らしい作品と演奏でした!

 

 

 

後半はいよいよマーラー9番。第1楽章。第1主題の繰り返しのヴァイオリンをかなり抑えた弱音。感傷に浸っている印象です。最初の盛り上がりに向かう金管はテンポよく、勇んで進んでいく印象。死に行く中での生への郷愁というよりは、生への強い肯定や執着のようなものを感じます。

 

怪鳥のようなトロンボーンによる印象的なewigは1音目だけで2音目はほとんど鳴らさず!一瞬、音が落ちたのか?と驚きすらしましたが、これはewigではない、お前は地獄に落ちるのだ!という警告の表現のように感じました。

 

ハープが主導する印象的な場面。ここは弦がゆらゆら燻らして、ほとんど墓地であちこちで霊魂がうごめくような音楽に聴こえますが、ラトルさんは明るい響き、弦をかなり抑えて、次の長調に転じる場面を先取りした感じ。やはり生を強く感じる印象です。

 

3回目の盛り上がり。この楽章の一番の聴きどころです。弦が交差する場面は、主旋律でなく副旋律の細かく刻む弦を強調する演奏が昨今多いように思いますが、ラトルさんはごく抑えめ。主旋律で真っ直ぐ何かとの対決に向かう気概を感じます。

 

そして一番の盛り上がりの場面!レニーが指揮棒を両手で持って渾身のフォルテを振り下ろす情景が浮かびました!大いなる感動!しかし、結末は定まっていました…。その後のフルートのソロがほとんど外してしまうんじゃないか?と心配するくらいに情感のこもった悲しい歌…。最後はオーボエのewigが流れる中、静かに終わりました。

 

非常に聴き応えのある第1楽章!イメージを膨らませてもらえる素晴らしい演奏!

 

 

第2楽章。冒頭のヴァイオリンの入りをこれでもかと強調!牧歌的な情景の音楽、というよりは田舎の踊りを強く感じさせます。後半、冒頭のファゴットが帰ってくる前の夢の情景のような場面はたっぷり懐かしい響き。そしてワルツの場面ではスピードアップして、何か夢が覚めてしまって、せわしない現実的なものを感じさせます。

 

 

第3楽章。ラトルさん、ここはキレキレで来るかな?と思っていたら、ややゆっくり目。リズムを刻む弦も弱々しく、あたかも既にガイコツと踊っているかのような印象すら持ちました。最後の追い込みも比較的穏やかな印象。

 

 

第4楽章。自然体でテンポをいじらず、ロンドン交響楽団のオケの力量に任せたような演奏。非常に聴き応えがあります!ホルンから始まる一番の盛り上がりの場面。弦のトゥッテイの前の、頂点から下降していく弦は、レニーは一音ごとに強調を入れますが、ラトルさんも控えめなもののしっかりやってくれて感動!

 

そして弦が対位法的にクロスする場面では、ラトルさん、ラ~レドシラソ、ファ~シラソファミ、レミレドレ、ドッ、シッ、ミ~と、何と最後をスタッカートで切りました!魂の飛翔を大いに感じます。そして最後は名残り惜しく、消え入るように終わりました。長い静寂が本当に心地よい。

 

 

ラトルさんとロンドン交響楽団のマーラー9番、とても味わい深い演奏でした!

 

 

私はこの曲はレニーの壮絶な演奏(5種類あってどれも最高の演奏ですが、私は映像が付いていること、ウィーン・フィルの音色が一番曲に合うこともあって、ウィーン・フィル盤を最も愛好しています)を何度も何度も聴いてしまったため、これだけの素晴らしい演奏を聴いても、これは本当に申し訳ないのですが、なかなか突き抜ける感動にまでは至りません…。いわゆるバーンスタイン症候群(笑)。

 

それでも今日はかなり楽しむことができ、また感動も覚えました。何より、バーンスタイン生誕100周年の今年に、レニーの代名詞とも言えるマーラーの9番が聴けるのが嬉しい。ラトルさん、ロンドン交響楽団のみなさま、本当にありがとうございます!会場も大いに沸いて、何と、いわゆる一般参賀も2回ありました。素晴らしいコンサートでした!

 

 

 

ところで。長大なマーラー9番のコンサートなのに、どうして前半にヘレン・グライム(H.G)を置いたのかな?と思いましたが、マーラーの第1楽章冒頭のヴァイオリンのewigの旋律を聴いてビビビッ!と閃いたのは、この2曲はとても関連があるのではないか?ということでした。

 

H.Gの第1楽章ファンファーレは物語の始まり、金管も活躍して、マーラーの第1楽章とシンクロします。H.G第2楽章はヤナギの枝が空間をつなぐ音楽、マーラーの第2楽章(牧歌的なところ)と第3楽章(都会的なところ)をも包むよう。H.Gの第3楽章は水路で繰り返しの音楽、水の流れの永遠を感じさせ、これはやはり旋律の繰り返しで構成されるマーラーの第4楽章によくつながります。

 

 

単にイギリスの現代の作曲家を紹介した、ではない、それ以上のプログラミングの妙を私は大いに感じましたが、果たしてどうでしょうか?