私が先週末に金沢に行った一番の目的は、マルク・ミンコフスキさんのオーケストラ・アンサンブル金沢への芸術監督就任記念公演、ドビュッシー/ペレアスとメリザンドのオペラ公演を観るためでした。

 

 

オーケストラ・アンサンブル金沢

マルク・ミンコフスキOEK芸術監督就任記念

ドビュッシー/ペレアスとメリザンド

(石川県立音楽堂コンサートホール)

 

指揮:マルク・ミンコフスキ

演出:フィリップ・ベジア/フローレン・シオー

衣裳:クレメンス・ペルノー

照明:ニコラ・デスコトー

映像:トマス・イスラエル

 

ペレアス:スタニスラス・ドゥ・バルベラック

メリザンド:キアラ・スケラート

ゴロー:アレクサンドル・ドゥハメル

アルケル:ジェローム・ヴァルニエ

ジュヌヴィエーヴ:シルヴィ・ブルネ=グルッポーソ

イニョルド:マエリ・ケレ(アキテーヌ声楽アカデミー)

医師/牧童:ジャン=ヴァンサン・ブロ

 

管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢

合唱:ドビュッシー特別合唱団

 

 

 

(写真)石川県立音楽堂、本公演のポスター、ミンコフスキさんの芸術監督就任の大ポスター

 

 

 

東京における「8.1問題」。こう言ってもいいくらい重大な問題に、東京のクラシック音楽ファンは直面していました。それは、

 

8月1日(水)

 

◯東京オペラシティコンサートホール

オーケストラ・アンサンブル金沢 東京公演

(マルク・ミンコフスキ指揮)

ドビュッシー/ペレアスとメリザンド

 

◯サントリーホール

PMFオーケストラ 東京公演

(ワレリー・ゲルギエフ指揮)

ヴェルディ/シチリア島の夕べの祈り序曲

(当初はモーツァルト/オーボエ協奏曲)

バーンスタイン/ハリル

マーラー/交響曲第7番

 

この2つの公演が重なってしまったからです!

 

 

ドビュッシー/ペレアスとメリザンド!過去に演奏家形式で2回聴いていますが、オペラではまだ。長年オペラで観ることを待ち望んでいた作品で、この作品を観ることができれば、よく上演される代表的なオペラの少なくとも100作品(もしかすると200作品かも?)を観たことになります。ましてや今年はドビュッシー没後100周年。絶対に見逃せない公演です。

 

一方、PMFオーケストラの東京公演はPMFの総仕上げの公演。前の記事で書いたバーンスタインの2公演は札幌で聴けましたが、この東京公演を聴かなければ画竜点睛を欠くこととなります。何より今年はバーンスタイン生誕100周年。非常に大切なコンサートです。

 

 

う~ん、困った困った…。おーい!、こういう特別な公演は、重ならないように調整してくれーい!(笑)とは思っても、こればかりは仕方ありません。

 

この2公演は東京の前に、それぞれ金沢、札幌での公演があります。最初は、また札幌の日曜日の公演を聴きに行こうか考えましたが、札幌2連発ですらかなりお馬鹿と思われているところ、さすがに3連発までする勇気はなく(笑)。

 

一方、金沢の公演は月曜日。月曜日に一日お休みをいただけば、土曜・日曜・月曜と3日間、初めてとなる金沢やその周辺を楽しむこともできます。ということで、

 

 

これは金沢にペレアスとメリザンドを観に行くしかありません!

 

今回の金沢旅行が決まった瞬間でした。

 

 

 

第1幕。ミンコフスキさんは暗がりの中で席に着き、拍手なしに静かに始まります。ペレアスとメリザンドでは、このやりかたは非常にいいかも。いつもはキビキビとしたテンポのミンコフスキさんですが、比較的ゆっくりめのテンポ。

 

スクリーンに森の情景、メリザンドは客席から登場。キアラ・スケラートさんのメリザンドとアレクサンドル・ドゥハメルさんのゴローの素晴らしい掛け合いの歌!ゴローの「一緒に行こう」の歌ではオケがたっぷり鳴っていました。

 

城のシーン。中央高段にアルケル。ここはパルジファルの音楽を思わせます。ジェローム・ヴァルニエさんのアルケルも特に低音が見事で素晴らしい!最後に映像の火をつかむペレアス。4月に観たベルリン・コーミッシェ・オーパーの、スクリーンをフル活用した魔笛を思い出しました。

 

続いて海のシーン。ドビュッシー/海の音楽のキラメキを感じます。水兵の幻想的な歌は、さまよえるオランダ人の亡霊船の歌のよう。シルヴィ・ブルポ=グルッポーゾさんのジュヌヴィエーヴが迫力の歌でまた素晴らしい!最後はペレアスとメリザンドの寂しい別れ。

 

 

第2幕。第1幕から続いて、別れたペレアスとメリザンドがその流れで掛け合いますが、メリザンドは打って変わって打ち解けた雰囲気。無邪気にゴローとの結婚指輪を高く上げて、水の中に落としてしまいます。スクリーンは水の底からの視点で、回転しながらどんどん大きくなる指輪。まるで2人の運命のあやを象徴するかのよう。

 

続いて、ゴローとメリザンドの場面。オケは拍の強調が頻出、そして弦の弱音のニュアンスが素晴らしい!メリザンドが「城が暗い」と歌う場面では、スクリーンの城のイメージの映像に沢山の人間の目が現れ、ひゃー怖い!よそから来たメリザンドの心象風景ですね。

 

続いてペレアスとメリザンドの洞窟の場面。スクリーンは洞窟を中に進む映像。ペレアスが「明るくなった」と歌う場面。音楽がその瞬間に羽ばたき明るくなる、大好きな場面ですが、スクリーンもマン・レイの象徴的な写真のように明るく反転、そこを手を広げてクルクル回る無邪気なメリザンドが可愛い!そして、スタニスラス・ドゥ・バルベラックさんのペレアスの歌!難しい役どころのペレアスを見事に歌われていました。

 

 

第3幕。一面星空の中にメリザンドが幻想的に浮かびます。有名な髪のシーンでは、メリザンドの髪が夜空に大きく展開して、幻想的かつ官能的、非常に印象的で美しいシーン。まるで宇宙の根源は女性であるかのよう。2人の戯れの背景にゴローの目が出てきて恐ろしい!

 

続く城の地下の洞窟のシーンではオケがデモーニッシュ。ファゴットが雰囲気を作って素晴らしい!出口に出てきて、晴れやかな音楽に。その気分も続かず、ゴローにメリザンドのことをたしなめられるペレアス…。

 

その次はかなり好きなイニョルドとゴローのシーン。マエリ・ケレさんのイニョルドの歌がまた素晴らしく上手い!ゴローからペレアスとメリザンドの仲のことを聞かれますが、子供なのに、この絶妙なはぐらかしよう(笑)。そしてそれにより、ますます狂っていくゴロー。最後オケは弦の急き立てる響きが素晴らしい!

 

 

第4幕。アルケルが「城に喜びが戻った」と歌いますが、背景は空だけが明るいブルーで、城は依然モノトーンで暗い雰囲気。病気から回復したアルケルは、かなり熱烈にメリザンドに救いを求めていました。ゴローが剣まで取り出しメリザンドを疑い虐げるシーンは迫力のオケ!背景の城が崩れるくらいのゴローの怒りよう。鎮まった後、最後アルケルはまるで聖者のよう。

 

メリザンドが倒れたまま、続くイニョルドが「重い石」について歌うシーン。何とそのメリザンドを石に見立てる演出が付きました!イニョルドが羊について歌うシーンは、2月にミンコフスキさんが羊の毛だらけになったメンデルスゾーン/スコットランド交響曲のイメージが残っているので、何だか微笑ましい(笑)。

 

ペレアスとメリザンドの最後のシーン。舞台の右上にマリアさまの彫刻が映されていたように見えました。ペレアスがメリザンドから愛していることを聞き、喜びのキス。「星が降ってくるよう」の歌に、第3幕の髪のシーンが再現されて、最後の喜びを見事に表わしていました!しかしその後、ゴローに刺されてしまいます…。ミンコフスキさん、最後ティンパニを思い切り強調していました。

 

 

第5幕。アルケルの「見るものすべて悲しい」の歌の後に長いパウぜ。そしてメリザンドの死。最後のハープが繊細で魅了されます。感動のエンディング!スクリーンではメリザンドが産んだばかりの娘の眼差しが映されて、希望も残して終わりました。

 

 

何この象徴的で繊細で完成された、素晴らしい公演!!!

 

 

カーテンコールは歌手みんなにブラヴィー/ブラヴォーがかかり、ミンコフスキさんとオケにも盛大な拍手、大いに盛り上がりました!歌手のみなさまは正直このレベルで揃うことはもうないのではないか?と思われるほどの素晴らしさ。フランス語も完璧でした。ミンコフスキさん、最後にドビュッシーのスコアを高く掲げてキス。気持ちは本当によく分かります。

 

象徴的なメーテルリンクのセリフに象徴的な映像を重ねて、ドビュッシーの音楽とも融合した、ものの見事な舞台!これはペレアスとメリザンドの上演史に残る最高の舞台ではないでしょうか?ミンコフスキさんの指揮は精緻で繊細、それに的確に応えたオーケストラ・アンサンブル金沢も本当に素晴らしい!

 

 

金沢まで観にきて心の底から良かったと思える、最高の公演でした!ありがとう、金沢!!!