バッハ・コレギウム・ジャパンによるモーツァルトの歌劇のコンサートを聴きに行きました。演目は珍しいバスティアンとバスティエンヌ、そして劇場支配人です!


 

調布国際音楽祭

バッハ・コレギウム・ジャパン

(調布市グリーンホール大ホール)

 

モーツァルト/オペラ《バスティアンとバスティエンヌ》

モーツァルト/音楽付き喜劇《劇場支配人》

(演奏会形式)

 

指揮・チェンバロ:鈴木 優人

演出:佐藤 美晴

台本:水野 明人

 

バスティアン:櫻田 亮

バスティエンヌ:ジョアン・ラン

魔法使コラ:加耒 徹

 

俳優ブッフ:加耒 徹

歌手フォーゲルザンク:櫻田 亮

女流歌手ヘルツ夫人:中江 早希

女流歌手ジルバークラング嬢:森谷 真理

 

 

前半はバスティアンとバスティエンヌ。何と、モーツァルトが11歳の時に書いたオペラです!冒頭から弾けるオケ、チェンバロが入って時代を感じさせます。なお、序曲はベートーベンの英雄交響曲によく似ていますが、これはタマタマだと思います。

 

コラから、恋人のバスティアンは、城の貴婦人とは気分転換しているだけだよ、と言われたバスティエンヌ。ジョアン・ランさんが日本語で「最低!」と叫んで場内爆笑(笑)。コラは「わざと距離を置くことだ。みんなやってる。ねえ、みなさん?」と観客に問うて、また笑いが(笑)。

 

バスティアンが登場。コラは、バスティエンヌに新しい恋人ができた、と焦らせます。オーボエの方が立ち上がり、バスティアン「調布在住の彼に取られたくない」とな(笑)。ここでコラが、このオペラの一番の聴きどころかも知れない魔法の音楽の歌。オケがキレキレで素晴らしい!(なお、後述のDVDではバスティエンヌの前でこの魔法の音楽が流れます。その方が自然かも?)

 

バスティアンのアリアでは、フルート2人が出てきて吹き添います。その後はバスティアンとバスティエンヌの穏やかな修羅場(笑)。しかし、最後は丸く収まってメデタシメデタシ。2人はコラの魔法に感謝しますが、実は何の役にも立っていないような気が?(笑)。「雨降って地固まる」に加えて、「鰯の頭も信心」でしょうか?

 

素晴らしいバスティアンとバスティエンヌの上演!ジョアン・ランさんの歌が非常に美しい!ポイントで日本語のセリフを言って、ユーモア抜群でした。男性2人も素晴らしい歌。オケもさすがのクオリティの演奏でした。

 

 

後半は劇場支配人。序曲はやはり30歳の時の曲なので、前半とは厚みが違います。木管がいい音色で魅了されます。その後の芝居がとても面白い。指揮者の鈴木優人さんまで参加しますが、いい味出していました。

 

アリアは最初の中江早希さんはアジリタが素晴らしい。後の森谷真理さんは超高音も飛び出すアリア。2人が「私が一番!」と主張し、フォーゲルザングがなだめる可笑しな3重唱。森谷真理さんのアジリタで、残りの2人がブルブル揺れたりして楽しい!

 

鈴木優人さんが痺れを切らして、「もういい、解散!」と宣言。オケのみなさんが帰り始めますが、中江早希さんが芸術家たるもの協力しなきゃ、と和解。最後は大団円の重唱で、調布国際音楽祭のフィナーレとなりました。メデタシメデタシ!

 

楽しくて、素晴らしい公演!演奏会形式と銘打たれていましたが、セミステージ形式と言っていいくらいに充実の内容。素晴らしい劇場支配人でした!(なお、カーテンコールの出入りで、「やっぱり私が一番なの!」と小芝居を打っても良かったかも?笑)

 

 

調布国際音楽祭は初めて参加しましたが、とてもいい企画ですね!桐朋学園があり、市民の演奏レベルも高い調布の地の利を活かして、いろいろ創意工夫を凝らした企画をやっている印象です。毎年毎年、ますます充実していくことを祈っています。


 

 

さて、ここからは全くの余談になりますが、この2つのオペラの作品、私はオペラの実演を観たことがあります。

 

2006年、モーツァルト生誕250周年に、モーツァルトの生誕地の威信を掛けてザルツブルク音楽祭が敢行した、モーツァルトのオペラ全22作品の上演!この時にザルツブルクに1週間滞在して、モーツァルトのオペラを6作品観ましたが、その中にバスティアンとバスティエンヌ、劇場支配人があったのです。しかも、何と、ザルツブルク・マリオネット劇場での公演。つまりは、人形劇での上演です!

 

この公演、劇場支配人の序曲の後に、人間と人形のやりとりで、バスティアンとバスティエンヌの配役のオーディションの場面となります。人形はオーディションらしく胸に番号付いて、演技をしていきます。アドリブで逆立ちする人形に「凄い技だがモーツァルトには必要ない」と監督が話して場内は爆笑(笑)。途中、パパゲーノが乱入するのはお約束(笑)。ドン・ジョヴァンニも出てきますが、速く出て行けの代わりに、何と「さっさと地獄へ落ちろ!」と!(笑)

 

そして10番が見事バスティアン役に合格しますが、バスティエンヌ役の3番と7番は歌を歌っても互角で決めきれず(劇場支配人のアリア2つ)。結局、2人で前半と後半に分けて演じることになりました。両者見事に演じて、バスティアンとバスティエンヌのリハーサルは無事に終了。

 

ところが、3番と7番が「私の方が上手いでしょ?」「初日は私よ!」とお互い譲らず(笑)、ここで再び劇場支配人の音楽に戻ります!バスティエンヌの衣裳のまま「私が!」「私が!」と諍いする3番(マドモワゼル・ジルバークラング)と7番(マダム・ヘルツ)、それをなだめるバスティアンの衣裳を着たムッシュー・フォーゲルザング。ものの見事な展開です!最後は芸術は協力が大切、と丸く収まって終わりました。

 

ということで、人形劇というだけでなく、劇場支配人の枠組みの中に、劇中劇としてバスティアンとバスティエンヌを入れてしまった、もの凄い公演!サルツブルク音楽祭とは何と粋なことをするんだろう!さすが世界最高の音楽祭、と大いに唸った公演でした。

 

 

実はこの日の公演も、同じオペラの組み合わせだったので、もしかしてザルツブルク音楽祭と同じスタイルにするのかな?と予想していましたが、別々でした。でも、本来の形の劇場支配人を観ることができて、非常に貴重な機会でした。調布国際音楽祭による、めっちゃ気の利いた素敵な企画、やりますね!

 


 

(写真)その2006年のザルツブルク音楽祭の公演のDVD。人形の手前がバスティアンで後ろがバスティエンヌ。今日の公演の前にもう一度見返しましたが、非常によくできた楽しい公演です。