日フィルの第700回目となる記念の定期演奏会、アレクサンドル・ラザレフさんの振るストラヴィンスキー/ペルセフォーヌの日本初演のコンサートを聴きに行きました。
日本フィルハーモニー交響楽団
第700回特別記念東京定期演奏会
指揮:アレクサンドル・ラザレフ
チェロ:辻本玲
ナレーション:ドルニオク綾乃
テノール:ポール・グローヴス
合唱:晋友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊
プロコフィエフ/交響的協奏曲ホ短調
ストラヴィンスキー/ペルセフォーヌ(日本初演)
まず、開演前に、今回のプログラム・ノートを書かれた山野雄大さんからプレトークで解説がありました。ポイントをまとめると以下の通りです。
(プロコフィエフ/交響的協奏曲)
◯チェロ協奏曲第1番の素材を活かした曲、素晴らしい。
◯チェロが最後に高い音を出すが、指板を飛び出すくらいに高い。
◯派手で大音量だが、透明感のある曲。シンフォニックな協奏曲。
(ストラヴィンスキー/ペルセフォーヌ)
◯ストラヴィンスキーの解説本にも書かれていないくらい、非常にレアな曲。
◯作品が悪いから演奏されないのではなく、テノール独唱が高い音域で難しかったり、ナレーションがフランス語で楽譜を読める人でないと務まらなかったり、上演が困難。
◯台本は日本の近代文学にも影響を与えたアンドレ・ジッド。アンドレ・ジッド全集は日本で5回に渡って翻訳・出版されているが、ペルセフォーヌは昭和25年発行の全集に載っているのみ。台本自体が非常に珍しい。
◯編成が大きいオケによる音楽だが、透明感がある。楽器1つ1つからいろいろな色の音が出て重なりあう。
◯テキストが抽象的なので、字幕を見ないで時に流れに身を任せて聴いた方が、作品の良さが分かるかも知れない。
◯ラザレフさんと日フィルが第700回目の記念の定期演奏会に、この珍しい作品を選んだ勇気を称えたい。次回聴ける機会があるかどうか、分からないくらいに珍しい作品。
山野雄大さんの明快で分かりやすく、素晴らしい解説でした!ご自身もチェロを演奏されるそうで、それに基づかれたお話をされていたこと、ファクトをいろいろ教えていただけたこと、こういうのは本当にいいですね。
前半はプロコフィエフ。あまり聴き慣れていない曲ですが、さすがプロコフィエフ、という音色や響きの曲です。チェロの辻本玲さんが本当に見事なソロ。プロコフィエフの協奏曲は、ピアノ協奏曲第3番とヴァイオリン協奏曲第1・2番ばかり演奏されますが、この曲ももっと演奏されてもいい曲だと思いました。
後半はいよいよストラヴィンスキーのペルセフォーヌ。私、勉強不足ということもありますが、ストラヴィンスキーは、いわゆるバレエ音楽の3大傑作「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」以外の作品に、今ひとつピンと来ないのです。何だか、みんなとりとめのない、同じような音楽にしか聴こえなくて…。今日はそれを払拭するいいチャンスです。
出だしからラザレフさんはオケをはっきり鳴らし、この記念コンサートへの想いが伝わってきます。その後は、いつもの炸裂するラザレフ節は控えめ。曲調はポール・グローヴスさんのテノールやドルニオク綾乃さんのフランス語によるナレーションが続き、オケはそれを下支えするような音楽を奏でていきます。
ただし、時折、さすがラザレフ/日フィル!という力強いフォルテも聴かれます。特に第3場《甦るペルセフォーヌ》の冒頭のオケだけのシーンは大変聴き応えがありました。そして、ラストのドルニオク綾乃さんの独白のシーンでは、ヴァイオリンとフルートの掛け合いの中、ドルニオク綾乃さんがペルセフォーヌの境地を切々と語って、非常に感動的でした!
山野雄大さんがおっしゃっていた通り、音楽は透明感に溢れるもの。私、この50分の大曲を聴きながら思ったのは、これはストラヴィンスキーの音楽と思わずに聴いた方がいいのかな?でした。どうしてもバレエ音楽3部作に引きずられたり、新古典主義の音楽と観念的に捉えたりすると、十分楽しむことができません。ストラヴィンスキーの音楽でなく、ドビュッシーのような透明感のある音楽に、ハイドンのような簡潔さを持たせると、こういう感じになる、くらいに思って聴くといいのかな?と思いました。
一点思ったのは、この音楽も踊りを欲している、ということ。フレデリック・アシュトンの振付が名作だったそうですが、ぜひバレエで観てみたいと思いました。東京バレエ団、採り上げていただけないでしょうか?
そして、小1時間フランス語の響きの中にいる幸せ!ドルニオク綾乃さんの美しいフランス語を聴いていると、それ自体が美しい音楽のように聴こえてきます。近々、フランス語でのやりとりを楽しめる機会があるので、ここはにわか勉強をしてみようかな?という気になりました。
ペルセフォーヌを予習する前は、ラザレフさんのことだから、記念コンサートをストラヴィンスキーの知られざる秘曲で派手に行くのかな?と思っていましたが、透明感に溢れる、隠れた名曲を当てて来られたんですね!そのセンスに大いに唸りました!ストラヴィンスキーのバレエ音楽3部作以外の曲への道を開いていただいた、大変貴重なコンサートでした!
ラザレフさん、本当にありがとう!そして、日フィルのみなさまへ。定期演奏会第700回、本当におめでとうございます!ますますのご発展を心より祈っております!
(写真)このコンサートのプログラムの表紙。日フィルのプログラムの表紙のイラスト、作曲家が降臨して、出演者の特徴もよく表わされていて、大好きです。「第700回」の文字が光っていますね!