東京・春・音楽祭の中嶋彰子さんのキャバレー企画は素晴らしかったですが、第1部だけ観て、残念ながら深夜~早朝の第2部を泣く泣くパスしたのは、翌日のお昼にベルリン・コーミッシェ・オーパーの来日公演、モーツァルト/魔笛を観に行くからでした。

 

 

ベルリン・コーミッシェ・オーパー

モーツァルト/魔笛

(オーチャードホール)

 

総監督/インテンダント兼首席演出家:バリー・コスキー

演出家:スザン・アンドレイド

アニメーター&イラストレーター:ポール・バリット

指揮者:ガブリエル・フェルツ

 

パミーナ:アデラ・サハリア

タミーノ:タンセル・アクセイベク

夜の女王:クリスティ-ナ・プリツィ

ザラストロ/弁者:インスン・ジム

パパゲーノ:ドミニク・ケーニンガー

モノスタトス:イヴァン・トゥールジチュ

第1のレディ:ニーナ・ベルンシュタイナー

第2のレディ:マリア・フィセリエ

第3のレディ:ナディン・ヴァイスマン

第1の鎧の騎士:ティモシー・リチャーズ

第2の鎧の騎士:サムリ・タスキネン

パパゲーナ:タリャ・リーバーマン

3人の子供:テルツ少年合唱団

 

ベルリン・コーミッシェ・オーパー管弦楽団

ベルリン・コーミッシェ・オーパー合唱団

 

 

この公演はベルリン・コーミッシェ・オーパーのベルリン現地での大ヒット作を、来日公演として持ってきたものです。ここの総監督は演出家のバリー・コスキーさん。昨年夏に大きな話題となったバイロイト音楽祭のニュルンベルクのマイスタージンガーの新演出を担当された方です。冒頭の舞台をヴァーンフリートにした大胆な読み替えで非常に魅了されましたが、コーミッシェ・オーパーの方も絶好調のよう、とても楽しみです。

 

(参考)2017.8.15 ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー(バイロイト音楽祭)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12311108974.html

 

 

 

第1幕の前に、バリー・コスキーさんが登場、日本語で来日公演をとても楽しみにしていたとご挨拶。総監督のコスキーさんご自身来日されて、今回の来日公演に力を入れていることが分かります。

 

意外に慎重な序曲の後、のっけから大笑い(笑)。タミーノがドラゴンに追いかけられていますが、タミーノが全速力で走っている、その足が映像なんです!歌手は手だけ振っていて、足はアニメで高速回転、その超焦っている様子がめっちゃ面白い(笑)。映像の大きなドラゴンもどこかユーモラスで憎めません。3人のレディから矢が放たれて、矢が左右上下、ドラゴンをどこまでも追いかけていくコミカルな映像。最後矢が刺さって、ドラゴンは墜落しますが、タミーノと3人のレディが巻き込まれ、ドラゴンに飲み込まれます。

 

ドラゴンの胃の中で、3人のレディの歌。タミーノに向けハートマークが出ては消える可笑しな映像。3人のレディの名前が英語、フランス語、ドイツ語で示されますが、敬称は全てご夫人(笑)。最後は大きなハートと沢山のハート、ハート尽くしの映像になりました。

 

パパゲーノが登場。相棒として猫を従えています。自分がドラゴンをやっつけたんだ、と言う場面では、沢山のドラゴンがパパゲーノを襲うも、カンフーで撃退しドラが鳴る楽しい演出。嘘付き!と3人のレディに懲らしめられますが、口枷をはめられるのではなく、パパゲーノの赤い唇は、ど根性ガエルのピョン吉みたいにTシャツに移されてしまいます。きっとローリング・ストーンズのロゴに絡めたパロディですね(笑)。

 

夜の女王が登場。大きなクモのお化けです。歌の途中は8本の足や網でタミーノをいじり、”Du, du, du~”の場面では、タミーノを手から出すビームで刺激してビリビリさせます。でも、後半のコロラトゥーラの場面からはタミーノを全くいじらなくなります。やはりコロラトゥーラでは歌にいっぱいいっぱいで、構っている余裕がないのか(笑)。

 

パパゲーノのムムムの歌。さきほどのローリング・ストーンズのロゴのような赤い唇が舞台の背景全体をヒラヒラ舞って可笑しい。タミーノに与えられる魔笛は、トンボの羽根を付けた女性。飛ぶと音符が沢山出てきます。パパゲーノに与えられたグロッケンシュピールはクモのような足の付いた箱。中から、赤い小人が5人くらい出てきます。

 

パミーナとパパゲーノの2重唱のシーンは、黄色と青の花が沢山出てきて、歌詞に合わせて、花が男女の顔になり、男性が女性にハートを飛ばし、女性に届くと女性が顔を赤らめる、とても楽しい映像。大きな蝶に運ばれる3人の子供に誘われて、タミーノはザラストロの国に来ますが、黄色の背景、沢山の設計図に、人工知能(AI)の巨大な顔(弁者)が出てきて、高度に発展した文明という印象。

 

タミーノが魔笛を試すシーンは、夜の星空の星座が動物になり、青い輪郭で動き出す大変美しいシーン。モノスタトスたちにつかまってピンチの場面でパパゲーノがグロッケンシュピールを鳴らすと、モノスタトスたちの足が映像になり、昨日観たキャバレーのラインダンスのように映像の足が踊り出す楽しいシーン。最後はザラストロの機械仕掛けの生き物たちに従って、第2幕の修行の場面へと移っていきます。

 

 

いや~、素晴らしい第1幕!とにかくアニメの映像が非常に凝っていて、ほのぼのとしたイラストで魔笛の世界観に合っていて、さらにユーモアにも溢れ、見応え十分です!セリフが全て映像として文字で出てくるのも斬新(歌手は歌のみでセリフは基本ありません)、その間の音楽をモーツァルトの幻想曲でつないでいたのにも痺れます。アニメやサイレント映画の要素を取り入れた、独特な演出に大いに唸りました!第2幕も楽しみです!

 

 

 

第2幕。映像には「試練に成功したら叡智と美、失敗したら死」の文字が。え~、魔笛の修行って、そんな厳しい設定でしたっけ?修行の前のチェック、ということで、タミーノとパミーナが機械に心電図など検査を受け、2人は大人しく受けますが、落ち着かないパパゲーノには心電図が異常に反応し、最後は爆発してしまう面白い映像(笑)。三人のレディがなぜしゃべらないのか?と問いかける場面では、第1幕にも出てきた赤い唇が沢山飛び交う楽しい映像。

 

夜の女王の2回目のアリア。大きなクモのお化けがパミーナを追いかけ、ナイフを投げて、ザラストロを殺せと迫ります。ナイフがどんどんパミーナに迫り、パミーナは追い詰められていきます。コロラトゥーラの場面では、夜の女王はクモですが、小さな手がオペラ歌手の歌う仕草を見せて可笑しい。

 

タミーノとパパゲーノの誘惑の試練。食べ物としてローストチキンが出てきますが、タミーノは無視、パパゲーノは大いに興味を惹かれます(笑)。このローストチキンを作る、羽根をむしったり、ローストしたり、卵から鳥を育てたりする流れがオートメーションになっていて、もう面白いのなんの!(笑)パパゲーノのところにローストチキンが運ばれますが、タイミングを逸して結局食べられないのも可笑しい(笑)。

 

 

(写真)ローストチキンに誘惑されるパパゲーノの場面。写真中央左の柱の上から卵が、下からひよこが運ばれてきます。成長した鶏は下のベルトコンベアーで左から運ばれ、中央下の部屋で羽根をむしられ、右下のオーブンでローストされます。ローストチキン(右上のオレンジ)はパパゲーノの目の前に来ますが、パパゲーノはタイミングを逸して食べられません(笑)。左上は涼しい顔のタミーノ。そのすぐ右のトンボの羽根を生やした女性が魔笛のイメージ、左下の5人の赤い小人がグロッケンシュピールのイメージ、中央の蝶の羽根の3人は、3人の子供です。

※購入したプログラムより

 

 

パパゲーノはお前は何を望むのか?と聞かれて、「私は自然児、叡智よりもお酒が好き」との答え。

 

パパゲーノ先生の大正論きた~!(笑)

 

これまで何度も言及していますが、私は魔笛で、というよりオペラの登場人物でほとんど一番好きなのがパパゲーノ。魔笛を観る度に、自分はパパゲーノの末裔ではないか?とすら思えてきました(笑)。

 

パパゲーノの歌のシーンでは、冒頭の字幕が「オンナがほしい」(笑)。いや、確かにドイツ語の歌詞はそうなのですが、そう単刀直入に訳されると何だかドキドキします(笑)。ピンクのお酒を飲んだパパゲーノが酔っ払うと、歌とともに、ピンクの象が沢山出てきて、最後はそれに乗って宇宙を飛行する壮大な映像に!小市民的な歌の内容とのギャップが堪りません!

 

タミーノとパミーナの火と水の試練の場面。火の試練では、火を吐く巨人に立ち向かいますが、魔笛のイメージのトンボの女性がくるくる回って巨人を攪乱、最後は巨人の口の中に入り、動力源をぐるぐる回ると…、何と、その後は巨人の口からは火でなく音符が出てくるようになりました!(笑)音符を一身に浴びて心地よさそうなタミーノとパミーナ。

 

続いて、水の試練は、2人が重りにつながれ、深海に沈められます。沈められたとは言え、クラゲやイカ、チョウチンアンコウが揺らめく、何だか楽しそうな場面(笑)。ここでも魔笛のイメージのトンボの女性が重りの鎖を断ち切って、2人を救います。火の試練にしろ、水の試練にしろ、魔笛が具体的な形で役に立ったのを観るのはこれが初めてかも(笑)。

 

そして、続けて深海から浮上するタミーノとパミーナの場面で、例のハ長調の合唱がこだまする、聴き応えのある音楽となりました!沢山のお魚たちが出てきて2人を祝福して、魔笛のイメージのトンボの女性も音符を沢山出して、祝福感溢れる非常に感動的な場面。

 

続いて、パパゲーノとパパゲーナのシーン。大きな家をバックにパパパの歌を歌うパパゲーノとパパゲーナ。子供のくだりでは、6つの部屋にどんどん子供が増えていって、最後は30人くらい(笑)と賑やかになりました。いつ観ても幸せになる大好きな場面です。

 

そして、夜の女王たちが消滅すると、これまでの映像のシーンが回顧され、それも消滅、最後はザラストロもタミーノもパミーナもパパゲーノもパアゲーナもいなくて、男性陣と女性陣の合唱が舞台に出て、ラストのシーンを歌います。そして、何と!最後の最後、合唱と同じ服装のタミーノとパミーナが、合唱のみなさんの一番後ろから出てきて、パミーナがタミーノにキスをして終わりました!

 

 

いや~、コミカルで楽しい映像の数々にほのぼのしていましたが、最後の最後にぶっ込んで来ましたね!これはザラストロの機械やAIの世界、厳然としたヒエラルキーのある世界でなく、正に人間の手による公平な世界こそ、真に望ましい世界、ということを謳ったのではないでしょうか?きっとパパゲーノたちも合唱団のどこかにいるでしょう。

 

 

ベルリン・コーミッシェ・オーパーの魔笛、めっちゃ楽しめました!とにかく映像が雄弁に語った、アニメやサイレント映画を思わせる、素晴らしいコンセプトの演出でした!その中でも、私は特に映像で伝えられる語りを下支えしたモーツァルトの幻想曲K.475とK.397、それもハンマークラヴィーアで演奏されていたところに大いに痺れました!

 

ハンマークラヴィーアの何とも言えないノスタルジックな響きが、同じく手作り感を感じるアニメに絶妙に調和して、独特な世界を作っていました。歌手やオケもみなキッチリ仕事をして見事。モーツァルトの音楽の喜びや哀しさを存分に伝えた、素晴らしい魔笛の公演でした!

 
 
 

 

(写真)終演後、お土産も配られていました。右側はパパゲーノとパミーナの2重唱の時に咲いた黄色と青の花。白は魔笛のイメージのトンボの女性です。

 

 

(追伸)魔笛はいつ観ても本当にいいですね。大好きなオペラ、昨年も素晴らしい公演を2つ観ることができました。今年もあと2公演観る予定、今からとても楽しみにしています。

 

(参考)2017.9.24 モーツァルト/魔笛(バイエルン国立歌劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12313689009.html

 

(参考)2017.11.18 モーツァルト/魔笛(モーリス・ベジャール・バレエ団)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12329572073.html

 
 

 

(4月9日追記)

他の方のブログで、このユニークな魔笛の公演の紹介動画があることが分かりました!私の拙い説明よりも、この動画を見る方が、どんな斬新な演出なのか、よく分かります。途中、少しだけですが、ハンマークラヴィーアの音も聴けます(2:18~、ピアノ・ソナタK.397)。魔笛好き、モーツァルト好きの方、ぜひどうぞ!

https://www.youtube.com/watch?time_continue=1&v=tdFBFGTiE3s (4分半)

※読売テレビの公式サイトより