パーヴォ・ヤルヴィさんが子供の頃からアイドルだったと公言するレナード・バーンスタイン。その代表作ウエスト・サイド・ストーリーをパーヴォさんが振る、特別なコンサートを聴きに行きました。

 

 

レナード・バーンスタイン生誕100周年記念公演

レナード・バーンスタイン/ウエスト・サイド・ストーリー

<演奏会形式> ~シンフォニー・コンサート版~

 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

マリア:ジュリア・ブロック
トニー:ライアン・シルヴァーマン
アニタ:アマンダ・リン・ボトムス
リフ:ティモシー・マクデヴィット
ベルナルド:ケリー・マークグラフ
アクション:ザカリー・ジェイムズ

A Girl:アビゲイル・サントス・ヴィラロボス

ロザリア:竹下 みず穂
フランシスカ:菊地 美奈
コンスエーロ:田村 由貴絵
ディーゼル/スノー・ボーイ/ビッグ・ディール:平山 トオル
ベビー・ジョン:岡本 泰寛

A-ラブ:柴山 秀明

ジェッツ/シャークス:東京オペラシンガーズ
ガールズ:新国立劇場合唱団

管弦楽:NHK交響楽団

 

 

(写真)公演のプログラム

 

 

今年はレナード・バーンスタインの生誕100周年。それを祝う曲として、ウエスト・サイド・ストーリーほど相応しい作品はないでしょう。大大大好きな作品で、昨年はミュージカルの公演も2回観に行きました。

 

(参考)2017.7.15 ミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12293132657.html

 

(参考)2017.7.23 ミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー(2回目)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12295878369.html

 

(参考)2017.7.29 ニューヨーク&マンハッタン(カクテル)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12297276141.html

※おまけ。ブロードウェイの若手キャストの大熱演を称えるため、わざわざカクテルを飲みに行った記事(笑)。

 

 

このパーヴォさんとN響の公演では、Bunkamuraのウェブサイトに特設ページが設けられました。その中で、パーヴォさんが、父親であるネーメ・ヤルヴィさん以外で唯一尊敬する指揮者がバーンスタイン、とありました。タングルウッド音楽祭で出会い、その後、師事。バーンスタインが伝えようとする音楽への情熱、指揮者としての使命感に強い感銘と影響を受けた、ということです。パーヴォ・ヤルヴィさんは、ウエスト・サイド・ストーリーやレニーについて、こう語っています。

 

◯ウエスト・サイド・ストーリーは、最高のミュージカルであると同時に最高のオペラでもあると思います。とにかく、音楽の質の高さが凄い。ジャズやラテン音楽の使い方が素晴らしく、様々な音楽的要素をひとつの作品にまとめたバーンスタインは天才ですね。まさに唯一無二の傑作です。この音楽ではスウィングしなければなりません(ジャズ的な意味ではありませんよ)。

◯青春時代にウエスト・サイド・ストーリーの洗礼を受けなかった音楽関係者などいないと思うよ。

◯(ウエスト・サイド・ストーリーの)中でも“サムウェア”は特別。人種間だけでなく“クラプキ巡査”に描かれているようにそれ以外の差別や憎しみが蔓延している中にあって、愛し合う2人が幸福に暮らせるどこかが必ずある。いや、そこでは反目し合っていた人間たちもお互いを思いやり仲良く暮らしているという、この物語の究極の理想形があると思うんだ。

◯(バーンスタインは)ポジティヴで、励ましてくれる、とても良い先生でした。いくつになっても好奇心旺盛で、生徒に質問をやめませんでした。彼からは音楽への姿勢を学びました。

 

私、もともとパーヴォさんのことが大好きで、客演されるN響のコンサートは欠かさず聴きに行っていますが、上の記事を見て、ますます好きになりました。

 

 
 

第1幕。冒頭からN響はとても都会的な音、機能的なニューヨークの情景が思い浮かびます。「ジェット・ソング」はティモシー・マクデヴィットさんのリフによる小気味の良い歌。マイクが入っていますが、自然なので全く気になりません。「サムシングス・カミング」はいかにも人が良さそうなライアン・シルヴァーマンさんのトニーの期待感一杯の歌。この曲の難しいリズムもばっちりでした。

 

体育館でのダンス・パーティの場面。「ブルース」「プロムナード」「マンボ」とN響はきっちり聴かせます。急加速して「マンボ」が始まる場面はいつ聴いてもスリリング。でも、「マンボ」は踊りが加わると、音楽と踊りの融合で凄いことになるので、やはり踊りがほしくなりました。可愛らしい小粋な「チャチャ」。指を鳴らして、マラカスが「チャチャチャ」と入って、リズミカルで素晴らしい。繊細な弦も良かったです。

 

「マリア」。ここは長調に転じる瞬間が何度聴いてもゾクゾクします!パーヴォさん、オケをたっぷり歌わせていました。そして「トゥナイト」。冒頭のトニーとマリアのやりとりの場面で、既に周りの席のあちこちからすすり泣きが。私?もうハンカチたっぷり濡らしていましたよ(笑)。「トゥナイト」では2人の素晴らしい2重唱!パーヴォさん、最後のチェロによる「サムウェア」の旋律を強調していました!めっちゃ感動的!

 

「アメリカ」。プエルトリコを揶揄してアメリカを称える楽しい歌。踊りが入らないので、速いテンポで演奏することができ、大変聴き応えがありました。ただ、できれば途中、シャークスの女性陣の囃し立てる声をバンバン入れた方が、より盛り上がると思いました。

 

「クール」。速めのテンポでばっちり決まった演奏でしたが、ここも途中、歌手のみなさんが手持ち無沙汰になるので踊りがほしくなるところ。男性の歌だけだったので、ジェッツの女性陣による”Cool !”もほしくなります。「ワン・ハンド・ワン・ハート」。演奏会形式で聴いて最も印象深かった曲。フルートなどいろいろな音が聴こえて、曲の素晴らしさを実感しました。

 

演奏会形式で最も期待していた「トゥナイト」5重唱。ご存じ、プッチーニのラ・ボエーム第3幕最後の音楽にインスパイアされて作られた音楽です。完璧な歌とオケ、もうぴたっと決めた、という感じです!もの凄い押し出しとスケール感!レニーが初演の練習の際に、今まで歌を歌ったこともないような40人の若者が5声の対位法を歌っていることに感動したと言ったそうですが、この曲の5声が絡み合う音楽は、いつ聴いても感動的です。

 

(参考)レナード・バーンスタイン/ウェスト・サイド・ストーリーより「トゥナイト」5重唱

https://www.youtube.com/watch?v=8gIKpp4RFp8 (4分)

※Staples Playersの公式動画より。高校生による素晴らしいパフォーマンスです。特に2:57からのマリアのトゥナイトが素晴らしい。最後、客席は大盛り上がりですね!

 

 

 

第2幕はチャーミングな「アイ・フィール・プリティ」から。マリアとシャークスの女性たちの楽しいやりとり。マリアの「鏡の中のきれいな女の子を見てちょうだい」に対して、女性たちが「どこのどの鏡?」と揶揄する歌で、手をおでこに当てて探す仕草など、お茶目でいい感じ。

 

そして、「サムウェア(Somewhere)」!名曲揃いのウエスト・サイド・ストーリーの中でも一番好きな曲です。歌に入る前、アビゲイル・サントウ・ヴィラロボスさんが笑顔で登場したところでもう涙…。そして温かく透明感のある素晴らしいサムウェアの歌!ピアノがフルートがサックスがいい味を出します。ヴィラロボスさんはアメリカで活躍する、ピュアでサテンのような声を持つと言われるソプラノ。この1曲のためだけに来日されたようですね。パーヴォさんのこの曲に対する想いが感じられます。最後はもう涙が止めどなく流れました…。

 

有名な曲ですが、もしかして、まだ聴かれたことのない方もいらっしゃるかも知れないので、以下に3つの動画をご紹介します。いずれも感動的な歌、涙がこぼれます…。私の場合、この曲を涙なしに聴くことは不可能のように思います。

 

(参考)レナード・バーンスタイン/ウェスト・サイド・ストーリーより「サムウェア」

https://www.youtube.com/watch?v=4N3tRxHFXAw (3分)

※Sara Murphyさんの公式動画より。ニューヨークの教会での歌。メゾ・ソプラノとピアノの、曲の魅力がストレートに伝わってくる、ピュアで心を打つサムウェア。

 

(参考)レナード・バーンスタイン/ウェスト・サイド・ストーリーより「サムウェア」

https://www.youtube.com/watch?v=jycRJ4ljcMA (3分)

※Paula Sheynermanさんの公式動画より。ソプラノとピアノ。こちらはピアノが最初は最小限の音で入り、途中に大きく盛り上がるスケールの大きなサムウェアです。

 

(参考)レナード・バーンスタイン/ウェスト・サイド・ストーリーより「サムウェア」

https://www.youtube.com/watch?v=9YStlwOxfXI (4分)

※Mormon Tabernacle Choirの公式動画より。合唱版も極めて感動的です。1:41から少しだけ入るハミングがまたいい!

 

 

 「ジー、オフィサー・クラプキ」のユーモラスな音楽。 ここは日本人男性歌手陣が大げさな演技を付けた歌で活躍していました。ここはこのくらい大げさにやった方が味が出ていいですね。

 

マリアとアニタが火花を散らす「ア・ボーイ・ライク・ザット」「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。昨年、この2曲の仕組みを解読して、レニーの凄さを改めて体感した2曲です。「ア・ボーイ・ライク・ザット」はアマンダ・リン・ボトムスさんのど迫力の歌!そしてジュリア・ブロックさんの歌うスケールの大きな「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。最後アニタも加わっての2重唱はもう涙涙涙でした…。

 

(参考)レナード・バーンスタイン/ウェスト・サイド・ストーリーより「ア・ボーイ・ライク・ザット」「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」

https://www.youtube.com/watch?v=UEqM5tsbgzg (6分)

※Gabrielle Howarthさんの公式動画より。Gabrielle Howarthさんの迫力のアニタ、Kristina Coiaさんが切々と歌うマリア。3:03からが私の大好きな「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。盛り上がるオケ、5:00からの感動の2重唱、5:31の客席の盛り上がり。高校生の公演とは思えない感動的なシーンです。音楽って本当に素晴らしい!

 

 

ジュークボックスの音楽が流れ、その後、アニタがジェッツの男性陣に弄ばれる、アメリカが切れ切れになる音楽…。そして、フィナーレ。トニーとマリアのサムウェアの2重唱の途中、トニーの歌が聴こえなくなって…。サムウェアが解決せずに静かに終わるラストは本当に感動的でした。

 

 

パーヴォ・ヤルヴィさんのレニーへの想いの詰まったウエスト・サイド・ストーリー、めちゃめちゃ素晴らしかったです!若手の歌手のみなさまの素晴らしい歌!N響も都会的な音で、雰囲気がよく出ていました。

 

私は普段、素晴らしいコンサートやオペラを聴いて観て、涙する機会も多いですが、ここまでハンカチがぐしゃぐしゃになるまで涙することは、なかなかありません。いかにレニーがエモーショナルで心に響く素晴らしい音楽を書いているのか、それをパーヴォさんとN響と歌手たちがいかによく伝えていたのか、その証しだと思います。

 

 

レニーの生誕100周年の年に、代表作のウエスト・サイド・ストーリーを聴けて感無量でした!そして、今年はまだまだ沢山レニーの音楽に触れる機会があります。今後も楽しみ尽くしたいと思います!