この日、私がハンブルクに来たのは、ハンブルク国立歌劇場で、オッフェンバックの最高傑作とも言われる、美しきエレーヌを観るためでした。
Staatsoper Hamburg
Jacques Offenbach
La Belle Hélène
Musikalische Leitung: Nathan Brock
Inszenierung und Choreografie: Renaud Doucet
Bührenbild und Kostüme: André Barbe
Light: Guy Simard
Chor: Eberhard Friedrich
Dramaturgie: Kerstin Schüssler-Bach
Spielleting: Holger Liebig
Páris :Oleksiy Palchykov
Ménélas: Peter Galliard
Hélène: Jennifer Larmore
Agamemnon: Viktor Rud
Oreste: Max Emanuel Cencic
Achille: Ziad Nehme
Ajax premier: Sergei Ababkin
Ajax deuxième: Julian Rohde
Calchas: Otto Katzameier
Bacchis: Soomin Lee
Léoena: Renate Spingler
Parthoenis: Gabriele Rossmanith
Philharmonisches Staatsorchester Hamburg
Chor der Staatsoper Hamburg
Komparserie der Staatsoper Hamburg
Kinderkomparserie der Staatsoper Hamburg
(写真)ハンブルク国立歌劇場のオッフェンバック/美しきエレーヌの第2幕の舞台。パリスからアプローチしたのに、いつの間にかエレーヌの方が積極的なのが可笑しい(笑)。
※プログラムの舞台写真より
ジャック・オッフェンバック。みなさま、ホフマン物語の作曲家としてお馴染みだと思います。あるいは、天国と地獄の勢いの良いフレンチカンカン。
しかし、私はホフマン物語はどうにも苦手…。昨年5月に東京オペラ・プロデュースにより日本初演されたラインの妖精の方がもっと優れた作品のように思いますが、いずれにしても、オッフェンバックがどうして「シャンゼリゼのモーツァルト」とまで言われたのか?これまであまり実感できないでいました。いよいよその真価を体感できる機会がやってまいりました!
この作品はギリシャ神話で最も美しい女神を決めた「パリスの審判」の後の展開をパロディで描いたオペレッタです。美貌で名高いエレーヌ(ヘレナ)ですが、魅力に欠ける夫メネラスとの愛のない生活に嫌気がさし、愛に憧れます。そこに褒美にエレーヌを与えるというアフロディテの約束で美男のパリスが登場し、メネラスをクレタ島に追いやります。
人妻のエレーヌは逡巡しながらもパリスと結ばれますが、そこに突然メネラスが帰還、アヴァンチュールがバレてしまいます。しかし、エレーヌも軽妙な反撃。最後は神官に変装したパリスが、エレーヌがシテール島に使いに出るように仕組んで、メネラスを騙して、めでたく2人でシテール島に逃亡するという、ストーリーだけ見れば、何ともバカバカしい(笑)オペレッタです。
(写真)ハンブルク国立歌劇場。「椿姫」「ジョン・ノイマイヤーの世界」「ニジンスキー」が最高に素晴らしかったハンブルク・バレエ団もここが本拠地です。
座席に着いたら、公演が始まる前のアナウンスが。いつもの撮影禁止や携帯電話の注意かと思ったら、ドイツ語のアナウンスに観客から、なぜか笑いが出ています?その後の英語のアナウンスを聞いたら、
「Welcome aboard ! 乗船ありがとうございます!当船はこれから出発します。お座席は所定の席にお座りください。席のない方は泳いでついてきてください。」
何とユニークなアナウンス!これ、今回の舞台が船の上の設定なので、それに合わせたアナウンスなんです。こういうセンスは本当にいいですね!
第1幕。序曲は船のジュピターSTATOR号に登場人物が乗り込むシーン。船の前で記念品を売っていたり、ケンカのシーンがあったり、パリスが侍女からリンゴをもらったり、船に積み込むジュピターの彫刻におばさんが頭をぶつけてタンカで船に運ばれたり、小ネタがいっぱいで楽しい舞台。
(参考)美しきエレーヌ/序曲。主要なアリアの旋律が入っていて、笑いあり、ほろりと泣かせる旋律ありと、とても魅力的な音楽です。
https://www.youtube.com/watch?v=GL6OyfAz5pA (9分)
※Portland Youth Philharmonicの公式動画より
最初のエレーヌのアリア「神聖な恋」。女性陣たちが愛がない、と嘆くものの、宝飾品を愛でて皮肉たっぷりです(笑)。「ツィララー、ツィララー♪」が楽しいオレストのクープレ「今夜はラヴィリンスのパブで夕食を」の歌はチアガール風の女性陣たちがキレキレのダンスを踊ってめっちゃ楽しい!パリスの歌「イダ山の上で」はとても綺麗な歌。天使が空中を飛び、手紙を落としたり楽しい演出。
メネラス登場の場面は、メラネスのチャラい感じがめちゃめちゃいい!アガメムノン登場では、チアガールたちが「アーガ!」とアガメムノン・コールで囃し立て、王様のメネラスよりも人望があることを示します。パリスが正体を明かして、エレーヌがパリスに「リンゴの若者だわ」と歌うリンゴの歌。歌詞は「リンゴの若者だわ」しかないのに、エレーヌがアリアを大げさにたっぷり歌って、途中、ウィリアム・テルが出てきたり、最後は空中に神が降臨してきたりして、おかし過ぎる!(笑)
最後、みんながメネラスに「クレタ島へ行け!」と合唱で迫る場面は、チアガールたちのキレキレの踊り、水夫たちのデッキブラシを使った踊り、メネラスが空気でふくらませたちゃちいボートで船出するところなど、もう最高!ひい~、笑いすぎて、苦し~!(笑)
(参考)美しきエレーヌ/第1幕のラスト。中央でやりこめられている男性が王様のメネラスです。この動画の公演はシンプルなステージですが、この作品の面白さや勢いが伝わってきます。
https://www.youtube.com/watch?v=VMWDB7TgVcI (2分)
※Franco-American Vocal Academyの公式動画より
第2幕。ワルツが流れ、甲板で男女が愛を語るシーン。ワルツは音楽に血が通っていて本当にいいですね。上の甲板に目を行かせておいて、舞台がせり上がり、下のエレーヌの部屋に照明で切り替えるあざやかな転換。いよいよパリスを迎えるエレーヌが、こうなったのもヴィーナスのせいと非難するアリア「私は金髪のエレーヌ」。始めは侍女の勧めるセクシーな衣裳を四の五の言って拒否して、紫の気品ある衣裳を選びますが、歌の途中で舞台奥で早替わりして、自分でド派手な赤の色っぽい衣裳に!(冒頭の写真) もう大受けです(笑)。
パリスが部屋に来ました。エレーヌは、なお逡巡して、パリスを部屋の外に待たせ、侍女に相手をさせますが、再びエレーヌが侍女を呼んでドアが開いたら、あれ!?パリスがズボンのベルトを締め直すしぐさ!まったく、パリスったら!(笑)エレーヌが自分を納得させるためにパリスと歌う「これは夢だ」の歌。エレーヌが羊の仕草をしたり、パリスが上半身を脱いだらムキムキだったり、最後はエレーヌはムチを持ち出して…、これ以上はとてもブログでは書けません(笑)。大人の演出ですね。
(参考)美しきエレーヌ/第2幕エレーヌとパリスの2重唱「夢の中の愛」
https://www.youtube.com/watch?v=ZVrS0ZEWcHM (9分)
※テノール歌手Gaetan Sauvageauさんの公式動画より。サビは1:41~。ちなみに愛聴盤のマルク・ミンコフスキ指揮のシャトレ座のDVDでは沢山の羊が出てきて観客から笑いが起きます。
そこにメネラスが抜き打ちで帰ってきて、現場を押えますが、エレーヌは「紳士たるもの、事前に連絡をするものよ」と言って反撃。すると、何と!そのセリフに客席の一人の観客から拍手が飛び出しました!(笑)そしたら、他の観客にも受けて、ワワッと拍手が湧いて、「ブラヴォー」まで飛び出しました(笑)。こういうのは日本ではまず考えられません。ヨーロッパで観劇をする醍醐味、大人の楽しみ方です。現場を押えたのに、なぜか逆に責められて旗色が悪くなるメネラスがもう可笑しいのなんの。最後の終幕の歌も大変盛り上がって終わりました。
第3幕。序曲、幕に移されるアニメーション。船が遠くから幕の左側の渦巻き模様にだんだん近づき、飲み込まれグルグル回る、シンプルだけどコミカルで面白い映像です。女性陣が水着姿で甲板のプールに入ったり、男性陣が筋トレをする大きな鉄アレイを投げ、受け止めた人が倒れて首が鉄アレイに挟まってヒイヒイ言ったり、ユーモアのある小芝居の飽きさせない舞台です。
パリスの歌は「シャバダバシャバダバ」が入りいい感じ。エレーヌのアリアは”Fatalite”という言葉をめっちゃ長く引っ張って、周りが呆れ返ってしまったり、面白い演出です。最後みんながエレーヌに「シテール島に行け!」の合唱の場面では、またもや女性陣がキレキレのダンスを踊り、エレーヌとパリスが気球に乗って旅立ち幕となりました。もう楽しいのなんの!最高に楽しい公演!!!観客、大盛り上がりでした!
隣の席はかなりご高齢のドイツ人のおじいさんでしたが、もう最初からノリノリで観ていて(笑)、私もかなりノって観ていたので、終演後はどちらからともなく声をかけて、喜びを分かち合いました。
「シャンゼリゼのモーツァルト」の真価を十二分に体感できた、素晴らしいオペレッタの公演でした!!!オッフェンバックはホフマン物語だけ観れば十分と思われている方に、ぜひお勧めしたい作品です。
(参考)と、長々と感想を書きましたが、何と、公演の動画を見つけました!これこれ!4分のダイジェストで若干ドキュメンタリー風、映像と音楽は必ずしも合っていませんが、キレキレのダンスも含め、私がめっちゃ楽しい舞台を観た!という雰囲気は十分お伝えできると思います。(特に3:18~の第3幕最後の、パリスが正体を現して、エレーヌを気球で連れ去るラスト!)
https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=wJ_G1iUAeGc (4分)
※ハンブルク国立歌劇場の公式動画より
(写真)帰り道にハンブルク中央駅の構内を通りましたが、綺麗な照明が美しく、とてもロマンティックな雰囲気でした。
(写真)晩ご飯はハンブルクのビールHolstenとサンドイッチ。左はプログラムです。
(追伸)第3幕のラストは合唱「シテール島に行け!」ということで、今年はドビュッシー/喜びの島を弾くことを決めていましたが、めっちゃタイムリーな公演でした(笑)。ピアノの方は既にシテール島に到着して、虜になって抜け出せない状況です(笑)。
(参考)2018.1.31 今年はドビュッシー/喜びの島にチャレンジすることを書いた記事