パーヴォ・ヤルヴィさんがN響に客演して、マーラーの7番を振るので、聴きに行きました。

 

 

NHK交響楽団第1879回定期演奏会Apro.

(NHKホール)

 

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

 

マーラー/交響曲第7番ホ短調「夜の歌」

 

 

マーラーの7番はそこまで好きな曲、という訳でもないので、ライヴを聴くのは本当に久しぶり。確認したら、2007年にマリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団で聴いて以来でした。久しぶりに聴くと、フレッシュな印象を持って聴けるので、とても楽しみです。

 

 

第1楽章。冒頭から明晰な響きで、各楽器の一音一音がクリアに聴こえるようなあざやかな演奏です。チェロの音出しが、それこそ音を出すのが心苦しいと思わせるような雰囲気に満ちて、むせかえるようなマーラーの世界を体現します。第2主題はたっぷりと歌って、めくるめく世界、パーヴォさんの意欲的な指揮です。

 

第2楽章。しみじみとした夜のとばりの音楽というよりは、引き続きクリアな響きです。後半はテンポアップして、さらに第3楽章の怪しい雰囲気も感じさせる音楽。あたかも、第3楽章の世界が浸食しているかのような印象を持ちました。

 

第3楽章。この交響曲で一番好きな楽章です。ワルツの旋律の場面で、チェロが音を急激に大きくしたり、ポルタメントを入れたり、ほとんど超常現象を思わせるような響きで唸りました!この楽章の奇っ怪な世界を強調します。全体的にはクリアな演奏で、「正確に狂う」という印象を持ちました。ヒエロニムス・ボスのリアルに描かれた地獄の絵を思わせます。

 

プログラムには「優雅に踊る男女の姿は魑魅魍魎が跋扈する光景に置き換えられる。まさにマーラー流の『死の舞踏』だ。」とありましたが、正しくそれを体現する美しい死の香りに満ち満ちた演奏だと思いました。

 

第4楽章。基本的には第2楽章と同じ印象です。パーヴォさん、ギターとマンドリンを聴かせるために、オケの音をやや抑えていたように思いました。久しぶりに聴く7番。途中、ハープとヴァイオリンによる天国的な音楽が聴かれ、あれ!?こんな音楽があったんだ?と、とても感動しました!もしかして、ここがこの曲の解釈のポイントになるような気がします。

 

第5楽章。冒頭から賑やかな演奏。2回溜めるところ、その後走るところは愛聴盤のレナード・バーンスタイン/ウィーン・フィル(新盤のCD&旧盤に当たるDVD)の演奏と同じ。そうそう、第5楽章はこれでないと!その後も、第4楽章までとは打って変わって動的な演奏で、聴き応え十分です。

 

この交響曲第7番は何を表わしている曲なのか?、かなり謎めいた存在だと思います。どうして第2楽章と第4楽章はナハトムジークなのか?第5楽章はどうして第4楽章までと打って変わって明るいのか?しかし、パーヴォさんとN響の第5楽章をじっくり聴きながら、あれこれ考えていると、かなりイメージが膨らんできました!今日久しぶりに聴いた印象では、鍵は第1楽章と第4楽章のハープの天国的な場面にあるような気がします。

 

「パーヴォさん、7番のヒントをくれてありがとう!」と勝手に終演モードになっていたら、ラストをたっぷりと溜めて、さらには万雷の鐘!きたー!素晴らしい演奏ではあるものの、今日はパーヴォさんにしては少し大人しいかな?と思っていましたが、パーヴォさん、最後の最後にやってくれました!ここでは伏せますが、この印象的なシーンを聴いて、とある光景がパパッと脳裏に浮かびました。7番の結論はこれだったのか!パーヴォさん、いろいろとイメージアップさせてくれて、本当にありがとう!N響はこの複雑な曲を、もう完璧な演奏ではないでしょうか?素晴らしい演奏に観客もかなり湧いていましたね!

 

 

久しぶりに聴いたマーラー7番、非常に感動的でした!この曲をN響で聴くと、1997年のエフゲニー・スヴェトラーノフ/N響の演奏を思い出します。もうスヴェトラーノフさんの色に染めまくった指揮!特に第3楽章はよくぞここまで、と凝りに凝った怪演で、この曲の死を思わせる不吉な雰囲気をよく醸し出していました。

 

パーヴォさんはスヴェトラーノフさんのような巨大な怪演ではないですが、とにかくクリアで各楽器の音がよく聴こえる演奏。そして一音一音にニュアンスが込められて、ところどころにスパイスが効いていて、最後の最後にドカンと仕上げてくれました。やはりパーヴォさんの指揮は聴き逃せません!

 
 

 

(写真)マーラーが交響曲第7番を作曲した、オーストリア南部、ヴェルター湖畔マイアーニッヒの作曲小屋。マーラーはここヴェルター湖でボートを漕いだ瞬間、第1楽章冒頭の印象的な序奏のリズムをひらめいたそうです。