素晴らしかった壮麗なメルク修道院。感動の余韻のもと、メルクから列車でウィーンに戻り、夜にオペラを観にアン・デア・ウィーン劇場に行きました。ワーグナーの何と!「ハーゲン」というタイトルのオペラです!

 

 

THEATER AN DER WIEN

 

RICHARD WAGNER

DIE RING-TRILOGIE

HAGEN

 

Musikalishce Leitung: Constantin Trinks

Inszenierung: Tatjana Gürbaca

 

Hagen: Samuel Youn

Alberich: Martin Winkler

Mime: Marcel Beekman

 

Wotan: Aris Argiris

Loge: Michael J. Scott

Woglinde: Mirella Hagen

Wellgunde: Raehann Bryce-Davis

Flosshilde: Ann-Beth Solvang

Gunther: Kristján Jóhannesson

Gutrune: Liene Kinča

Siegfried: Daniel Brenna

Brünnhilde: Ingela Brimberg

Die Mannen: Arnold Schoenberg Chor

Hagen als Kind: Jonathan Fleming/Niklas Schonhofer

 

ORF Radio-Symphonieorchester Wien

Arnold Schoenberg Chor

Statisterie des Theater an der Wien

 

 

この「ハーゲン」というタイトルのオペラ、ウェブサイトで見つけた時は「これは一体何だろう?」とビックリしました。ただ、「リング・トリロジー(三部作)」ともタイトルが付いているので、ニーベルングの指環の4夜に渡る作品から、ハーゲンにまつわる物語で構成し直した作品、ということは何となく分かります。

 

ワーグナーの音楽をいじくるなんてケシカラン!と、お叱りも受けそうですが(笑)、決して書き替えている訳ではなく、ワーグナーの音楽は基本そのままに、順番を変えて上演するものです。コンサートでもリングのダイジェストはよくあるので、それの発展形かと。こういう公演を体験すると、きっと新しい発見もあるはず。ここはアン・デア・ウィーン劇場の粋な企画を楽しみましょう!

 

 

前半、まずは音楽なしにハーゲンがジークフリートを後ろから槍でなく鉄パイプで襲う寸劇から入ります。ブリュンヒルデとヴォータンもそれを目撃してとても印象的なシーン。そして神々の黄昏の第2幕冒頭の音楽、ハーゲンとアルベリヒのやりとりのシーンになりました。アルベリヒは右手の手首から先がありません…。怨念をこんこんとハーゲンに伝えるアルベリヒ。

 

そして、何と!そこから舞台が転換し、ラインの黄金の冒頭の音楽が始まりました!しかもアルベリヒは子どものハーゲンを連れています。めかし込んでシャンパンとグラス2つを持ち、女性にアプローチするのを楽しみにしているアルベリヒ、それを楽しげに見守る子どものハーゲン。普通の善良な小市民、という感じです。つまり、アルベリヒはハーゲンの母親であるグリムヒルデと一緒になることはできず、次の相手を探している、という設定でしょう。

 

ラインの乙女たちは舞台に大きく展開される泥の温泉のようなところでサービスをする女性たち。アルベリヒがシャンパン片手に3人にアプローチしますが、すげなくあしらわれます…。ラインの乙女たちはアルベリヒを翻弄し、果ては子どものハーゲンにも際どいイタズラを仕掛けます。アルベリヒが愛を断念し、ラインの乙女たちがひれ伏して幕。ラインの黄金は結局その泥のようでしたが、これは???という感じです。

 

続いて第2場は飛ばして、ラインの黄金の第3場。ミーメをいたぶるアルベリヒ。ヴォータンとローゲが奸計によりアルベリヒを引っ捕らえます。次の第4場ではヴォータンとローゲは拷問した上で、何と!嫌でも指環を渡さないアルベリヒの右手を切り落としてしまいました!非常にショッキングなシーン…。アルベリヒの呪いの音楽がもの凄い迫力で流れ、ワルハラの入場の音楽まで行かずに、そこで前半を終えました。

 

 

女性に憧れる小市民のアルベリヒが、どうして復讐の鬼、怨念の権化と化したのか?真摯な求愛をコケにしまくったラインの乙女たち、傲慢かつ残酷な神々。アルベリヒ役のマルティン・ヴィンクラーさんの狂気すら感じさせる怪演もあり、非常によく分かった前半でした!しかしこれ、よくよく考えてみると、神話の世界でなくとも、実社会でもありそうな話ですね…。

 

 

後半は神々の黄昏の第1幕、ギービヒの館の場面から始まり、ブリュンヒルデの岩場の場面をパスして、第2幕のハーゲンのどすの効いた「ハイホー」の場面からラストのハーゲン・ブリュンヒルデ・グンターの3重唱の場面までやって終わりました。後半はあまり進行に捻りがなく、神々の黄昏の中でハーゲンが登場するシーンをそのまま上演した形でした。

 

ハーゲンと銘打たれた公演なので、どんなハーゲンなのか楽しみにしていましたが、せっかく前半に子どものハーゲンを登場させた割には普通の神々の黄昏のハーゲンで、あまり印象に残りませんでした…。何か子どもの頃のトラウマを強調したりとか、一味違うハーゲンを観たかった、というのが正直な感想です。最後の3重唱も迫力はありましたが、公演自体の最後がこの場面だと、どうしても途中で終わった感を抱いてしまいます。

 

そして、ハーゲンにフォーカスした音楽。基本的に開放感のない暗い怨念の音楽なので、ずっと聴いていると、う~ん、何だかな~、と辛くなってきます…。やはり私にとって神々の黄昏は、ワーグナーの他の作品に比べると、どこか馴染めない、共感できない作品という思いを今回、改めて感じました。

 

 

ワーグナー/リング・トリロジーのハーゲン、期待していましたが、感動は正直なところ今ひとつ、と言った感じでした。ただ、アルベリヒがどうして狂わされてしまったのか?これは非常に強く印象付けられました。ニーベルング族を悪者と捉える先入観をズラしてみると、いろいろと見えてくるものがあります。やっぱり様々な演出で観てみるものですね。この公演はリング・トリロジーと銘打たれている3部作からなる公演。第2夜、第3夜と続きます。(続く)

 
 

 

(写真)アン・デア・ウィーン劇場。Milloeckergasse側には魔笛のパパゲーノの像が飾られたパパゲーノ門があります。

 

(写真)本日の夕食はフライトでウィーン入りした初日なので軽めに。でも、ウィーンのビールだけは外せません(笑)。