今年のオペラの観劇もいよいよ大詰め、新国立劇場のR.シュトラウス/ばらの騎士を観て来ました。

 

 

新国立劇場

R.シュトラウス/ばらの騎士

 

指揮:ウルフ・シルマー

演出:ジョナサン・ミラー

 

元帥夫人:リカルダ・メルベート

オックス男爵:ユルゲン・リン

オクタヴィアン:ステファニー・アタナソフ

ファーニナル:クレメンス・ウンターライナー

ゾフィー:ゴルダ・シュルツ

マリアンネ:増田 のり子

ヴァルツァッキ:内山 信吾

アンニーナ:加納 悦子

警部:長谷川 顕

元帥夫人の執事:升島 唯博

ファーニナル家の執事:秋谷 直之

公証人:晴 雅彦

料理屋の主人:加茂下 稔

テノール歌手:水口 聡

帽子屋:佐藤 路子

動物商:青地 英幸

3人の孤児:前川 依子/小酒部 晶子/長澤 美希

元帥夫人の従僕:嘉松 芳樹/寺田 宗永/徳吉 博之/細岡 雅哉

 

 

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

合唱:新国立劇場合唱団

児童合唱:TOKYO FM 少年合唱団

 

 

ばらの騎士はR.シュトラウスの15のオペラの中でも、一番最後のカプリッチョと並んで最も好きな作品。公演があると欠かさず観に行きます。2007年には、新国立劇場、チューリヒ歌劇場、ドレスデン国立歌劇場(森麻季さんのゾフィー!)の3公演があって、狂喜乱舞しました。

 

新国立劇場のばらの騎士はジョナサン・ミラーさん演出の上品で粋な舞台が大好きで、2007年の初演、2011年、2015年と再演も全て観ています。私は新国立劇場の再演は基本的に観に行かないことにしていますが(予算上の制約から他の観たことのない演出のオペラ公演やコンサートを優先したいため)、最も好きな作品、最高の演出、歌手も毎回素敵な歌手が揃うので、ばらの騎士だけは観に行ってしまいます。

 

 

第1幕。弾けるような前奏曲、ウルフ・シルマーさんの活き活きとした指揮!トランペットが高まった後の弦をほとんど分奏のように弾いて、マルシャリンとオクタヴィアンがベッドの上で抱き合って転がる光景を思い浮かべました。幕が開くとエレガントな装飾、光と影の加減が絶妙な舞台です。ステファニー・アタナソフさんのオクタヴィアン、最初かなり際どい事を言っていますが(笑)、上品な音楽に包まれ、何事もなかったように進みます。

 

元帥が帰ってきたと勘違いし、お客さんだったと安堵するシーン、オケが転調してワルツを奏で始めますが、こんなにホッとさせられる音楽はありません。オックス男爵はユルゲン・リンさん、2015年の公演もそうでしたが、声に少し癖があって、粗野なオックス男爵にピッタリの歌唱。オックス男爵とマルシャリンがかなり大人な会話をしますが、上品な音楽でさらりと聴いてしまうのはフィガロの結婚と同じです。

 

沢山のお客さんが来るシーン。3人の孤児たちが短調のアピールの歌から、施しをいただき、程よい長調のお礼の歌になるところ。この歌、本当に好きだなあ。そしてお楽しみのテノール人歌手のシーン。新国立劇場のパバロッティ水口こと、水口聡さんの朗々とした歌!ハンカチをひらひらさせて歌うのもお馴染みです。歌詞の表示が「魅力的な眼の光に、たちまち陥落」と出ますが、この「たちまち陥落」、その通りなのですが、どこかしら可笑しい(笑)。新国立劇場の字幕は時々、遊び心のある歌詞を入れてくるので、目が離せません。テノール歌手の2回目の歌のシーンはオックス男爵のやりとりなども混ざって輻輳的な音楽になり、R.シュトラウスの作曲の凄さを体感しまくります!

 

リカルダ・メルベートさんのマルシャリンの最後の独白のシーン、今日は非常に観応えがありました。時の移ろいについて逡巡の歌を寂しげに歌いますが、そこに制服に着替えた凜々しいオクタヴィアンが入ってくる残酷。「どうして自分も僕も苦しめるの?」というオクタヴィアンの歌詞がグサリと刺さります。最後の方は弦が長調と短調を行き来する感動の流れ。ラストは雨が降り、マルシャリンが煙草を燻らして終わる印象的なエンディング。味わい深く本当に素晴らしいシーン!

 

 

第2幕。冒頭の弾ける音楽と、クレメンス・ウンターライナーさんのファーニナルの素晴らしい喜びの歌!ファーニナルは勢いがあって、成り上がりの商人の雰囲気を良く伝えていて正に適役でした。そして、ゴルダ・シュルツさんのゾフィーの透明感のある歌が素晴らしい。この方、今年のザルツブルク音楽祭のモーツァルト/皇帝ティートの慈悲で、ヴィッテリアを聴きましたが、アリア「私を喜ばせたいとお望みながら」と「涙以外のことを」がとても良かったです。歌もそうですが、期待感にワクワクする手慣れた演技もしっくりきます。ザルツブルク音楽祭でも2015年にゾフィーを歌っているようですね。私は2014年にモイツァ・エルトマンさんで観たので、その翌年の公演に当たります。

 

(参考)2017.8.17 モーツァルト/皇帝ティートの慈悲(ザルツブルク音楽祭)

ゾフィーのオクタヴィアンとの対面の瞬間はシルマーさん、オケをこれでもかとタップリ溜めて感動的!オクタヴィアンとゾフィーの2重唱は、美しい背景や素敵な衣装の従者などが相まって、非常に陶酔的で美しいシーン。ゾフィーはイスを運ぶことすら難儀して、大切に育てられてきたことを示します。ゾフィーとのやりとりでの、オクタヴィアンの切り返し「あなたは一番美しいので侮辱されることはないですよ」。これいいな、今度使ってみよう(笑)。

 

しばらく観ていたら、増田のり子さんのマリアンネが歌も演技も抜群にいい!両手を前に組んで控えるポーズ、出るべきところはよく響く歌と身振り手振り大きくしっかりと出て、オックス男爵に「紹介は結構」と言いい放たれた時に、「これはどうしたことか?」とファーニナルに訴えるポーズなど、キラリと光る歌と演技で非常に魅了されました。

 

オックス男爵の最初のワルツのシーン。オックス男爵とゾフィーだけでなく、オクタヴィアン以外のほぼ全員が踊り出して…、音楽の力って本当に凄い!ファーニナルとマリアンネもいい感じで踊っていて、まるで魔笛でパパゲーノがグロッケンシュピールを鳴らした踊りのシーンのようでした(笑)。

 

オクタヴィアン対オックス男爵の剣の場面は、今回はオックス男爵が積極的に踏み込んでいって、自分から相手の剣に刺さってしまうという顛末。その後のファーニナルとゾフィーの口喧嘩は、両者充実の歌で大変な聴きもの。ファーニナルが積極的にオックス男爵を介抱しようとして、傷に触って煙たがれるシーンが何とも可笑しい。

 

オックス男爵の「結局はあいつの負けじゃないか」 の発言。いやいやいや、誰がどう見ても、あなたの負けなのですが?(笑)でも、こんだけとっちめられても、へこたれない精神力だけは見習うべきものもあるのかも知れません(笑)。プログラムには「めげるな、オックス!」という秀逸な解説もありました。傷ついているのに、ワインをガンガン飲んで、医者にさじを投げられるシーンが可笑しい(笑)。そして羽根布団を所望しますが、第1幕は干し草で、2幕は羽根布団にこだわり、どこか憎めないオックス男爵です。

 

最後のオックス男爵のワルツのシーンはシルマーさん、2拍目をタップリと歌って、ギリギリの弱音で奏でたり、これでもかと盛り上げてくれました!こういうのは本当にいいですね、もう最高の指揮!アンニーナはこの役で余人を許さない加納悦子さん。今回は従者であるオックス男爵の息子との小芝居も充実、オックス男爵との大人の丁々発止のやりとりも非常に見応えがありました。最後はオックス男爵がワインのデキャンターグラスを抱えて踊る夢見心地のシーン!いや~、素晴らしい!最高の第2幕でした!

 

 

第3幕。またまた弾ける前奏曲。オックス男爵は真っ先にソファーの後ろに隠れたベッドの弾力を、自分でポンポンポンと乗ってみて確認して…、この方、ふかふかフェチ?(笑)そのオックス男爵、最初は右腕に包帯をして出て来ますが、いつの間にか包帯が取れて、給仕の方々に出て行けと、その右手で大きなゼスチャーをして…。あなた、右腕、怪我していたのでは?(笑)この演出はト書き通り、壁や床から人が出没してビックリさせる古典的な仕掛け。シンプルですが味わい深くて好きです。

 

警部が出てきてからのオックス男爵のしどろもどろの弁明が本当に可笑しい(笑)。嘘に嘘を塗り重ねると必ず破綻する。嘘は決してついてはいけないことを如実に教えてくれます。警部は新国立劇場のハーゲンこと長谷川顕さん。さすが貫禄の警部でした。

 

マルシャリンが登場、マルシャリンの諦念の動機が流れて、ここで早くも涙…。ラストの3重唱まで我慢できませんでした。最近、本当に早いな~。そのマルシャリン、「ものごとには終わりがある」と決然とオックス男爵に言い渡しますが、まるで自分に言い聞かせているかのよう。オックス男爵の退場シーンは子供たちが「パパー、パパー」と賑やかに。そしていよいよあの3重唱、ここはただただ涙ですね…。ひたすら陶酔的な音楽に身を委ねます。素晴らしい3重唱でした!

 

 

最終日ということもあり、観客も非常に盛り上がっていましたね!ユルゲン・リンさんはカーテンコールの挨拶でカツラを飛ばす、という小ネタも入れてきました(笑)。ばらの騎士は喜歌劇です。とことん楽しみましょう!

 

今回の公演、指揮者・オケ・歌手・演出・舞台と全て揃った本当に素晴らしい公演でしたが、私は指揮者のウルフ・シルマーさんこそがその一番の立役者だと感じました。2013年にライプツィヒ歌劇場でR.シュトラウス/エレクトラを観ていますが、その時もザッハリヒなオケをガンガンに鳴らして、ものの見事なエレクトラでした!そこまで目立たない存在ですが、ハルトムート・ヘンヒェンさんなどとともに、真のドイツの実力派の指揮者だと改めて思いました。

 

 

ということで、素晴らしい音楽と歌にみんな泣いて幸せになった、最高の公演でした!!!新国立劇場の開場20周年記念公演、まだまだ続きます!

 
 

 

(写真)ガルミッシュ・パルテンキルヒェンのR.シュトラウスのお墓に飾られている銀のばら。

 

 
(追伸)なお、本日は土曜日でした。公演後、オーストリアのワインを楽しんだのは言うまでもありません(笑)。