名匠ユベール・スダーンさんが東響の定期に客演されたので、聴きに行きました。

 

 

東京交響楽団第655回定期演奏会

(サントリーホール)

 

指揮:ユベール・スダーン

ピアノ:フランク・ブラレイ

 

レーガー/ベックリンによる4つの音詩

ダンディ/フランスの山人の歌による交響曲

ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調「新世界より」

 

 

何度も何度も書いているように、私はマエストロ・スダーンと東響のコンビは特別なものと思っています。ハイドン、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ブルックナー、マーラーなどなど、記憶に残る数々の素晴らしい演奏を楽しませていただきました。もちろん、2008年のシューベルト・チクルスはその中でも白眉。このコンビのコンサートは曲目問わず聴きに行かない訳にはまいりません!

 

 

1曲目はレーガー。マックス・レーガー(1873-1916)はドイツの作曲家・オルガン奏者・ピアニスト。オルガン曲や変奏曲をいろいろ書いた作曲家、という印象があります。ピアノ協奏曲も書いていて、1992年にホルスト・シュタイン/ゲアハルト・オピッツ/N響で聴いたことがありますが、大変感動した思い出があります。重厚長大系のピアノ協奏曲として、ブゾーニのピアノ協奏曲(何と男性合唱付き!笑)とともに、好きな曲の1つです。

 

「ベックリンによる4つの音詩」はスイスの画家アルノルト・ベックリンの4枚の絵「ヴァイオリンを弾く隠者」「波間の戯れ」「死の島」「バッカナール」から受けた印象を、レーガーが音楽にしたものです。初めて聴くので少し予習をしましたが、これがめちゃめちゃロマンティックな曲!

 

 

(写真)アルノルト・ベックリン/波間の戯れ。音楽的には、この絵の曲が一番印象に残ります。ギリシャ神話の賢者ケイローンのイメージが強いですが、ケンタウロスはそもそも野蛮な存在でした。

ウィキペディアより

 

第1曲「ヴァイオリンを弾く隠者」。冒頭から祈りに満ちた、慈愛を感じる弦の響き!弱音器付き/無しの2つの弦楽器群の美しく、複層的な音色です。ソロヴァイオリンのソ~ド~ラ~、レ~シ~ソ~、ド~ラファ~レ~シド~♪の旋律にうっとり!

 

第2曲「波間の戯れ」。冒頭の魔法のような不思議な響き!R.シュトラウス/アラベラの冒頭を思い出します。波のように細かいパッセージが明滅していく音楽。何と言う繊細な響き!東響がいかに優秀なオケであるかを体感できる瞬間です。

 

第3曲「死の島」。神秘的な響きに溢れる、ただならぬ気配を感じる曲です。途中、ティンパニのトレモロが聴かれますが、シベリウス/トゥオネラの白鳥の世界観に似ていると思いました。最後は優しいニ長調になり、魂が放浪の末に成仏できたかのようです。

 

4曲「バッカナール」。終曲に相応しい賑やかな音楽でした。

 

ベックリンは以前にスイスのバーゼルの市立美術館で「死の島」「戯れる人魚たち」「人生の島」などの素晴らしい絵画に感動した思い出があります。こうしてレーガーの絵に対するイメージや憧れを膨らませる音楽を聴いてみると、もっと探求してみたくなりました。音楽の何かをインスパイアする力って、本当に凄い!

 

 

2曲目はダンディ/フランスの山人の歌による交響曲。この交響曲、牧歌的な響きでピアノが活躍して好きなんですよね。

 

第1楽章。冒頭のイングリッシュホルン→フルートの民謡主題!弦が盛り上がって、ピアノが引き取りすぐに転調!師匠のセザール・フランク譲りの魔法のような転調に痺れます。メルヘンと陶酔の音楽、低弦に木管が加わった壮大な響き。フランスのセヴァンヌ地方って、どんなに美しいところだろう。

 

この曲、ソリストがピアノを弾きますが、また出過ぎない控えめなピアノがいいんです!ピアノ協奏曲でなく、あくまでも交響曲。そして、時々ピアノがよく聴こえるところの旋律がこれまた良過ぎて、たまらない!フランク・ブラレイさんの味わいのあるピアノと東響の色彩感豊かな演奏に、第1楽章で早くもメロメロになりました(笑)。

 

第2楽章。途中に第3楽章のアラブっぽい響きの木管が切ない。最後の温かい弦に繊細にきらめくピアノ!第3楽章は日本の童謡でも出てきそうな親しみの持てる旋律。途中の東響のめくるめく色彩感に唖然陶然!最後の方のアラブ風の音楽の歯切れの良さ。最後は大いに盛り上がって終わりました。最高のダンディ!

 

私はデュトワ/N響の大人の香り満載のフランスもの、カンブルラン/読響のより動的でセンスに溢れるフランスものも大好きですが、スダーン/東響のオケの繊細な響きを活かした色彩感と構築感のあるフランスものも大大大好きです!(昨年のベルリオーズ/ファウストの劫罰もめちゃめちゃ良かった!)、そこにパーヴォ・ヤルヴィ/N響の魅力的なフランスものも加わって、近年の東京では素晴らしいフランス音楽の競演が聴かれます。

 

 

ブラレイさん、アンコールはドビュッシー/雪の上の足跡。フランスの山人の歌による交響曲の後の選曲として大変洒落ていて、演奏もこれまた洒脱。こういうのは本当にいいですね!

 

 

後半はドヴォルザークの新世界より。今年はスメタナ/わが祖国ばかり5回聴きましたが、ここで新世界を聴けるのはありがたい。私は特に第1楽章が好きです。

 

第1楽章。冒頭の旋律の2回目の木管を強調して、低弦にもニュアンスが込められ、スダーンさん一音一音まで血の通ういつもの指揮です。繰り返しを入れましたが、この繰り返し、かっこよくて好きだなあ。展開部の攻撃的なホルンも○。充実の響き、構築感のある、格調高い新世界という印象です。第2楽章。イングリッシュ・ホルンと弦の懐かしい響きが心地良い。盛り上がった後の弱音の繊細な弦!見事に雰囲気のある第2楽章です。

 

第3楽章。リズミカルだけど、一音足りともないがしろにしない繊細な演奏。最後の盛り上がりの迫力とたっぷりのエンディング。第4楽章。いよいよ開放され、ますます充実の響き、見事な構築感の稀有な新世界!未来を切り拓くようなチェロ!最後はじっくり噛み締めるように、たっぷり名残惜しげに終わりました。

 

何この、これまで聴いたことないような充実の響きの新世界!

 

私はもともとは、それこそ荒々しい暴れ馬のような(笑)テンポを揺らした新世界が好きですが、この敢えてテンポで勝負しない、構築感のある、見事な充実の響きの新世界には唸りました!これだから、スダーン/東響は聴き逃せないのです!

 

 

ところで、このコンサート、レーガーにダンディにドヴォルザークで一見脈絡ないプログラムのように思えますが、聴いてみての感想は「視覚的な印象」がテーマなのかな?と思いました。レーガーは文字通りベックリンの絵の印象、ダンディはフランス・セヴァンヌ地方の民謡主題が呼び起こす、セヴァンヌ地方の牧歌的な山や村の印象、新世界はご存じアメリカ先住民の伝説に基づいて書かれた叙事詩「ハイアワサの歌」がドヴォルザークの作曲の着想源となっていて、アメリカの懐かしい原風景の印象を持ちます。

 

今日はそんなテーマを意識してなのか、ハイドンやシューベルトでは非常に小気味よい指揮をするスダーンさんが、敢えてテンポよりも色彩感を重視して指揮していたように私は感じたところです。

 

 

またもやマエストロ・スダーンと東響の素晴らしいコンサートを楽しむことができました!音楽監督を勇退されてからは、毎年1回、東響へ客演されていますが、毎回毎回、本当に楽しみです。

 

そして、東響の関係者のみなさま、ミューザ川崎の関係者のみなさま、せっかくマエストロ・スダーンが客演されているので、定期演奏会に加えて、どうかどうか、あの珠玉のモーツァルト・マチネのコンサートも併せて企画していただけませんでしょうか?世界的に見ても、スダーン/東響のモーツァルトほど活き活きとしていて、音楽の喜びに溢れたモーツァルトを聴くことはなかなかないように思います。切に切にお願いいたしまする。

 

 

(追伸)と、ブログでお願いしたら、今日のコンサートでいただいたチラシに嬉しい知らせが!スダーンさん、来年秋のモーツァルト・マチネに登場していただけるようです!しかも、交響曲38番ニ長調「プラハ」と34番ハ長調!!!めっちゃ楽しみです!東響の関係者のみなさま、ミューザ川崎の関係者のみなさま、早速ありがとうございました!(いやいやいや、ブログに書いて、30分後に願いが叶うなんて、そんな訳ないない、笑)