今回の夏の旅行の最終日を迎えました。前日のリッカルド・ムーティ/ウィーン・フィル、素晴らしい歌手が揃って最高だったヴェルディ/アイーダの公演の余韻覚めやらぬ中ですが、今回の旅行で一番楽しみにしていた公演が、最後の最後にありました。

 

ヘルベルト・ブロムシュテットさんとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による、R.シュトラウスのメタモルフォーゼンとブルックナー7番のコンサート(マチネ)です!

 

 

SALZBURGER FESTSPIELE 2017

WIENER PHILHARMONIKER

 

(GROSSES FESTSPIELHAUS)

 

Wiener Philharmoniker

Herbert Blomstedt, Dirigent

 

RICHARD STRAUSS

Metamorphosen.Studie für 23 Solostreicher o.op. 142

 

ANTON BRUCKNER

Symphonie Nr.7 E-Dur WAB 107

 

 

前半はR.シュトラウスのメタモルフォーゼン。ウィーン・フィルは弦楽のみ、小編成で臨みます。コンサート・マスターはライナー・ホーネックさんにフォルクハルト・シュトイデさん。曲が始まりました。もう、ただただ美しい調べ、至福の時が流れます!ブロムシュテットさんは自然体の指揮。美し過ぎるウィーン・フィルの弦楽セクションの響きをそのままストレートに伝えるものでした。

 

私はこの曲は、音楽こそ頭に入っていますが、これまであまり実演に触れたことがなく、1枚だけ持っているCDも輸入盤なので、どこの部分が何を示している、などの解説を見たことがありません。しかし、演奏を聴くと、現世への名残りや憧れ、大切なものを失った喪失感、厳しい別れの時、この世で守らなければならない大切なもの、などさまざまな感情が交錯します。

 

いろいろと思い浮かべつつも、ウィーン・フィルの美しい弦の音色にただただ浸りました。ブロムシュテットさん、最後音が消え入ってから、15秒くらいタクトを降ろさず、沈黙の瞑想の時。ダナエの愛の初演にまつわる悲劇など、R.シュトラウスの想いの残されたここザルツブルクで、ウィーン・フィルで、この曲を聴けたのは本当に感慨深かったです!

 

 

後半はブルックナー7番。ひたすら曲の魅力を自然体で表わした素晴らしい演奏でした!

 

第1楽章。冒頭のチェロはやや速め。美しい音色、途中でフレーズを短くして、後はややゆっくりと、ニュアンスも込められます。その後、弦楽が一斉に奏でるトレモロ!何か非常に美しいものがふわっと浮かび上がってくるような痺れる瞬間!ウィーン・フィルのこの世のものとは思えない美しい音色に心からの感動を覚えます。木管や金管も、得も言えず美しく自然な響き。ブロムシュテットさんの自然体の指揮で素直に曲の美しさが客席に届けられます。

 

コーダの前に第1主題がチェロで奏でられるところ。ティンパニは抑えて、チェロの幽玄な響きがホール内に響き渡ります。そして感動的な長調への転換&コーダ。ごくごく自然なアッチェレランド。ホルンがこだまして、一昨日に見たアルプスの美しい山々を思い浮かべます。素晴らしい第1楽章でした!

 

第2楽章。第1主題はやや速めに、そこまで感傷に浸らない演奏が、より悲しみを伝える深さ。第2主題の途中に出てくるフルート!一昨日の山登りの途中で遭遇した、小さなアルプスの花々のように愛らしい。展開部の盛り上がる場面。ウィーンの対位法の大家ジーモン・ゼヒターの教えを受け、勉強し過ぎないようにと健康を心配されるまでに対位法を学習し極めたブルックナーの、素晴らしい対位法の妙が聴かれる大好きな場面です。ブロムシュテットさんは派手な金管の咆吼も溜めも入れずに、あくまで自然体。あたかも、ここがクライマックスではないよ、と言っているかのようです。

 

いよいよ3回目の第1主題。この世で最も美しく感動的な音楽が聴かれる、ブルックナーの全ての音楽の中で一番好きな場面です。主旋律と6連符を見事なバランスで紡ぐウィーン・フィルの美しい響きにただただ感動。そして頂点はハース版なので、ノヴァーク版のようなシンバルもトライアングルもありません。ノヴァーク版だと魂の昇華そのものの瞬間をイメージしますが、ハース版だと昇り切った先の山頂から地平を見渡すような壮大な景色をイメージします。いま思い出しても震えのくる瞬間です!

 

その後のワーグナーテューバによる葬送の音楽。もちろんワーグナーの死の報せを受けて書かれた音楽ですが、ワーグナーとともに、自然と今回の旅で観たオペラで亡くなられた、ティトレル、トリスタン、イゾルデ、ティート、マリー、ヴォツェック、そして昨日のアイーダとラダメスを思い浮かべ、追悼しました。ラストのいつまでも優しく伸びるホルンの響きが心底美しい。

 

第3楽章。ここも自然体の指揮。以前にムーティ/ウィーン・フィルの6番を聴いた時にも感じましたが、ウィーン・フィルでブルックナーを聴くと、金管をうるさかったり、不自然な音の進行に感じず、本当に自然な音の流れとして聴こえてきます。

 

(参考)2014.8.17 リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルのブルックナー6番(ザルツブルク音楽祭)

第4楽章。ラストは朗々とした金管の響きに、繊細できらめく弦が重なり合い、アルプスの山々の光輝く風景を思い浮かべます。終わった後、ブロムシュテットさんは20秒くらいしてからゆっくりタクトを降ろしました。何という感動!!!素晴らしすぎる7番!!!

 

 

私はヨッフム、マタチッチ、スクロヴァチェフスキなど、どちらかと言うとドラマティックな7番を好みますが、この自然体にして何の衒(てら)いもない、ウィーン・フィルの美しさを前面に出した演奏には心から痺れました!間違いなく生涯最高の7番です!!!

 

 

観客もすぐに総立ちになって、マエストロ・ブロムシュテットとウィーン・フィルを讃えます!そして、ウィーン・フィルの事務局の方でしょうか?女性の方が出てきて、スピーチがありました。ドイツ語でよく分かりませんでしたが、素晴らしいR.シュトラウスとブルックナーの指揮で、ウィーン・フィルもマエストロを大変尊敬している、というような内容でした。

 

そして、ブロムシュテットさんはこの7月で90歳。そのお祝いとして、ウィーン・フィルからブロムシュテットさんに、ルーツのスウェーデン・カラーの青と黄色の花束が贈呈されました!観客も盛大な拍手で節目のお祝いを喜びました!温かい雰囲気に包まれた素晴らしい瞬間に立ち会うことができ、心の底からの感動を覚えました!!!

 

 

ここまでお読みいただくと、目的が分かってしまったかも知れませんが、一昨日にわざわざ片道1時間半かけてツェル・アム・ゼーに行った理由は、この日にブルックナー7番を聴くから、でした。この曲は随所にアルプスの自然の息吹を感じ、特に第1楽章と第4楽章のラストはホルンの響きもあって、雄大なアルプスの眺めを連想します。オーストリア・アルプスの山々を見に行って、それをしっかりと脳裏に焼きつけた上で、ブルックナー7番をザルツブルクで聴けたのは、一生の思い出になりました。

 
 

(写真)ツェル・アム・ゼーはシュミッテンヘーエ(2,000m)から見たオーストリア・アルプスの山々

 

(参考)2017.8.18 ツェル・アム・ゼー観光(シュミッテンヘーエ)

 

 

さて、かなりの長編になりましたが、夏の旅行記の活動記録はこれで終わりです。後日あと1本、旅行のまとめと振り返りなどの記事をアップして、旅行記は終了できればと思います。全くの個人的な備忘録ですが、ご覧いただいている方は、もう少し、お付き合いいただければ幸いです。

 

 

(写真)オットー・ベーラーの影絵の中でも特に好きな1枚。バイロイトのまちなかのあちこちに置いてあるワーグナーの人形に付いていた展示から。リストとワーグナーを先頭に、天国で偉大な作曲家たちがブルックナーを迎える感動的な絵!オルガンを弾いているのは、先日のカンタータも素晴らしかったバッハです!

 

 
 

(追伸)ブロムシュテットさんはもうすぐライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と来日されますね。私ももちろん聴きに行きます。再びブルックナーの7番を聴くことができるので、大変楽しみにしています!(しかも興味深いことに、来日公演はノヴァーク版なのです!)