引き続き絶好調、もはや向かうところ敵なしのコンビ、アレクサンドル・ラザレフさんと日フィルによるロシア・プロを聴きに行きました。

 

 

日本フィルハーモニー交響楽団第373回名曲コンサート

(サントリーホール)

 

指揮:アレクサンドル・ラザレフ

ヴァイオリン:ボリス・ベルキン

 

ショスタコーヴィチ/ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調

チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」

(アンコール)

チャイコフスキー/モーツァルティアーナ第3曲「祈り」

 

 

前半はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲。先日のN響の回で、ベルクのヴァイオリン協奏曲が最も好きなヴァイオリン協奏曲、とお伝えしましたが、対抗がこのショスタコーヴィチの1番です。大好きなヴァイオリン協奏曲のトップ2を立て続けに聴けるのは嬉しい限りです。

 

演奏はボリス・ベルキンさんとラザレフさんのロシアの重鎮による横綱相撲、日フィルも素晴らしい演奏で、ものの見事なショスタコーヴィチでした!特に大きく仕掛けていた訳ではありませんが、第1楽章の静けさの中に溢れる叙情、第2楽章のクレズメル音楽の弾けるようなリズム、第3楽章の長大なカデンツァの悲痛な魂の叫び、第4楽章のスピーディな展開の中での歯切れやメリハリの効いた名人芸の連続など、曲の魅力をこれでもかとストレートに強調する圧倒的な名演でした!

 

アンコールはありませんが、この長大な協奏曲をこれだけ熱演していただければ、アンコールは全く不要です。それにしても、このヴァイオリン協奏曲、何と魅力的な曲なんでしょうか。最近、頻繁にプログラムにかかるのも頷けますし、いつどこで聴いても実演に満足します。大ファンとして毎回毎回本当に楽しみです。(もう片方の大好きなベルクももっとやってくれるといいのですが…?)

 

 

後半はチャイコフスキーの悲愴。もう何の説明も要らない名曲中の名曲。ラザレフさんが果たしてどのように料理するか楽しみです。

 

第1楽章、ラザレフさん、会場が全く無音になるのを待ってから、聴こえるか聴こえないかくらいの最弱音で始めました。始めの方の弦の掛け合いの音楽。私は弦の知識は全くないですが、ラザレフさんが指揮の時は、弦の音の、何と言うか、粒立ちが違うような気がします。木管が交互に吹いていくシーンがありますが、音の質感や他との繋ぎが見事!ファミレシラファラレーシラー♪最初の盛り上がりは比較的速めのテンポですが、これであっさり感や物足りなさを感じさせず、十分な情感を湛えていると感じさせるところがラザレフ&日フィルの素晴らしさです。クラリネットが落ちて行き、激情の音楽が始まる場面。クラリネットの後、少し間を取ってからジャン!と始まる演奏が多いように思いますが、ラザレフさん、クラリネットが落ち切る前からジャン!と始まり、悲劇の突然の到来をあざやかに描きます。本当に目が離せない指揮!

 

その激情の音楽。日フィルが最速の演奏で、かつ鳴らす鳴らす、迫力ありまくりです!途中、ティンパニが乾坤一擲のもの凄い一発を叩きました!そして、静まると今度は永遠にも感じられそうな長い沈黙。ラザレフさん、自由自在ですね。そして、再び長調が帰ってきてからの魔法のようなグリッサンド!ここでツツーっと涙が…。悲愴、もちろん名曲ですが、涙までしたのは初めてかも知れません…。最後はこれまでの速い展開から一転ゆっくりの懐かしい響きの弦のピィツィカートで降りて行きました。この素晴らしい第1楽章が終わった時点で、心の中でブラヴォーを叫んでいました。

 

第2楽章は比較的穏当で優雅な演奏。でも、途中、意外なところでフォルテが入ったりして、やっぱりラザレフさん、一筋縄ではいかない演奏です。第3楽章はラザレフさんらしい豪快な演奏で、音圧がもの凄く迫力満点です!日フィルはピタピタっと決まってお見事でした!

 

第4楽章も比較的速めの展開。でも、あっさりとして感傷度合いが薄いということはなく、しっかりと鳴らして、悲しみの情感はグイグイと来ます。どうしてそう聴こえるのでしょうか?一瞬フワッと長調になるところは少し溜めて、ラザレフさん、本当にこの曲の魅力をよく伝えます。最後は弦が消え行っても指による指揮の動きを止めず、1分くらい経ってから、手を胸に当てて静かに終わりました。チャイコフスキーへの鎮魂の想いを消えゆく音に託していたかのような、印象的なラストでした。

 

 

アンコールはチャイコフスキーのモーツァルティアーナ第3曲「祈り」。悲愴の後のアンコールは、今後はもうこれしか考えられないのではないか?と思われるほど、祈りに満ちたピタッとはまる曲。ラザレフさん、さすがの選曲でした!

 

 

終演後、観客のみなさん、大きな拍手で盛り上がっていましたね!台風が近づいて雨もだんだん激しくなる中でしたが、この素晴らしい演奏だったら、どんな暴風雨でも、どんなにずぶ濡れになろうが、もちろん駆け付けます。9月のパーヴォ・ヤルヴィさんの比較的マイナーな曲を集めたロシア・プロも粋なコンサートで大好きでしたが、ラザレフさんのど真ん中ストレートの今回のコンサート、いつもながらではありますが、素晴らし過ぎました!秋のラザレフ劇場はまだ続きます。