日本におけるイギリス音楽の第一人者、尾高忠明さんが新日フィルに客演し、オール・イギリス・プロを振るので聴きに行きました。

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会

ルビー(アフタヌーン コンサート・シリーズ)第9回

(すみだトリフォニーホール)

 

指揮:尾高 忠明

チェロ:山崎 伸子

 

グレイス・ウィリアムズ/シースケッチ

Ⅰ 強風

Ⅱ 航海の歌

Ⅲ 海峡の魔女達

Ⅳ 砕ける波

Ⅴ 夏の穏やかな波

エルガー/チェロ協奏曲ホ短調

ウォルトン/交響曲第1番変ロ短調

 

 

このコンサート、尾高さんのオール・イギリス・プロということで非常に楽しみでしたが、特に、久しぶりにウィリアム・ウォルトンの交響曲1番を聴くのが大きな目的でした。20代にイギリス音楽をいろいろ聴いた時、エルガーの交響曲1番にはもちろん大いに感動しましたが、このウォルトンの交響曲1番も大変素晴らしく、見つけた時には夢中になって聴いたことを覚えています。

 

 

最初はウェールズ出身の女性の作曲家グレイス・ウィリアムズさんのシースケッチ。ロンドン在住だったウィリアムズさんが故郷のウェールズのバリーの海を想って作られた曲です。聴いてみると、海や波、風の表情がよく見て取れるとても素敵な曲。特に最後の「夏の穏やかな波」がめっちゃロマンティックな曲で惹かれました!グレイス・ウィリアムズさん、イギリスのもう一人のウィリアムズ姓の作曲家として要チェックです。

 

続いて、エルガーのチェロ協奏曲。私、月並みですが、チェロ協奏曲でドヴォルザークと並んで最も好きな曲です。全体的に渋くて、チェロの奥深い響きを堪能できる、何とも言えぬ味わいがあり、時折り垣間見せる長調の瞬間が何と儚く(はかなく)美しいことか!

 

山崎伸子さんは冒頭から雰囲気たっぷりのチェロ。オケとのやりとりの移行もスムーズでオケの中に見事に溶け込みます。第2楽章の決然としたフレーズ、長調に転じた後の飛翔、第3楽章の盛り上がる場面の情感のこもった弓捌きなど、本当に素晴らしい。第4楽章最後の冒頭の旋律が回帰するところはたっぷり。ほとんど1音1音が哲学的ですらあります。この協奏曲はやはり卓越した名曲であることを十二分に伝える、しみじみ心に響く素敵な演奏でした!

 

 

後半は目当てのウェルトンの交響曲1番。第1楽章。冒頭のリズミカルでカッコイイ音楽に早くも痺れます!リズムを刻む旋律を、弦や金管が入れ替わり立ち替わりたたみ掛けます。尾高さんは迫力を出しつつもバランスを考えた、見通しの良い指揮。途中、ダーダダダ、ダダダダダダ、ダダー♪と大見得を切る場面、ここめっちゃ好きだなあ。後半の山は感動の連続、尾高さん、迫力のティンパニやルフトパウゼも見事に決まり、最後はたっぷりやってくれて、非常に盛り上げていました!第1楽章、超カッコイイ!

 

第2楽章は「悪意をもって」と指定のある楽章。スケルツォという言葉が相応しい、いろいろな楽器がトリッキーな響きを明滅させるユニークな音楽です。尾高さん、メリハリを効かしつつキビキビとした表現でした。「悪意」とある一方で、未来に向けた期待感も感じさせます。第3楽章は不思議な響きの静かな音楽ですが、最後、第4楽章とのコントラストをなすような悲痛な高まりを見せます。

 

第4楽章。冒頭の夢のある幸せな未来を予感させる魅惑のヴァイオリンとホルン!何という素敵な調べでしょう!その後、この旋律を基調に長調が喜びを爆発させるワクワクの音楽の展開。尾高さん、途中はやや抑えめでしたが、後半はたっぷりした指揮が続き、盛り上がり→鎮まり→盛り上がりの緊張感の持続もお見事!最後は信じられないくらいの壮大なクライマックスを築きます!何のためらいもないティンパニの強打の連続が最高!尾高さん、至福の高みに連れてってくれました!

 

 

いや~、さすがは尾高さん、とんでもない名演!曲を完全に掌握、自分のものにしていて、指揮に全く迷いがないので、新日フィルも思う存分演奏でき、こんな素晴らしい響きになるのかな?と思いました。観客も大きな拍手で応えます。

 

と思ったら、あれ!?尾高さん、指揮台に上がって…、定期演奏会なのにアンコールが始まりました。何と!ニムロッドです!(エルガー/エニグマ変奏曲の第9変奏)

 

冒頭の静かな弦が始まると、不意を打たれたこともあり、もうハラハラハラと涙がこぼれます…。何と言う感動!!!ウォルトンのフィナーレの高まりを鎮めるかのように、静かに静かに進みますが、再び穏やかながら優しく頂点を迎えました。

 

尾高さん、最高のウォルトンの後にニムロッドだなんて、もう、反則ですよ~!(笑)

 

きっとイギリス音楽の第一人者として、より多くの方にイギリス音楽を好きになってほしいという、尾高さんの心意気と責任感からのプレゼントですね。十分過ぎるほど伝わりました。年末はしばらくコンサートやオペラの予定がない日が続くので、マイナーな作曲家も含めて、またイギリス音楽をいろいろ聴いてみよう。尾高さん&山崎さん&新日フィルのみなさん、最高のイギリス音楽を本当にありがとうございました!

 
 

(写真)ウォルトンが子供の頃に聖歌隊に入っていたオックスフォードのクライスト・チャーチ。ウェルトンは何と正規の作曲教育を受けずに、独学で数々の名曲を書いたそうです!