今年4月に東京都美術館で観た、ブリューゲル「バベルの塔」展 ― ボスを超えて ― は最高でしたが、再び、大好きなヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲル、さらには超ドストライクのベルギー象徴派とシュールレアリスムの作品が揃った美術展が始まったので、さっそくBunkamuraのザ・ミュージアムに行ってきました。

 

(参考)2017.4.21 ブリューゲル「バベルの塔」展 ― ボスを超えて ―(東京都美術館)

http://ameblo.jp/franz2013/entry-12267907612.html

 

 

(写真)ヒエロニムス・ボス工房/トゥヌグダルスの幻視

※購入したポストカードより

 

まずは、この美術展のチラシにも大きく出ている、ヒエロニムス・ボス工房/ドゥヌグダルスの幻視。

 

解説には、あるとき仮死状態に陥った放蕩の騎士トゥヌグダルスの魂は地獄と天国へと導かれ、地獄の恐ろしい懲罰を目にした彼は後に心を改めた。画面左下ではトゥヌグダルスがまどろみ、中央には罪を象徴する巨大な頭部、周囲には大罪と懲罰が描かれる、とありました。

 

ボスらしく何とも不思議な魅力に溢れた絵。様々な大罪(「怠惰」「大食」「貧欲」など)と懲罰が展開されています。懲罰を実行するユニークな怪物や悪魔たちは楽しげですらあります。奥の地獄の炎に包まれた都市や木に刺さった卵の家なども見逃せません。

 

「放蕩の騎士」と聞くと、単細胞の私にはサー・ジョン・ファルスタッフのことしか思い浮かびません。ファルスタッフもテムズ川に放り投げられ、危うく死ぬところでしたが…、この方の場合、地獄の恐ろしさを目にしても改心することなく、「最後に笑う者が本当に笑っているんだ」とかうそぶいて、全く懲りなさそうですね(笑)。

 

 

(写真)ヤン・マンデイン/パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑

 

次は、大好きな「聖アントニウスの誘惑」もの。この美術展では最初に聖アントニウスの誘惑が何と3点並んでいて、のっけから大興奮しました!今年1月の「クラーナハ展」で観た聖アントニウスの誘惑は、まだ聖アントニウスに群がる怪物たち、という構図でしたが、この絵は聖アントニウスを誘惑しているというよりは、怪物の総お目見えという感じで、歌舞伎の様式美のよう、この主題の絵の雰囲気が時代と共に変わっていくのを感じます。16世紀の伝統的なフランドルの風景表現も取り入れています。

 

その左隣のピーテル・ハイスの聖アントニウスの誘惑(写真なし)は、怪物というよりは、裸婦と音楽を奏でる女性が、怪物の蠢く水中へ聖人を誘い込もうとする構図でした。確かに、怪物よりも強力な誘惑なのかも知れません(笑)。ちなみに、この美術展では、聖アントニウスの誘惑は何と計6点もありました!比較して観るのがとても楽しかったです。

 

 

(写真)ヤン・マンデイン/聖クリストフォロス

 

続いて、同じくマンデインによる聖クリストフォロス。「バベルの塔展」で観たボスの聖クリストフォロスでは、魔物は控えめでしたが、ドンドン増えているのが可笑しい(笑)。背景の死の島を思わせる孤島やなぜか高台にある船の家を始め、この絵も見どころ満載です。聖クリストフォロスや背負っているキリストの表情が絵によっていろいろ違うのもこの絵の鑑賞ポイントの1つです。この美術展では、聖クリストフォロスの絵も4点ありました。今年は大好きな聖アントニウスの誘惑を沢山観れたことに加えて、この聖クリストフォロスの絵もお気に入りとなり、大変収穫の多い年になりました。

 

 

ところで、途中、美術展なのに猫の声が聞こえてきました…?最初は「まったく誰だ?こっそり猫連れてきて?」と思っていましたが、最後にどんでん返しが待っていました。それは、後ほどに。

 

 

(写真)ジェームズ・アンソール/オルガンに向かうアンソール

 

続いて、ジェームズ・アンソール/オルガンに向かうアンソール。アンソールは、オステンドを終生の活動拠点としましたが、20代前半からブリュッセルやパリの展覧会に出品したものの、酷評を受けてしまいます。この絵は、キリスト教美術において伝統的に描かれてきた、キリストが受難の地エルサレムに入城する場面を下敷きとして、アンソールが彼にとって受難の地であるブリュッセルへ入城する姿を描いたもの、とのことでした。自分を冷遇した批評家やブリュッセルの人々を、キリストを嘲笑する愚かで醜い群衆として描いている、との解説もあります。

 

アンソール、ブリュッセルでよっぽどひどい目に遭ったんですね…。でも、この絵は下絵となった「キリストのブリュッセル入城1889年マルディ・グラの日」(写真なし)に比べると、明るい色調で、アンソールの方を向いている群衆も多く、アンソールも穏やかな表情をしているので、遂に認められたアンソール、あるいはその願望を示しているような気もします。オルガンからはどんな音楽が聴こえるのでしょうか?やっぱり、フランクでしょうか?それとも同じく自分をキリストと同一視し、ベルギー象徴派とも交流のあったスクリャービンだったりして?

 

 

(写真)ポール・デルヴォー/海は近い

 

続いて、ポール・デルヴォー/海は近い。私はシュールレアリスムが大好きで、ルネ・マグリットやポール・デルヴォーは最も好きな画家です。この絵は、整然と並んだ敷石や直線的な構造の建物によって、冷たい空気が漂う。画面をいっそう非現実的にしているのは女性たち、それぞれ関連し合わない孤独な空間で、夢想に耽っているようだ、と解説にありました。ジョルジュ・デ・キリコの影響を強く感じる絵。女性の神秘的な美を際立たせるような、何とも言えない不思議な魅力を感じます。

 

 

最後に、マルセル・ブロータールス/猫へのインタビュー。この作品は写真がありません。というより、そもそも絵がありません。猫に現代美術を見せてその感想を人間がインタヴュー(フランス語)している音声による作品なんです。さっき、聞こえてきたのは、この猫の声でした。一部、ご紹介すると、こんな感じです。

 

(人間のインタヴュアー)新手のアカデミズムではないかという確信はおありですか?

(猫)ニャォゥ

(人間のインタヴュアー)それはそうですが、大胆には違いないとしても、疑問の残る大胆さではありすよね。

(猫)ニャウ

(以下略)

 

こういう一見、馬鹿馬鹿しいアート作品、もう大好きです!(笑)最初は、コミュニケーションが成り立たない悲哀を感じさせたり、コミュニケーションが成り立たなくても会話が進む現代のコミュニケーションを風刺したりしてるのかな?とも思いましたが、言葉だけで見ると、実はちゃんと会話が成り立っていたりして?

 

 

超ドストライクな内容の美術展、最高に楽しめました!大好きな絵の数々に最初の聖アントニウスの誘惑から最後の猫(笑)までワクワク・ドキドキしっぱなしでした。図録を買ってきたので、しっかり勉強してから、また観に行こうと思います。

 

ご興味を持たれた方は、バベルの塔展と同じですが、ブリューゲルの版画は小さな作品で列ができるので、混雑する前になるべく早めにご覧になられた方が無難です。また、展内はかなり空調が効いていました。作品を守るための大切な対応、ザ・ミュージアムはGJだと思いますが、貸し出している毛布に包まる女性が続出していたので、1枚羽織って来られることをお勧めします。男性もポロシャツだと寒いかも?長時間の鑑賞であれば、ジャケットを持ってきてもいいと思います。9月24日(日)まで、渋谷はBunkamuraのザ・ミュージアムにて。必見の美術展です!

 

 

 

(写真)おまけ。最後のコーナーでアート関連作品とともに、ベルギーグッズがあったので、ついついタイスのベルギーワッフル(リエージュワッフル、右)と、この展覧会仕様のダンドワのスペキュロス(ビスケット)を買ってしまいました(笑)。相変わらずアフォですね…。