ひょんなことから、勅使川原さんのダンス公演を見つけたので、行ってきました。何とワーグナー/トリスタンとイゾルデのダンスです!

 

 

勅使川原三郎ダンス公演

トリスタンとイゾルデ

(シアターX)

 

出演:佐東利穂子/勅使川原三郎

 

構成・振付・照明・美術・衣装・選曲:勅使川原三郎

照明技術:清水裕樹(ハロ)

音響技術:三森啓弘(サウンドマン)

 

(参考)公演のチラシより

 

勅使川原さんは以前にプッチーニ/トゥーランドットの演出をされたのを観たことがあります。ダンスの要素をふんだんに取り入れ、至るところに卓越したセンスを感じた、非常に印象的な演出でした。今年の3月には魔笛の演出もされていましたが、新国立劇場のランメルモールのルチアと被ったので泣く泣くパスしました…。今回は振付だけでなく、ご本人も踊ります。

 

まず観終わった感想ですが、非常に感動的なダンスでした!!!

 

音楽は4時間のオペラを1時間にまとめていますが、順番を変えているところはなく、

 

第1幕への前奏曲→1幕最後の媚薬を飲んだ後トリスタンとイゾルデが惹かれ合うシーン→第2幕への前奏曲→2幕1回目に盛り上がるところ→2回目に盛り上がるところ→メロートに刺されるところ→第3幕への前奏曲→トリスタンの死を嘆くイゾルデ→イゾルデの愛の死

 

という進行で、ツギハギをほとんど感じさせず、とてもセンス良くまとめられていました。

 

第1幕への前奏曲は、照明を暗くして、トリスタンとイゾルデを別々に映し出し、それぞれの孤独感を出していきますが、音楽が音楽なので、期待感も感じます。第2幕は2人の絡み合う踊りが大変感動的ですが、途中、トリスタンが何か大きなものに抗うようなポーズをしていたのが印象的。何か古くさい慣習に抗っている姿のようにも見えたので、2人の道ならぬ恋を暗示しているのかも知れません。

 

特に感動的だったのが、ブランゲーネの警告から2幕2回目に盛り上がるところ辺り。私はこのトリスタンとイゾルデの中で最も官能的で法悦の音楽が書かれているのは、実はブランゲーネの警告の音楽だと思っています。イゾルデが舞台中央に座る中、トリスタンの手だけが、暗闇の中からいろいろな方向から出てきて、イゾルデを慈しんでいきます。とても印象的なシーン。

 

そして、2回目に盛り上がるところでは、それでも比較的緩やかに踊っていた2人が音楽に触発され、いよいよはじけて、舞台全体を使ってダイナミックに踊ります。何という感動!!!壮絶な踊りのオーラに打ち震えました!!!もうこの辺りは涙腺が決壊して涙でぐちゃぐちゃになりました…。

 

第3幕前半はトリスタンの死の場面。トリスタンは上着を分身(あるいは脱皮)のように残してこの世を去っていきます。ここはオペラだとなかなか表現するのが難しい場面ですが、勅使川原さんは打ちひしがれた失意の様子を背中でよく表されていました。解説で「死と生の無限循環」とおっしゃっているので、トリスタンは輪廻で次の生を得たということなのかも知れません。

 

第3幕後半はイゾルデの独り舞台。トリスタンの服を顔に被せて嘆く場面や、最後、あの法悦の「愛の死」の音楽をバックに、佐東さんは感動的な踊りを披露しました。音楽が素晴らし過ぎるので、それを踊りで表現するのは本当に大変な場面ですが、十分に適応されていました。ここで再び涙腺が決壊。イゾルデも「愛の死」の音楽の前に実は息絶えていたので、新しい生が始まるという「愛の死」のラストと見受けました。

 

勅使川原さんの公演に向けたコメントがあったので一部ご紹介します。このコメントそのものが一つの芸術作品のように思います。

 

「闇に消え入るようなはかない人間の内側に深く沈んでいる感情が横たわる夜の幕を一枚一枚はがすように描きます。冷たすぎる夜、熱すぎる感情、音楽の背後の深い沈黙、引き裂かれる闇、原作にある不可能な愛、死、人間への郷愁という秘密の刻印を、私は全身に焼き付けられた感覚を否定できません。前奏曲「愛の死」から始まる音楽が、悲劇的陶酔によって幾度も身も心も奪い取る。その時、私は無限循環という死と生の理想をダンスにしたいと強く願っていました。」

 

極めて感動的な公演で、観に行って本当に良かったです!!!踊りはもちろん素晴らしかったですが、振付・選曲・照明・音響と全てが極めて高水準で本当に感動的。そして、改めてそのような踊りをインスパイアさせたワーグナーの音楽の素晴らしさも堪能できました。またオペラを観るのが今からとても楽しみです!