ヒエロニムス・ボスにピーテル・ブリューゲルと大好きな画家の作品が揃った美術展が始まったので、さっそく東京都美術館に行ってきました。

 

 

まずは何と言っても今回の目玉、ブリューゲル/バベルの塔。近くで観ましたが、大変迫力があり、かつ、非常に繊細な絵です。最初はこの堂々たる威容が目玉たる所以と思っていましたが、実際に見てみると、それだけでなく、非常に細やかな描写がなされています。レンガや漆喰を運ぶ赤や白のクレーンや作業員が描かれていたり、4段目には教会のガラス窓がありそこに人々が列をなしていたり、長年かけて塔が造られたことを塔のレンガの色(建築中の上は赤で下は黄土色)や窓の様式の違いで表していたり。細部まで非常に凝った絵となっています。この辺りは肉眼だとなかなか分からないので、オペラグラスを持って鑑賞するといいと思います。

 

東京藝術大学による拡大された絵もあり、こちらもお勧めです。人間の身長を170cmとすると、バベルの塔は約510mになるとのこと。ところで、どうしてこのような絵を描いたのか?諸説あるそうですが、私もゆっくり考えたいと思います。

 

(写真)ピーテル・ブリューゲル1世/バベルの塔

※購入した絵葉書より

 

次に私の大好きな主題、「聖アントニウスの誘惑」から。ボスの忠実な模写の絵とブリューゲルによる版画の2枚の絵がありました。どちらも奇怪な怪物や悪魔が登場して、何とかして聖アントニウスを誘惑しようとしています。どこかしらサルヴァドーレ・ダリなどシュールレアリスムの絵を先取りしているような気も。今回はこのほかにJ.コックによる聖アントニウスの誘惑の絵もあります。今年はクラーナハ展でも2枚観ることができ、計5枚。ちょっとした「聖アントニウスの誘惑」イヤーになりました。愛好家には堪りません!

 

これらの絵を観ると、頭の中を流れる音楽はやはりヒンデミットのオペラ「画家マティス」の第6場の音楽(交響曲だと第3楽章)。う~ん、また観てみたいオペラの筆頭格です。次の新国立劇場のオペラ部門の芸術監督は近代ものが得意な大野和士さんですが、どうかどうか「画家マティス」を採り上げていただけませんでしょうか?併せてツェムリンスキーやシュレーカーもぜひぜひ!

 

(写真)ヒエロニムス・ボスに基づく/聖アントニウスの誘惑

 

(写真)ピーテル・ブリューゲル1世/聖アントニウスの誘惑

 

(参考)クラーナハ展 -500年後の誘惑-(国立西洋美術館)

http://ameblo.jp/franz2013/entry-12240087524.html

 

次にもう1つの目玉、ヒエロニムス・ボスの絵。ボスの絵は油彩画は25点しかなく、その内の2点がロッテルダムのボイマンス美術館にあるそうで、今回特別に来日しました。

 

1枚目は放浪者(行商人)。これは何とも不思議な風情の絵です。左の家は、屋根に逆さまのジョッキがつるされていて、鳩小屋や白鳥の看板があるので、娼家を意味するとのこと。果たしてこの男性はこの娼家に寄ったのか、寄っていないのか?最新の解釈では行商人は男性一般を象徴し、男は誰しも、人生行路の一歩ごとに判断を求められ、ありとあらゆる誘惑にさらされる。ここではそれがもっぱら色事にまつわる、とのことでした。靴がバラバラだったり、行商と言っても売り物が限られているので、寄りたいけど寄れなくて嘆いている表情のように思います。実は幸せは清貧にこそ宿る、ということを表しているような気もします。

 

(写真)ヒエロニムス・ボス/放浪者(行商人)

 

2枚目は聖クリストフォロス。巨人レプロブスが小柄な少年を背負って川を渡りましたが、大変重かったので理由を聞いたら、世界と世界の創造者をともに背負ったからと返答があった、という物語です。背中に乗る幼いキリストが何とも神々しい表情をしています。右側の水差しの家には、ハシゴがかかったり、洗濯物を干していたり、不思議な雰囲気。右には熊がつるされていて、危機が去ったという意味がある一方、その奥に怪物がいて人間が逃げまどい、危機はまだ去っていない、という意味もあるそうです。ボスの絵はただでは終わらない何かを秘めていますね。

 

(写真)ヒエロニムス・ボス/聖クリストフォロス

 

最後に今回、ブリューゲルの版画が沢山展示されていましたが、そこから1枚。タイトルの「大きな魚は小さな魚を食う」はオランダで「弱肉強食」を意味する諺だそうです。下の船の上に親子がいますが、親がそのことを子に教えています。私はこの絵を観て「食物連鎖」「生物濃縮」という単語を思い浮かべました。なお、左上に、魚をくわえている胴体に人間の足がついている奇怪な魚のような生き物(?)がいますが、このキャラのフィギュアがグッズとして販売されていました。最近流行りのいわゆる「キモカワ」キャラ?勢いで危うく買いそうになりましたが、何とか踏み止まりました(笑)。

 

(写真)ピーテル・ブリューゲル1世/大きな魚は小さな魚を食う

 

 

ボスやブリューゲルなどの不思議な魅力の絵の数々、めっちゃ堪能できました!始まってまもないですが、既に「バベルの塔」の周りは人だかりとなっていて、また、ブリューゲルは小ぶりの版画の絵が多いので、早めにすいている時を狙って観に行かれるといいと思います。大変お勧めの美術展です!

 

 

(写真)おまけ。バベルの塔シフォンケーキ。素晴らしい絵の数々に興奮し、調子に乗って買ってしまいました(笑)。