金子一朗さんのエチュードを中心とした、オール・スクリャービンのピアノ・リサイタルを見つけたので行ってきました。

 

 

金子一朗 スクリャービン・セレクション第2回

(杉並公会堂 小ホール)

 

スクリャービン/

練習曲 作品2-1

練習曲 作品49-1

練習曲 作品56-4

12の練習曲 作品8

8つの練習曲 作品42

3つの練習曲 作品65

ピアノ・ソナタ第10番 作品70

ピアノ・ソナタ第3番 作品23

 

(アンコール)

練習曲 作品8-12(別ヴァージョン)

 

 

私はオーケストラのコンサートやオペラにはよく行きますが、実はピアノが大好きな割には、そんなにピアノ・リサイタルには行っていません。理由は、個人的に聴きたいと思う曲がなかなかプログラムに載らないからです。特に大好きなスクリャービンが入っているプログラムがほとんどないことには大変寂しさを感じています…。

 

そんな中、オール・スクリャービンのプログラムは本当にありがたく、特にエチュードのop.8とop.42を全曲聴けるのは大いなる喜びです。

 

ホールに着き、プログラムを受け取り、中を開いたら思わず笑ってしまいました。チラシの段階で既に十分過ぎるほど充実した曲目でしたが、さらに曲目が増えていたからです(練習曲作品2-1と49-1と56-4)。こういうのは嬉しいサプライズでいいですね。

 

そして解説が大変充実しています。作品についてだけでも何と11ページも!主にショパンのエチュードとの対比で解説されていますが、「困難」という単語がほぼ全ての曲に出てきて、スクリャービンのエチュードを演奏するのは本当に難しいことで大いなる挑戦なんだな、ということがよく分かります。

 

 

練習曲2-1は14歳の頃に書かれたショパンの影響のある抒情的な曲。この曲は比較的取り組みやすいのかな?と思っていましたが、金子さんは非常に慎重に弾いていたので、意外に難しいのかも知れません?練習曲49-1になると、ぐっとスクリャービンぽくなります。小品ですが、気が利いている曲。練習曲56-4になるとより調性が希薄になっています。金子さんは曲想の似ている49-1と56-4を並べて、スクリャービンの調性の進化を示しているかのようです。

 

12の練習曲。8-3は中間部の「ソ~ファソソシ~ソ♪」のところは、もっとゆっくりとメロディを強調した演奏の方が好みかなと思いました。8-5は憧れに満ちたエレガントな曲。いつか弾いてみたいなと思っていた曲ですが、実際に金子さんの演奏を聴いて、非常に難しいことが判明しました。やれやれ…。8-8は冒頭の美しいメロディが大好きな曲ですが、そのメロディを切って演奏していたのが印象的。最後に大きなためを入れるなど、表情豊かです。8-9はこれも難しそうな曲ですが、中間部は得も言えず美しい。8-12はゆっくり目でどちらかと言うと弱音を大切に弾いて行きます。個人的には単体でなくop.8全曲の場合、冒頭は最後の12曲目で「いよいよ真打ち登場!」とばかりに大きなスケールで入る演奏が好きですが、後半ではここぞとばかりに左手に強調を入れて、ダイナミックでとても良かったと思いました。

 

8つの練習曲。42-3は右手が常に怪しげな調子のトリルを弾きますが、俗称の「蚊」よりも何か「ひとだま」やスクリャービン得意の「小悪魔」がつきまとっているような印象を持ちます。私はこういう妖しい音楽を作るスクリャービンが大好きです。42-4は憧れに満ちて儚さも感じられ大好きな曲です。解説では「のどかな印象と裏腹に、演奏はかなり困難である」とのことでした。とほほ…。 42-5は弱音を大切にした柔らかい演奏です。この曲の左手の神秘的なアルペジオには本当に痺れます!8-12と同じく後半は盛り上がり、左手の強調も見事に決まって、スケールの大きな演奏でした。ブラヴォー!

 

3つの練習曲。65-1は最晩年の曲だけあって、一気に神秘的な曲想になります。スクリャービン自身は手が小さかったため、この作品を生前に一度も公開の場で演奏していなかったようである、とのことでした。65-3は印象的な旋律が出てくるので、最晩年の作品の中では大変聴きやすい曲。金子さんはダイナミックな演奏で前半を閉めました。

 

後半はピアノ・ソナタ10番から。以前にオール・ピアノ・ソナタのリサイタルで聴いた時は、番号の若い名曲に囲まれて、やっぱり不思議な曲という印象でしたが、今回はよりこの曲に集中して聴いたためか、スクリャービンのこの曲に対する想いがいろいろ感じられました。あれこれ考えるのでなく、とにかく曲を感じることが大切ですね。解説にスクリャービンの指示した標語が書いてありましたが、「光り輝きながら震えるように」「苦しげな官能をもって」「次第に消えゆく甘いけだるさをもって」などの言葉が印象的。よく雰囲気が出ていた演奏だと思いました。


ラストはピアノ・ソナタ3番。第1楽章は強く弾くところと弱く弾くところの弾き分けが素晴らしい。第2楽章は列車が進行するような軽やかさではなく、ややもったいぶって進みます。第3楽章は思い入れタップリで曲の魅力をよく伝えていました。第4楽章は前半は生真面目に積み重ね、最後の飛翔するところを大きなスケールで弾いてとても感動的。私はこの曲は以前アレクサンドル・メルニコフさんの演奏で聴いて、その時も立派な演奏で良かったですが、金子さんの演奏の方が曲への想いや表現したいことがよく伝わってきて、私はこちらの演奏の方が好きです。

 

(参考)アレクサンドル・メルニコフさんのスクリャービン

http://ameblo.jp/franz2013/archive1-201505.html

 

 

大きな拍手に応えて、金子さんはアンコールに何とエチュードop.8-12の別ヴァージョンを持ってきました!弾く前に「スクリャービンは通常のものと半々で弾いていた」「初めて聴くと変に思うかも知れない」とおっしゃっていましたが、確かにこの曲を最初にCDで聴いた時には、通常のop.8-12と異なる不思議な音が聴こえてきて、「とうとう、うちのオーディオセットが壊れてしまったか?」と焦った思い出があります(笑)。実際に生で聴いてみると、通常のものと甲乙つけがたく、どちらも名曲ですね。実演で両方聴くことができ、大変貴重な機会でした!

 

 

金子さんの素晴らしいスクリャービンを聴くことができ、大満足のリサイタルでした!スクリャービンはまだまだ名作が目白押しなので、ぜひ第3回、第4回と定期的に続くことを期待しています。

 

そして、今回じっくり聴いて、スクリャービンは私にとって決定的な作曲家なんだということが改めて分かりました。これからも聴き続けていきたいです!