新国立劇場の新演出となる「ランメルモールのルチア」を観てきました。指揮・演出・主なキャストは以下の通りです。

 

 

新国立劇場

ドニゼッティ/ランメルモールのルチア

 

指揮:ジャンパオロ・ビザンティ

演出:ジャン=ルイ・グリンダ

 

ルチア:オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ

エドガルド:イスマエル・ジョルディ

エンリーコ:アルトゥール・ルチンスキー

ライモンド:妻屋秀和

アルトゥーロ:小原啓楼

アリーサ:小林由佳

ノルマンノ:菅野敦

 

 

第1幕。スコットランドを思わせる岸壁の舞台。この舞台がこの演出の基調となります。海がプロジェクトマッピングになっていて、波が岸壁に打ちつけたり、群衆が舞台前面に展開する時は凪になったりします。エンリーコのルチンスキーさん。最初のカヴァティーナからよく響く深い声でもう全開です。初めて聴きますが、素晴らしいバリトン。あれっ!?最後の音は普通よりも1オクターヴ高かったような気が?次のカバレッタは途中聴いたことないようなたっぷりしたテンポで自在に歌います。1場ラストはオケが終わるまで声を引っ張り大興奮!こういうの、イタオペを聴く醍醐味ですね!

 

2場の前のハープが本当にきれい。ルチアはペレチャッコさん。広いMETで活躍されているので、ドラマティックな感じなのかな?と思いましたが、聴いてみると、難しい音程を丁寧に歌っている印象です。弱音がとてもきれい。エドガルドのジョルディさんは柔らかい歌唱。最後の2重唱はこのオペラで一番好きな歌です。それぞれ単独の歌唱の後、重唱ではハープが加わり雰囲気を盛り上げます。素晴らしい1幕でした!

 

第2幕。スコットランドの城内を思わせる重厚な舞台。エンリーコとルチアの充実のやりとり。2重唱の弱音が本当にきれい。その後の「ツタタツ、ツタタツ」のリズムでかけ合う場面はかなりテンポを揺らして聴き応え十分。この辺りは指揮のビザンディさんのイニシアティヴでしょうか?全般的に雰囲気十分の指揮でした。ライモンドの生真面目な音楽の説教くさいアリアが可笑しい。あら?この声は聴き覚えが?新国立劇場の宗教裁判長ことピストーラことスニガこと妻屋さんではないですか!新国には本当に欠かせない存在ですね。

 

ルチアが茫然自失で結婚契約書に署名する中、エドガルドが割って登場。イル・トロヴァトーレの2幕とともに好きなシーンです。その後の6重唱は聴き応え十分、観客も大きな拍手で迎えます。銘々が舞台前面で観客に向く素直な演出もいいですね。オペラを観るカタルシスを感じます。ルチアは槍を取り出して襲い掛かろうとしたり、この時点で既におかしくなっていることを表しています。3幕への布石。最後のストレッタも追い込んで良かったです。いや〜、2幕もいいですね!

 

第3幕。3幕で見どころと言えば、狂乱の場。今回はドニゼッティの原意に沿ってグラスハーモニカ(実際はグラス・ハーモニカを奏者のサシャ・レッケルトさんが発展させた楽器ヴェロフォン)が使われていました。ヴェロフォンと一緒にルチアのアリアを聴くと、より幻想的な雰囲気が強調され、今回の演出の泉の回想シーンに合っているように思いました。ペレチャッコさんの歌は弱音のニュアンスが本当に素晴らしい。

 

ところで、今回の狂乱のルチア。手には槍を持っていて、その先には…。ええ~、もしかして、アルトゥーロの生首ではありませんか!1月にクラーナハ展、2月にティツィアーノ展でユディットの絵を観ましたが、まさかここでもお目にかかるとは…。ルチアの狂乱の度合いを強調する演出ですね。3幕最後はエドガルドがルチアの亡骸を抱えて、岸壁の突端に立ち群衆と向かい合う、とても印象的なエンディングでした。

 

 

幕が降りると、素晴らしい公演に、観客は大きな拍手で応えます。ペレチャッコさんは会心の笑顔。ヴェロフォンのレッケルトさんとも握手して、健闘を称え合います。舞台をポンポンッと叩いていたのは、演出に敬意を表してでしょうか?新国立劇場にでしょうか?いずれにしても、素晴らしいルチアの公演でした!

 

ランメルモールのルチアは10年ぶりくらいに観ましたが、やはり傑作ですね。今回はペレチャッコさん、ルチンスキーさん始め、歌手が揃っていることもありますが、狂乱のアリアでグラスハーモニカ(ヴェロフォン)が使われているという点でも必見だと思います。