「ナビ派」という聞き慣れない言葉に興味を持ち、三菱一号館美術館に行ってきました。

 

 

美術展やHPの解説によると「ナビ派」とは以下の通りです。

 

〇19世紀末のパリで、前衛的な活動を行った若き芸術家のグループ「ナビ派」。ボナール、ヴュイヤール、ドニ、セリュジエ、ヴァロットンらを中心とするナビ派の画家たちは、ゴーガンから影響を受け、自らを「ナビ(ヘブライ語で"預言者"の意味)」と呼んで、新たな芸術表現を模索した。

〇平面性・装飾性を重視した画面構成により、20世紀美術を予兆する革新的な芸術活動を行った。

〇1886年春、ゴーガンは独自の画風を探求するためパリを離れ、ブルターニュ地方のポン=タヴェンに滞在し、真に美学的な革新を遂げる。ゴーガンは、日本の浮世絵や七宝、中世のステンドグラスなどを参照し、平坦な色面と明瞭な輪郭線によるモティーフの単純化、二次元的遠近法、表現力豊かなデフォルメなどを行った。

〇「絵画が、軍馬や裸婦や何らかの逸話である前に、本質的に、一定の秩序の下に集められた色彩で覆われた平坦な表面であることを思い起こすべきだ」という1890年にドニが残した言葉が有名。

 

 

いろいろと魅力的な絵がありましたが、まずは今回、私が一番魅了された絵から。ドニ/プシュケの物語です。ここでは「プシュケの誘拐」のみ紹介しますが、展示では「プシュケの物語」の絵6点、「プシュケと出会うアモル」「プシュケの誘拐」「プシュケの好奇心」「プシュケの罰」「許しとプシュケの婚礼」「プシュケの誘拐(第2ヴァージョン)」、が出ていて、正に壮観でした!ピンク色が印象的な魅惑的な絵の数々。完璧な美貌を持つ故にヴェヌスの嫉妬を買い、試練を与えられた王女プシュケの物語。解説には「ギリシャ語で『魂』の意味を持つプシュケは、天上と地上の愛の間で揺れ動く人間の魂を象徴している。」とありました。

 

クラシックのファンだと、セザール・フランクの交響詩「プシュケ」を思い浮かべる方もいらっしゃるかも?名曲、交響曲ニ短調と作曲年代が近く、大変官能的で大好きな曲なのですが、残念ながらこれまで実演で聴いたことがありません…。カンブルラン/読響またはデュトワ/N響またはスダーン/東響辺りでぜひ取り上げてほしい曲。その際はせっかくなので4部でなく、合唱入りの6部で!

 

(写真)モーリス・ドニ/プシュケの物語 プシュケの誘拐

※購入した絵葉書より

 

 

続いて、同じくドニ/マレーヌ姫のメヌエット。私は美術展に行くと、どうしてもオペラの題材とか楽器が描かれている絵に興味を持ってしまいますが、これはドニが後に妻となるマルトを描いた最初期の肖像です。 解説には、「『「マレーヌ姫』はモーリス・メーテルリンクが1889年に発表した戯曲。画中の楽譜はおそらく同作に霊感を受けて制作された楽曲のもので、ドニが口絵装飾を手掛けた。マルトは当時この戯曲を読み耽っていたという。」とありました。ドニのマルトへの愛情が感じられる絵ですね~。調べてみたら、24歳で夭折した女性作曲家、リリー・ブーランジェがオペラ「マレーヌ姫」を手掛けていましたが、残念ながら未完で終わったようです。ドビュッシーも構想をしていたもよう。メヌエットの作曲者は果たして誰なのか?後々調べてみたいと思います。

 

(写真)モーリス・ドニ/マレーヌ姫のメヌエット

 

 

続いて、ナビ派結成の端緒となった絵です。ポール・セリュジエ/タリスマン(護符)。セリュジエは1888年の夏、ブルターニュ地方のポン・タヴェンでゴーガンの助言を得て、後にナビ派結成の引き金となる本作を制作した、とのことです。その時の助言とは以下の通り。

 

「これらの木々がどのように見えるかね?これらは黄色だね。では、黄色で塗りたまえ。これらの影はむしろ青い。ここは純粋なウルトラマリンで塗りたまえ。これらの葉は赤い?それならヴァーミリオンで塗りたまえ」ポール・ゴーガンからポール・セリュジエ、1888年

 

めっちゃ、ストレートな助言ですね!(笑)ちなみに、助言をした当のゴーガンの作品もありましたが、非常に写実的で穏当なものでした。この助言により、どうしてこのように抽象的な作品が突然変異のようにポンと出てきたのか、興味深いものがあります。

 

解説には、「画面をななめに横切る道、川沿いのブナの並木、右奥の水車小屋」とありましたが、言われなければ分かりませんし、言われてもよく分かりません(笑)。なお、私がこの作品を観て一番最初に思ったのは、「カンディンスキーかな?」でした。

 

(写真)ポール・セリュジエ/タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴァン川

 

(参考)ミュンヘンのレンバッハギャラリーのカンディンスキー

http://ameblo.jp/franz2013/theme16-10101206952.html

 

 

最後に、ヴァロットン/ボール。フェリックス・ヴァロットンは「外国人のナビ」と言われていたそうです。スイス出身だからでしょうか?この「ボール」という作品は、2014年の「ヴァロットン―冷たい炎の画家」展(三菱一号館美術館)でも展示されていました。このヴァロットン展、ヴァロットンの不思議な魅力の絵が沢山あって、魅了されまくりでしたが、その中でもこの「ボール」という作品は一際不思議な魅力を放っていました。ジョルジョ・デ・キリコに「通りの神秘と憂鬱」という同じく不思議な魅力の絵がありますが、この絵はまた違った角度から不安を感じさせます。解説には「不自然に鮮やかな人物とボールの色彩、不均衡な構図や遠近感が観者に言いようのない不安を抱かせる。」とありました。

 

(写真)フェリックス・ヴァロットン/ボール

 

 

これらのほか、日本美術に傾倒した平面的で装飾的な画風から「日本かぶれのナビ」と言われたピエール・ボナールの絵、フォーヴィスムの大胆さを15年も先取りしているエドゥアール・ヴュイヤールの絵、アトリエが「神殿」と呼ばれナビ派の交流の場となったポール・ランソンの絵など、本当に魅力的な絵が満載でした!

 

三菱一号館美術館は歴史的建造物を活かした雰囲気のある空間だけでなく、いつもキラリと光る企画で本当にいいですね。金曜日は20:00まで開いているのも嬉しい。これからも大いに期待します!