ウィーンという街は本当に素晴らしいところで、ザルツブルク音楽祭のように音楽祭シーズンでなくても1日に複数のコンサートやオペラを楽しめることがあります。しかもその1つ1つのコンサートやオペラのレベルが極めて高い。正に音楽の都とはこのこと、クラシック好きにとって天国のようなところです。ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで既にお腹いっぱいではありますが、夜にコンツェルトハウスにウィーン交響楽団の第九を聴きに行きました。


Wiener Symphoniker, Orchester
Wiener Singakademie, Chor

Malin Hartelius, Sopran
Marie-Claude Chappuis, Mezzosopran
Jörg Dürmüller, Tenor
Matthias Goerne, Bariton
Ton Koopman, Dirigent

Ludwig van Beethoven
Symphonie Nr. 9 d-moll op. 125 (1822-1824)


トン・コープマンさんと言えばバッハの演奏が有名で、私もアムステルダム・バロック管弦楽団と来日された時にブランデンブルク協奏曲全曲のコンサートを聴いて、その熱いバッハに非常に感激した思い出があります。そのコープマンさんがベートーベンを振るということ自体、これまで聞いたことがありません。大変楽しみです。

ユーゲントシュティールの上品なデザインが美しい、ムジークフェラインとはまた別の魅力に満ちたコンツェルトハウスの大ホール。コープマンさんが登場し、その独特な会釈をしてから(観客とお互いを認め合うようなニュアンスがありつつ媚びないこの会釈が私は好きです)、指揮棒を振り上げます。第九の序奏が始まり、ウィーン交響楽団の美しい弦の響きが伝わってきたその時!私はこれから何かが起こりそうなただごとでないニュアンスのこもったその音に早くもゾクゾクと痺れ、大いなる不安と期待とを抱く心境となりました!「違う。同じ第九でこんなにも違うのか!」と、一昨々日にライプツィヒで聴いた第九との違いに唖然としました。ウィーン交響楽団は掛け値なしに素晴らしいオケですが、実力的にはゲヴァントハウス管弦楽団の方が上、というのが一般的な世評だと思います。違ったのは指揮者の熱意でした。

1楽章途中の展開部の凄味、2楽章のめくるめく期待感の半端ない音の躍動、3楽章の陶然とした夢心地の無限の時間、そして、合唱も加わっての4楽章の迫力のある展開と感動的な最後の追い込みなどなど…。ただ淡々と進むのではなく、一音一音に丁寧にニュアンスがこめられて、第九の魅力をこれでもかと引き出して聴衆に伝え惹きつけるコープマンさんの熱い指揮に脱帽でした!

歌手のみなさんも素晴らしい歌唱で応えていましたが、中でもマティアス・ゲルネさんが朗々としたバリトンでひと際光っていました。ウィーン・ジングアカデミー合唱団の熱い歌も大変感動的。2013年にクリスティアン・ティーレマン指揮/ウィーン・フィルの来日公演で聴いたウィーン楽友協会合唱団の時にも感じましたが、「私たちの音楽だ」という自負のもと、日本の合唱団のように完璧に合わせてハモる(このスタイルも世界的に見て本当に素晴らしいと思います)というよりは、個人個人が思いの丈をぶつけるようにして歌い、結果的に全体的にバランスが取れている、という感じで、すごい迫力で伝わってきます。

素晴らしい演奏が終わって、私の席の前の中年の男性の方(おそらくヨーロッパの他の国の方)が感激して本当に意図せずに思わず!という感じで立ち上がり拍手をし始めました。元日の第九の公演なので観光客が多く、残念ながら追随する人が出ず(私もすぐに立って称えたい気持ちでしたが、ここが悲しいかな典型的な日本人のマインド…。後ろの人が見えなくなるので、みんなが立った場合だけ立つようにしています)、その方も「あれっ、俺やっちゃったかな?」とやや恥ずかし気な面持ちでしばらくしてから着席。拍手が終わった後、私は真っ先に立ち上がったその方に「あなたに全く共感します」と声をかけ、素晴らしいコンサートに立ち会えた幸運をお互いの笑顔で共有し、お別れしました。



(写真)コンツェルトハウス近くのベートーベン像

(参考)クリスティアン・ティーレマン指揮/ウィーン・フィルの来日公演の第九
http://ameblo.jp/franz2013/entry-11699919385.html