新国立劇場は1997年が杮落とし、今の2013/2014シーズンで16シーズン目を迎えています。満を持してエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの傑作オペラ「死の都」が上演されるということで観てきました。指揮・演出・主なキャストは以下の通りです。


  新国立劇場
  コルンゴルト/死の都

  指揮:ヤロスラフ・キズリンク
  演出:カスパー・ホルテン

  パウル:トルステン・ケール
  マリエッタ/マリーの声:ミーガン・ミラー
  フランク/フリッツ:アントン・ケレミチェフ
  ブリギッタ:山下 牧子
  ユリエッテ:平井 香織
  リュシエンヌ:小野 美咲
  ガストン(声)/ヴィクトリン:小原 啓楼
  アルバート伯爵:糸賀 修平
  マリー(黙役):エマ・ハワード
  ガストン(ダンサー):白髭 真二

  合唱:新国立劇場合唱団
  児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
  管弦楽:東京交響楽団


 素晴らしいオペラなのでもともと感動は約束されていましたが、歌手・オケ・指揮者・演出と揃い踏みとなり、最高の公演となりました!!

 まずは演出。今回の演出の大きな特徴として、亡くなった奥さんのマリーをほぼずっと舞台に出して、パウルがまだ奥さんが亡くなったことを受け入れられていないことを表しています。パウルがマリエッタに惹かれていく場面でもマリーとのやりとりでパウルの逡巡する心を表したり、第3幕ではいよいよマリエッタもマリーの存在を認識し直接対決があったり、歌詞ともマッチしてとても説得力のある演出でした。パウルがマリーにキスをして旅立つラストは感動的で涙をそそります…。

 舞台上には思い出の品が詰まった家の形をした宝石箱が並べられ、左右の壁には写真も沢山飾られ、「在りし日を偲ぶ教会」に相応しいセットです。第2幕も同じセットですが、今度は宝石箱を家に見立ててパウルがブルージュの街をさまよう雰囲気を出したり、中央のベッドを舟に見立ててマリエッタと仲間たちの馬鹿騒ぎを引き出すなど、非常に洗練されていて感心させられる舞台です。

 歌手では、パウル役を得意としているトルステン・ケールさんが奥さんを亡くした悩める男を好演していました。この方、昨年のバイロイトのタンホイザー役もはまっていましたが、苦悩する主人公系の役柄が合うのかも知れません。昨年の新国立劇場タンホイザーのエリーザベト役を歌ったミーガン・ミラーさんのマリエッタは立派な歌。1幕の「リュートの歌」を始め素晴らしかったです。

 フランク/フリッツ役のアントン・ケレミチェフさんも安定して力強い声。一点、第2幕のフリッツの「ピエロの歌」は立派な歌でしたが、ややサクサクと歌い進めていた印象。ここはバリトン一番の聴かせどころなので、できればもっとタップリとテンポを揺らして歌って欲しいと思いました。ただ、今回は「ピエロの歌」が歌われる中、パウルがマリーの思い出の品を手に取ろうとして、マリエッタの仲間たちに拒否される、という演出がついていたので、演出上の要請だったのかもしれません?

 脇役では、ブリギッタ役の山下牧子さんが素晴らしかったです。期待感満載の導入の音楽の後、山下さんの豊かな声で一気に舞台に引き込まれました。マリエッタの仲間のみなさんも息の合ったレベルの高いアンサンブルで楽しかったです。黙役であるマリーを演じたエマ・ハワードさんはほとんど出ずっぱりですが、繊細な演技で感情が手に取るように伝わってきます。ガストンを途中ダンサーの方が演じていましたが、しなやかな動きでアクセントが入ってとても良かったと思いました。

 最後に、ヤロスラフ・キズリンクさん指揮の東響ですが、コルンゴルトの官能的な音を、やや音を抑えめにして精妙に演奏していて、大変感銘を受けました!コルンゴルトの音楽はR.シュトラウスの延長上にあると思いますが、R.シュトラウスとの大きな違いは、官能的で芳醇ではあっても、透明感も持っていることと私は思います。この辺りをよく描出していた素晴らしい演奏だと思いました。もしかすると、東響こそがこの素晴らしい公演の最大の立役者かも知れません。

 それにしても…、コルンゴルトの音楽の何と素晴らしいことか!!!ウィーン初演では隣に座ったR.シュトラウスが各幕ごとにコルンゴルトに賛辞を送ったとのことですが、光景が目に浮かびます。今回の新国立劇場での公演を機に、もっと日本でも取り上げられてほしいと強く思いました。今回の演出が素晴らしかったので、まずは新国立劇場に再演していただくことを熱願します!



 ところで、新国立劇場では同じ3月にオペラ研修所の公演として、R.シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」を中劇場で上演しています。そもそも音楽の方向性が近いだけでなく、劇中劇とパウルの想像の世界、コメディア・デラルテ(ツェルビネッタと愉快な仲間たち)とマリエッタ&愉快な仲間たちと、大変共通性があるような?折りしも今年はR.シュトラウスの生誕150周年。新国立劇場が意図的にこの2演目を選んだとしたら…、味のある粋な計らいですね!



(参考)トルステン・ケールさんの昨年のタンホイザーはこちら
http://ameblo.jp/franz2013/entry-11604026083.html

(参考)新国立劇場オペラ研修所のR.シュトラウス/ナクソス島のアリアドネはこちら
http://ameblo.jp/franz2013/entry-11797694884.html