※10/29から、ロンドン市(イギリス)ならびに、ビルバオ市およびサン・セバスティアン市(スペイン)の各目的先を愛知県議会を代表して訪問調査してきました。

 〇イギリス経済のGDP(名目国内総生産)は世界第5位(世界のGDPに占める割合は3.5%)。

 GDPの約8割をサービス部門が占め、金融サービス業が基幹産業であり、ロンドンは世界最大の金融センターとして有名です。

 イギリス経済は、欧州連合(EU)離脱(ブレクジット)以降、国内外の企業で事務作業やコストが大幅に増加、貿易障壁の復活で輸出入は急激に低下、投資も減少、労働力は不足し、物価が上昇しました。

 そこに、新型コロナパンデミック(世界的大流行)が重なり、ウクライナ戦争も加わって、インフレ、エネルギー危機、生活費高騰、食料不足、貧困と格差の拡大など多くの問題に見舞われています。

 イギリス政府の財政運営を監視する予算責任局(OBR)によれば、EU離脱でイギリス経済には年1,000億ポンド(約16兆円)の損失が生じ、現在の国内総生産(GDP)はEUを離脱しなかった場合と比べて4%小さいと試算し、また、イギリス国立経済社会研究所(NIESR)によれば、イギリス経済は今後5年にわたる「失われた経済成長」を迎え、貧しい人ほど影響を受けると警告しています。

 一方、ブレグジットを取り巻く不確実性にもかかわらず、ロンドンにおけるスタートアップエコシステムは、スタートアップの数と投資の両方が年々増加し続け、盛んになっています。

 ロンドンにおけるエコシステムを取り巻く環境の特色(特徴)としては、①ビジネス環境(金融センター等)、②世界トップレベルの大学(オックスフォード、ケンブリッジ等)、③政府のコミットメント(国外からの起業家に対するスタートアップビザの優遇発行、投資家に対する税制優遇措置等)が挙げられます。

 ロンドンはヨーロッパの中でスタートアップエコシステムが最も早く発展しましたが、その発展を牽引したのが、ヨーロッパを代表する金融産業とのシナジーの高いフィンテック分野です。
 また、近年、高い技術力を生かしたディープテック分野でのスタートアップも多く輩出しています。

 イギリス政府は今後、サイエンスとテクノロジー分野において、日本などとコラボレーションする方針を固めており、愛知県は産業エンジニアリング分野に長けていることから、ロボティクス、化合物半導体、宇宙科学などの分野での連携が期待できます。

 〇スペイン経済のGDPは世界第14位(EU第4位)。

 EUは依然としてスタグフレーション(インフレと景気停滞の同時進行)の渦中にありますが、スペインは底堅い景気回復が続いおり、それを牽引しているのが観光業(GDPに占める割合は約12%)です。

 スペイン政府は、新型コロナパンデミックの中、約34億ユーロ(約4,800億円)を投じ、文化遺産の改修、観光資源の高度化、流通のデジタル化など観光産業のテコ入れを行うとともに、ホテル、レストラン、交通機関など観光関連産業での雇用維持のため、約526億ユーロ(約7.5兆円)の公的資金も投入してきたことから、急激な需要回復が見られる一方、人材不足は生じていないとしています。

 スペイン政府観光局によれば、歴史遺産やグルメに加えて、サッカーやテニスなどスポーツ観戦、鉄道旅行、高齢者や障害者向けのインクルーシブツーリズム、ワーケーションなどにも焦点を当て、カナリア諸島など新たなデスティネーションへの誘客も強化し、観光業をさらに発展させていくとしています。

 他方、スペインは、2030年までに経済的・社会的な成長を図り、質の高い雇用を創出するため、スタートアップエコシステム促進法を含む50項目にわたる重要施策をまとめた「スペイン起業家国家戦略」(①投資の促進、②人材の確保、③スケーラビリティ(企業がスケールアップできる機会を増やす)、④公共部門のイノベーションの推進)を進めています。

 なお、「スペイン起業家国家戦略」では、主に10セクターに注力することとし、①産業、②観光、③交通、④ヘルスケア、⑤建設、⑥エネルギー、⑦金融、⑧通信、⑨農業、⑩バイオテクノロジーの10セクターはスペインのGDPの60%以上に相当します。

 スペインにおけるエコシステムを取り巻く環境の特色(特徴)としては、ヨーロッパのスタートアップ都市のトップ10にバルセロナとマドリードの2都市が入る中、比較的低い給与水準で優秀な人材を確保でき、低い生活コストで生活できる環境が揃っていることに加え、スタートアップ法の制定により、スペインにおける起業やスタートアップへの投資を促進しやすい基盤が整っていることが挙げられ、2030年までに社会的影響力を持つ起業家国家を目指すとしています。

*10/29~11/5 イギリス・スペイン渡航
(10/29午後に羽田空港から日本を出発し、10/29夜にドイツのフランクフルト空港にて搭乗機を乗り換え、ロンドン市のヒースロー空港に到着後はそのままバスに乗り込み、ロンドン市街のホテルに移動しました。

 当日10/29は日曜日夜の雨模様とあって、慢性渋滞が問題となっている首都ロンドンの通行はスムーズでした。

 翌10/30午前中は、ロンドン市内において、在英国日本国大使館を訪問しました。

 現地スタートアップや在日スタートアップのマッチングなどを手掛ける日本人女性によるレクでは、実務レベルでの現地事情を知ることができました。

 イギリス政府は、アメリカのシリコンバレーを参考に、「Tech City構想」を打ち出し、ロンドンにIT企業を積極的に誘致することで、ヨーロッパでも最大のIT集積地となりました。
 なお、企業の研究開発プロジェクトなどへの資金面での支援において重要な役割を担っているのが、イノベートUK(イノベーション振興に取り組む政府外の公的振興機関)であり、様々な対象業種や規模の助成金を年間を通じて公募しています。
 このイノベートUKは、デジタル技術や細胞療法など10セクターにおいて、先端技術の商用化支援を目的とした研究開発センター「カタパルトセンター」を運営しており、これは、企業、大学、人材、情報が集積するエコシステムを形成する独自の取組です。

 近年はカーボンニュートラル、スマートシティ分野においても政府主導で様々なプロジェクトが進行しているとのことでした。


 
 午後からは、Plexal社を訪問し、ロンドン市内におけるスタートアップの最新動向について聴取しました。

 Plexal社が運営するインキュベーション施設は、ロンドンオリンピックのプレスセンター跡地を活用した広大なスタートアップハブです。
 イギリスでは、起業の初期段階から具体的なビジネス・サポートを提供するプレーヤーが豊富であり、約200のインキュベーター、約250のアクセラレーターが存在し、スタートアップや金融機関、アクセラレーターなどが入居するスタートアップコミュニティが数多く存在します。
 ロンドンのアクセラレーターはそれぞれ、専門領域を持っており、その半数をテクノロジー分野を占め、その中にはデジタル、フィンテック、ヘルスケア、IoTが並び、革新的な技術や製品を求める大手企業とスタートアップの橋渡しも行っています。

 エコシステムの重要な柱(①コミュニティ、②インフラ、③ブランディング、④エデュケーション、⑤フレームワーク、⑥ファンディング)のうち、⑤フレームワーク(イノベーションを支える行政や法律の枠組み)を変更する「規制のサンドボックス」のコンセプトである「まずやってみる」という考え方の定着は、ロンドンにおけるイノベーションへの貪欲さが為す術であると実感しました。 

 

 

 



 翌10/31午前中は、ロンドン市内において、日本と北欧諸国間のスタートアップの事業展開を双方向で支援しているジェトロ・ロンドンを訪問しました。

 ロンドンのスタートアップ・エコシステムが世界第2位であるのは、政府による投資を呼び込むための大胆な施策、外資にも開かれた自由市場、レベルの高い教育機関、英語が公用語であるなどの優位性にあるとの指摘はその通りだと思いました。

 そうした中で規模や立場を超えたコラボレーションが進むロンドンの取組は、愛知県が来年(2024年)10月にオープンする「STATION Ai」が目指すべきオープンイノベーションの参考となります。

 

 



 午後からは、Hatch Enterprise社を訪問し、ロンドン市内におけるスタートアップの最新動向について聴取しました。

 社会課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスは、1990年代にイギリスで始まったと言われています。

 CEO兼創設者であるDirk氏は、女性、外国にルーツを持つ、あるいは障がいを持つなど、ビジネス界では過小評価されがちな属性にある人々によるスタートアップ創業をこれまでに6,000人以上支援してきたとのことです。

 十分な支援が受けられていない起業家に、①ビジネスを創り、②事業をスタートさせ、③事業を成長させるために必要な支援を提供することで、起業家たちが持続可能な事業で「社会に変化を起こしていく」ことが目的だと語る姿には強い熱意が感じられました。

 イギリスでは、生きがいを求めて起業家になることを目指す人が多く、自分の人生の目的とお金を稼ぐことに加えて、社会に良い影響を及ぼすこととのバランスを取ることを重視しているとのことであり、職業観として極めて健全だと感じました。

 旧東ドイツ出身で起業家人生20年、奥さんと子供3人に愛犬を家族に持つDirk氏が地で行く、企業で安定的な職を持つよりも自分の人生を自分自身でコントロールできる働き方が近年、イギリスでは好まれていると聞き、その起業家精神に感じ入りました。

 

 

 



 翌11/1は、ガドウィック空港からイギリスを出発し、スペインに移動し、ビルバオ空港到着後はそのままバスに乗り込み、ビルバオ市街のホテルに移動しました。

 翌11/2午前中は、まず、ビルバオ市役所を訪問し、ビルバオ効果と称賛される都市再生について聴取しました。

 ビルバオ市は、バスク州の人口200万人の50%が集中するビスカヤ県の県都で約40万人を有しています。

 1970年代に計画され、今日に至るまで継続して都市再開発を進めてきたビルバオ市は、鉄鋼業の衰退、重工業による環境の汚染を克服しようと、都市の抜本的な作り直しに着手し、産業構造の転換、創造的な都市デザインの採用、先進的な都市交通の導入などを進め、今なお進化を続けています。

 港湾、道路、地下鉄の都市インフラの整備、大規模地域開発、文化施設の建設・リニューアル、港湾の再整備、その他都市施設の建設など多岐にわたるビルバオ市の都市再生プロジェクトの実現の背景には、政治権力と諸機能(地域整備や都市計画の権限を含む)が委譲された自治州が縦割り分野別の政策を横断的に調整し、県や市町村の計画を指導し、地域整備のための新たな手法を考案する権限を持ち、州という広域レベルで都市計画の諸課題に取り組むことが可能な制度が大きく寄与しています。

 

 

 


 
 続いて、IDOM社を訪問し、ビルバオ市における都市再生の経過と将来計画について聴取しました。

 IDOM社は、ビルバオ市の都市再生を手掛け、魅力的な都市として国際的に認知されることに貢献してきた多国籍エンジニア企業です。

 この間、ビルバオ市の都市空間デザインを担った同社の総合的なコンサルティング能力は世界各都市の再開発も手掛け、いわゆるビルバオ効果の世界的な波及を担っています。

 続いて、バスク州政府貿易投資事務所を訪問し、強固なエコシステムに支えられたバスク州の革新性について聴取しました。

 

 

 



 バスク州政府貿易投資事務所は、バスク州政府の下、バスク企業の国際化の促進を目的に設立されました。

 1980年代に経済危機を経験したバスク州は、州政府の取組の下、産業、科学、技術、イノベーションを中心とした包括的な構造改革を達成し、近年では、環境ビジネスや情報、通信、技術開発など、いわゆるニュー・エコノミーと呼ばれる分野の進展が著しく、新しい雇用もそれらの分野で生み出されているとのことでした。 

 

 


 
 午後からは、グッゲンハイム美術館を訪問し、ビルバオ効果の中心として今なお、大きな反響を呼び続ける観光戦略について聴取しました。

 ビルバオ市の都市再生が進む中、グッゲンハイム美術館の誘致・オープンによって世界的に脚光を浴びることとなり、美術館自体の先鋭的なデザインがその後の公共インフラ整備におけるデザインに大きな影響を与えました。

 人口40万人の街に、この美術館目当てに世界中から観光客が集まり、来館者数は年間100万人以上で、グッゲンハイム美術館が竣工した1997年以前と比べて約20倍以上に増えたとのことであり、土日に休業することが多かったビルバオの飲食店は、土日を含め観光客が訪れやすいように営業日時を改めたそうです。

 

 



 翌11/3午前中は、まず、サン・セバスティアン市役所から、スマートシティに向けた公共機関の取組について聴取しました。

 サン・セバスティアン市では、、スマートシティ構想に基づき、スマートグリットや公共施設のエネルギーマネジメント、低炭素・省エネルギーに資するシステムの導入によって行政課題の解決を進め、近年では、環境負荷の軽減のみならず、効率的な都市経営の実現のため、AIやIOTなどを活用したスマートシティの更なる進展を目指し、ICT(情報通信技術)を活用した交通データ管理システム、EV(電動)公共都市バス、レベル5の自動運転システム(完全自動運転)、木質バイオマスの活用が進められています。

 それに合わせ、既存道路の歩行者専用道への転換、自転車が乗れるエレベータ設置など、観光都市に寄与するハード整備も進められていました。

 



 続いて、午後にかけてTecnalia社から、スマートシティに向けた民間の取組について聴取しました。

 レクのために訪問したのは、ビスケー湾を望む小高い住宅街に立地する海外や国内他地域から研究者を受け入れる施設でしたが、文字通り、ビスケー湾の真珠と呼ばれるエレガントで美しい都市で、かつ、一定のインセンティブ(報酬)には有能な人材が集まるとのことでした。

 そもそも、サン・セバスティアン市は学術都市の一面もあり、モンドラゴン大学、ナバラ大学、バスク大学、デウスト大学などがサブキャンパスを構えており、スペインの主要な研究開発拠点のひとつであることも寄与しています。

 なお、スマートシティに向けては、観光利便性を重視するだけでなく、住民環境の質(風光明媚さ)を維持し、優雅に住み続けられるような配慮が必要であるとの指摘は、近年、世界的に顕著なオーバーツーリズム(観光公害)問題を考える上で参考となりました。

 

 



 翌11/4早朝には、ビルバオ空港からスペイン国を出発し、ドイツのミュンヘン空港にて搭乗機を乗り換え、翌11/5午前に羽田空港にて日本に到着しました。

 訪問先である①イギリスでは、世界有数のスタートアップ大国である所以を知り、②スペインでは、食と文化による観光立国でありながら、ICTの活用であらゆる面で最適化された運営都市を目指す取組を目の当たりにする機会を得ました。
 
 今回の渡航で得た経験と知識を基に、後日の議会審議において愛知県関係当局に提案して質疑するとともに、本県企業に対しても情報提供して協業を促したいと思います。(併せて、調査報告書は後日、県執行部、県議会、記者クラブに配布、ならびに県議会HPに掲載、および県議会図書にて閲覧可能)

【追伸】
 今回の渡航でアテンドいただいた現地在住の皆さんには、多くの学びをいただきました。

 特に、バスでの移動時から訪問先や食事会場に至るまでの間、終始熱心に現地の歴史や生活習慣などを分かり易く説明いただいた日本人通訳の皆さんの仕事ぶりはもちろんのこと、彼らが現地国で逞しく暮らしを立てておられることに感じ入るものがありました。

 また、移動バスの運転手、ホテルスタッフの皆さんとのコミュニケーションの中から、彼らの働き方や生き方について知ることができ、人生いろいろとの印象を強くしました。

 結びに、今回の貴重な機会をいただきましたすべての皆さんに、心から感謝申し上げます)

*11/5 文化展
(羽田空港到着後、品川駅から新幹線にて名古屋駅へ、名鉄を乗り継いで柴田事務所に戻ったのは14時過ぎでした。

 本日11/5まで開催されている文化展に早速出掛けました。

 まずは、事務所近くの新地公民館に伺いました。

 終了時刻は15時までとのことでギリギリセーフでした。

 所狭しと並ぶ作品を拝見し、馴染みの皆さんと暫し楽しくお話しして帰りました。 

 

 



 続いて、長篠公民館に伺いました。

 開口一番「忘れているのかと思った」と、待ってくださっていた旨お聞きし、嬉しく思いました。

 玄人裸足の作品群を丁寧に案内いただき、作者の個などを知ることができました。

 

 



 引き続き、西中公民館に伺いました。

 入口から終始歓待いただき、いつもながら居心地の良い雰囲気の中、個性豊かな作品の数々を拝見しました。

 ご挨拶の機会もいただき、ありがとうございました)

 

 



→ 民踊のつどい
(各社中の皆さんの艶やかな踊り姿を拝見してきました。

 普段、気さくで陽気な皆さんも、舞台上では凛として華やかで、惚れ惚れとします。

 出演の皆さんのお元気な姿に、ほっこりとして帰ってきました)

 

 



→ 創作部門展
(陶芸、創花、手芸、草木染、切り絵、手描き友禅、盆石など、独創的な作品が勢ぞろいの会場を急いで見て回りました。

 作者の皆さんとも久しぶりにお会いでき、暫し楽しい時間を過ごせました。

 皆さん一様に意欲的に創作活動を続けておられ、文化が持つレジリエンスの高さを実感します)

 

 

 

 



 

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