川の水の流れる音は
以外と実は
とても大きい音なのです  







一匹釣り上げるたび先行を交代して進む それが、私達の釣り方でした

私はキャスティングしづらい所は、どんどん飛ばして先に行った

夫は私が諦めたそんなポイントもしっかりと拾うので
自然と私と夫の距離はどんどん離れてゆく



振り返ると夫の姿が見えない、なんてこと、よくあることでした



不安になり耳を澄ませると 
歩くたびに足にあたる夫のカン高い 
熊よけの鈴の音が微かに「カラン、カラン」と響いてきて

「あ、いるな」と安心したものです




初夏の釣行での出来事です

はっ、と驚いた顔で歩を止めた夫
 
「あれ、俺、車の鍵かけて来たかな!?」と、そして

「心配だから、見てくる」



えーっ、見てくるって💦😱



「ちょっと、ここで待っててね」


夫は踵を返しバシャ、バシャと、飛沫を上げ
今、来た道を引き返し始めた



ガランコロンと賑やかに腰に付けた鈴の音も
そう言って去った夫の後ろ姿も  
あっと言う間に私から遠ざかった


入渓して一時間半は経っていたかと

その道のりを往復する。。。と、なると

これは、かなり待つな、と覚悟した



水の流れる音と蝉の鳴き声しか聞こえない  
風もないよく晴れた日








私は一人で渓流に来た事はないんです
いつも、夫と常に一緒でした  

一人で来るって、こんな感じなんだ


そこは熊の影も濃い道南のある川
意識すると
風が揺らす微かな枝の音にも「もしや?!」と、ドキッとした

上流には気持ちの良いプールがあったけれど
そこまで行って攻める気にもなんだか、なれなかった

でも私の予想よりも遥かに早く
夫は戻ってきてくれたのです

ホントにあっ、と言う間でした


遠くから鈴の音が微かに聞こえ始め
その音はだんだんと大きくなり
やがて夫の姿が現れる

「〇〇ちゃんが、待ってると思ってすごく急いだ!!」と、汗だくのドヤ顔の夫

ほっとした
そして、つくづく頼もしい人だなあ、とその時も私は思った







私は
あの日のように夫の鈴の音がまた聞こえないものか?と

どんなに耳を澄ませても
聞こえないのは
わかっているのだけれど

汗だくの夫の笑顔を待ちわびるような
そんな気持ちに囚われる事があるのです



そんな感情に取り込まれると、
もう、へなへなと、へたり込み
1ミリも動きたくないような
1ミリも顔さえも、上げたくないような
そんな途方もない気持ちになる



それは、大切な人を失った人ならば、誰もが似たような気持ちを
一度は抱くと思うのです


私もそう
そんな私も、ひとつの本当の私



けれど

先を目指し、進みたくなるような
そんな雄々しい考えが浮かぶ時もある


それも、ひとつの本当の自分





私が好きなスピッツの「美しい鰭」という曲



♪流れるまんま 流されたら
 抗おうか 美しい鰭(ひれ)で

   壊れる夜もあったけど
  自分でいられるように♪






柔らかに、したたかに
ひっそりと、毅然と

囚われないよう
捕まらないよう
沈み石にうまく身を隠し
すーっと線を引くよな直線的な身のこなしで、上流を目差す

そんな、泳ぐ魚のような鮮やかさで
全てを凌駕したいと
切に思うときもあるのです

でもね、実際の私は

かっこ悪いぐらい、嘆いたり
愚痴ったり、人を羨んだり、誰かを恋しがったり
何もしたくない、と騒いでみたり

時として自分でもびっくりするような
どうしようもないドロドロとした嫌な感情に戸惑う時もある


でも、そんなこんなで、なんとか凌ごうとしている自分 



格好悪くも美しい
そんなしぶとさが必要な時って
あるよね、と、慰めるように思ってみたりもしている💦








流れるまんま 流されたら
  出し抜こうか 美しい鰭で

離される時も見失わず
      君を想えるように
        
         スピッツ「美しい鰭」