2日目午後。


戦争証跡博物館を出た私達は

徒歩で中心部に戻った。


次に向かったのはサイゴン教会。

フランスの統治下にあった影響から、

いかにも「教会」といった感じのクラ

シックな建築で、そこだけまるでヨー

ロッパの風景のよう。外はバイクの

騒音が激しいけれど、一歩建物の

中に入ると、そこには心地よい静寂

があった。


すぐ隣の中央郵便局もヨーロッパ風

の建物。屋根の中央はドーム型にな

っていて、天井がとても高く、開放感が

ある。


郵便局で私たちは日本に絵葉書を送る

ための切手を購入し、入り口近くにある

国際電話サービスを使って家に電話を

かけた。


たかだか5日間の旅行。わざわざ電話

する必要もなかったのかもしれないけど、

私はやっぱり、母のことが気になっていた。

まだ決して本調子ではない母を置いて、

夏休みとはいえ自分だけ旅行に出てきて

しまったことを思うと、どんなに楽しくても

心がチクッと痛んだ。


電話サービスの窓口でもらった申し込み

用紙に自宅の番号を記入して係の人に

渡すと、電話のブースの番号を伝えられ、

そこで待つように指示された。言われた通りに

9番ブースに入って間もなく、電話のベルが

鳴る。私のほうからかけているはずなのに

ベルが鳴るなんて変な気分。


受話器をとって、家につながると、父が出た。

家を出たのは昨日なのに、

「何か変わったことない?」

なんて間の抜けた質問を思わずしてしまう。


母に代わってもらって、気にしていたことを

伝える。私ばっかり楽しんじゃってごめん。

ママが具合悪いのに、家に居てあげなくて

ごめん。


それに対して母は

「そんなこと気にしてたの?私は、あなたが

そうやって積極的に外に出て行くことは、

とてもいいことだと思ってるのよ。

気を付けて。楽しんでね。」と言ってくれた。


ガラス張りの電話ブースの中で、思わず涙

が出て、とても困った。

でも心の中にわだかまっていたものが、

すっと溶けていくのを感じた。

母は、やっぱり母だった。

大きく、あたたかかった。