3-2-8 R5
コトリバコ回収計画。
・・・ R 准尉、地形を頭に叩き込め ・・・。
・・・ ダンバートン市潜入に失敗した場合、皇帝タラ隷下の親衛隊に庇護を求めること、これをを許可する ・・・。
・・・ 全ての尋問に回答して構わない … 「コトリバコについてもですか?」 … 彼らはコトリバコの存在を知らない … 。
輸送を担当する人民軍海兵司令と我が内務省情報局は直前までシミュレートを繰り返した。
・・・ウルラ上陸後、通信途絶は必至 ・・・。
「救出は不可能だ。しかし君達の帰還を心より待っている」
もし王都タラへ移動が難しい状況に陥ったら、イメンマハ候あるいはバンホール候に種族を明かし武装解除、投降する。
ラインアルト市やセンマイ地域への逃走も考慮すること。
それすら叶わなければ市内のイネーブラ卿あるいはナイアス子爵の支配区域へ。
いずれかなら犯罪者ではなく軍人、つまり捕虜として拘束される可能性が高い。
情報提供を条件に身体は保障されるだろう。
なぜなら外世界への窓口を欲しているから。
ところがよりによってダンバートン市警公安、特高とは。
・・・激烈な拷問が待っている。
特高課員が高々と演説を述べている間に、僕の対応をしていた銀行頭取が貸金庫の中身を片付けはじめた。
「おいアンタ、何をしている」
「警部殿お役目ご苦労様です。しかし待ってください。協定を守っていただきたい。容疑の方について意見はありませんが、預金物は当行が責任を持ち管理する義務があります。確固たる正当な手続きの上、申請願いたい」
頭取が貸金庫の箱を引き下げたので、僕の左手は84式を握ったままカウンターに落ちる。そして貸金庫の扉がカチッと閉じ・・・鍵はポケットの中。
「頭取さんねぇ。アタクシ、特高課の人間なんですよ。分かりますよね。コイツもすぐに口座解約書にサインしますって。なっ エルフ」
また殴られ、歪む映像がさらに多層にぶれる。
「失礼、ご存知でしょうが」
歯が折れたかも・・・眩暈で吐き気がする・・・口の中がじゃりじゃりする。
「脅迫、ましてや拷問で強制された書面、つまり自由意志ではないサインは無効です。これはダンバートン高等裁判所にて判例があります。
警察の方なら御存知でしょう。正式な手続きの上でのみ当行は従います。
なぜならお客様の信用がなければ銀行は成り立たないからです。
ワタクシ共は信用を担保にお客様の財産を運用し、市の経済活動に貢献する独立機関です。
硬く聞こえるかもしれませんが、法律に則り、お客様と私共、銀行と市政府で取り決めたルールから外れるなどありえません。
つまり市の行政機関たる警察と独立した権限をもつ当銀行の協定が遵守されない限り、あなたの意思には従えません。
信用こそ当行の生命線です。ご理解いただきたい。
どうか上席の方に伺いを」
頭取・・・コイツらお前達の秘密警察でしょう。
「はぁ、おっしゃりたいのはそれだけですかな?」
見誤ってる。蛮勇です。特高は話が通じる相手じゃない。
「ふぅん、アンタさメンツ潰す気?
それじゃあよぉ、戒厳令の意味が無いじゃねーか。バカかアンタは」
警部と呼ばれた男は紙袋から制帽を取り出し眺めはじめた。何か気になるらしい。もったいつけた後、糸クズをつまみ息を吹きかける。
動作の一つひとつが芝居がかっていて笑える。
ただし、制帽のエンブレムは紛れもなくダンバートン市警、恐怖警察の印。
「あー、あー。 ・・・意見するとはなんだ。立場わかってんのか貴様」
後ろに並んでいた女性はペンと書類を持ったまま固まって、頬だけが痙攣している。
銀行員たちはもちろん、客まで身じろぎひとつしない。
頭取と僕、そして警部と呼ばれた奴以外は凍り、完全に音の消えたロビー。
市警、特に特高は何をするか想像がつかない。
どんな些細な事でも、目をつけられたら破壊される。
「まぁいい。
いいんだ、意見なぁ。
あぁ・・・なるほどぉ。いやいや・・・お!・・・ おぉ素晴らしい。なるほどですなぁ。
クサイ、プンプン臭う。反社会的な香りがするのぉ。いかん、真にいかん」
「話を聞いてください。私はですね、互いの役割、つまり職責について確認しているだけです。メンツであるとか、そのようなレベルの・・・」
「よっしゃ! 理解できた。エルフに協力する気だぁ、コイツ。
おう、頭取も逮捕なぁ。
お前はな、スパイの協力者でテロリストだ。
大人しく聞いてりゃコレだ。呆れるわ。
ウチの取調べは過酷である。血まみれにしてやるからよ。死なんよう努力せい!」
「な、何を言っている。無茶な事をおっしゃる。私が何をしたと言うのです? 正気ですか・・・ これは私の職務だ。正式な手続きを求めているだけだ。
そ、そう! 当行はタラが貴族ブラージ公の所有物・・・それに私の市民権はタラだ。いいですか、外交問題になりますよ。あなた、一介の刑事でしょう、その覚悟をお持ちか? 上の方に、とにかく上司の方を呼んで伺いを・・・。
あぁあ、何をする。
離せ、ぶ、無礼な!
呼べない?なぜです。出来ないなら貴様こそ・・・所属・・・官姓名を名乗りたまえ! 勘違いしているようだが・・・」
鈍く重い音が響き、生暖かいモノが手と顔に触れた。
「今は戒厳令下ですぞ、頭取。ダンバートン市警察に全権が委任されておる」
ある意味、口だけでは無い。
本当にやる。
昼間からブラブラしている職の無いチンピラたち。
日暮れから現れ肩で風を切る武装ギルドの構成員。
闊歩するマフィアの面々。
彼等はよく知っており特高には絶対近づかない。威勢と虚勢が全ての彼らを無視する異質な存在。
ダンバートンでは市警特高がNo.1だ。間違いない。
ただ唯狂ってる・・・無言でやるとは。
特高課員の一人が振りかぶった斧は、躊躇なく頭取の手首を切断した。
嗤いながら猟犬たちがカウンターを飛び越え、頭取を引きずり出しす。
「おい、頭取のおっさん。お前なんなの?
顔色わるいぜ、真っ青だ。健康には気を使ったほうがいい。あぁ手がとれちゃったからか。 あぁん?
そうそう、知らないのか。
警部閣下は貴族が嫌いで、タラはもっと嫌いなんだな。最近はエルフもだぜ。で、ん・・・喧嘩売ってんの?」
こいつら・・・。
「警部、ここは反動分子の巣のじゃないですかね。一発、気合入れてやりますわ」
悲鳴が木霊して、充満する恐怖に僕は意識を閉じかけた。
- 医師を目指していて、その気持ちはまだ十分残って・・・感謝されて、それを辞退する柔らかくて優しい世界を夢想していた。
え、ちょっと・・・なにしてんの。
- 現実がこれほど酷いとは。
もがいても厳しく押さえつけられ動けない。
私服の特高課員。客と見分けがつかない。
馬鹿な。
「やめて。止めてください、おねがいします。いやだぁ」
カウンターを飛び越えた男・・・制服の女子行員の髪を掴み無造作に押し倒す。口の中に突っ込んだナイフ・・・一気に引き抜いた。
殺した、アイツ。同胞なのに殺した。だから待てよっ・・・ヤメロヨ・・・関係ないじゃないか。
簡単に殺すな。躊躇とか無いのか。
お前達、人間ってなんだ?
- 帰ったら単位をとらないと。復学してするんだ。
見境無くシリンダー/スイッチブレードを乱射する・・・狂犬の群れ。
ルールってあるでしょう。
僕が甘いのか、世界が狂ってるのか。
エルフは人間と対等に向き合えるだろうか。
こんな動物以下の種族と。
「おいおい優しくなぁ。軟弱な市民だよ。苛烈はいかんから精神棒まで許可しよう。刃物はバツなぁ」
・・・警察官が市民を虐殺する街。
「総員作業停止! 銀行員ども! カウンターから出ろ!
ビシッと動けよ。トリッキーなヤツは即処刑だ。セキもマバタキも許可制だぞ、コラ」
キレルナ。
熱くなったら殺される。
戒厳令のせいで、かえってタガが外れた。この街は危険すぎる。恐らく崩壊する。
優先順位に迷ってる間はないな。
落ち着け。
こんな奴らにジルが捕まったら。
命令書なんてもういい。
正しい選択なんて結果が出た後に部外者が決めるモノ。後出しのジャンケンでしょう、それは。
ただ、この場に限り間違いようの無い道を見つけた。
黙って連行されて殺されても、仮に助かってフィリアに帰れたとしても、死は万人のもの。
どうせいつか死ぬわけだし。
ジルのために生きられるなら、そっちの方がいい。
自分が納得できる人生を選択するは … 今だ。
深呼吸をしてもう一度、自分に言いきかせるため、落ち着いて、ゆっくりと声に出す。
「バイバイ、ジル」
貸金庫のユニットの外、裸の84式は一瞬で展開した。
もしヒーローになれるなら、僕は・・・。