少しずつ冬が近づいて来た。
寒い朝1日は、なぜか、亡くなった父のことを思い出す。
今から12年ほど前のこと。
当時、父は膀胱ガンのステージ4で、藤田医科大学病院へ入院していた。
主治医の先生は、自分の友人なら、膀胱を温存できるから、と大阪医科薬科大学病院へ紹介状を書いて下さった。
元々、地元の病院でわかったけれど、私が、藤田医科大学病院へ転院させた。
すぐに受診日も決まり、受診すると、来週入院して手術を行う事になった。
あまりの展開の速さに驚きながらも、色々と準備をして、父を入院させた。
病院は高槻市だから、私は京都駅に近いホテルに宿泊した。
手術の日、ホテルからタクシーに乗ると、
シートベルトのあるあたりに、キーホルダーが5コくらい飾ってある。
ドライバーのおじいさんに、何かと尋ねると、『お守りです』と帰って来た。
また、私が『どこのお守りですか?』と尋ねると、おじいさんは『鞍馬寺のものです』と。
『今日は父の手術なので、ひとつ販売していただけますか?』と話すと、おじいさんは
『ひとつ¥500です。あんじょういくとええですねぇ。』と売ってくれた。
それは、品の良い、小ぶりな天狗のお守りでした。
あぁ、鞍馬寺やから天狗なんや。しかもタクシーの中でお守り売るやなんて、さすがは観光の京都やな…とすっかり感心して、高槻の父に手術の成功を願い渡した。
父も大変喜んで、強気になり手術は成功した。
やっぱりお守りのおかげやんな、有難いことでした、と心から感謝をした。
京都市内に住む男友達に話をしたら、怪訝そうに、『そんなお守り売ってるタクシーなんかいてへんで、いくら京都でも』だった。
翌年の夏のある日、鍼灸師の友人から珍しく電話があり、何でも良いから鞍馬寺へ行け、としつこく言ってきた。
確かに、我が家の仏像に礼拝する時に、何かの御真言が頭に浮かんで来る。
誰の御真言かと調べると毘沙門天さまの御真言。
鍼灸師の友人に話すと、毘沙門天さまは、鞍馬寺と深い関わりがあると言う。
今なら、愛の千手観音菩薩、光の毘沙門天王、力の護法魔王尊が三位一体となった尊天
だと知っているが、当時は全く知識が無かった。
大阪へ行く日に、早朝に着けるよう出発した。
ケーブルカーが修理中で、徒歩で上がったことを覚えている。
お土産売り場で、それらしいお守りを探すけれど、無い。
宝物殿でかいつまんで話すと、うちのお守りをタクシーが売ることは有りません。
と、断言された。
狐に包まれた気分で、大阪へ行き、家に戻ってよくじつ、父にお守りのことを尋ねた。
『あるぞ。大事にしとるから』
と、そう言い、私に見せてくれようとした。
しかし、どこを探しても無い。
跡形もなく消えてしまった。
そのことを、京都の男友達にはなしたら、
『おまえ、天狗タクシーに乗ったんちゃう??』
世にも奇妙なお話でした。
お付き合いくださり、ありがとうございました。
