9月6日に発生した、エアーニッポン(NH)140便:B737-700型機によるインシデント考察の第二弾です。
※今回のテーマはインシデントの当事者を批判するものではありません。インシデントの考察を通して、航空安全への理解と意識を高めようとするのが目的です。※画像はYou Tubeより。

●過去の考察はこちら(別窓で開きます)
【重大インシデント報告(エアーニッポンB737急降下:その1)】前回はNH140便の副操縦士が、コクピット・ドア・スイッチとラダートリム・スイッチを取り違えて操作した状況を、スイッチの形状やその配置から考察しました。
今回はNH140便のインシデントそのもの、異常な急降下に至るまでを考察します。
【オートパイロットは外れたのか?】インシデントが発生した時、NH140便は高度4万1千フィートの巡航高度であったこと、副操縦士が一人でコクピットで留守番?をしていたことなどからみて、オートパイロットで飛行していたものと思われます(現在の旅客機の運用では巡航中、パイロットが手動で操縦する場面はほとんどありません)。
しかし、実際には、NH140便は副操縦士のラダートリムの誤操作の後、機体が急激な左ロールに入り、続いてVne※を超えるような、異常な急降下に入っています。
※Vne(Never exceed speed)超過禁止速度:機体の強度や操縦性から決められている、運用上許容される最大速度。B737ではマッハ0.82とされている。
▲B737-700のペダステル。手前中央の白い丸いノブが、ラダートリム・スイッチ。このことから、副操縦士が誤操作をした直後、何らかの要因で“オーパイが外れた”と、考えて間違いないと思われます。
B737をはじめ、ボーイング社の機体は、自動操縦による飛行中でも、パイロットが操縦装置(コントロールホイールやラダーペダル)に、ある程度の圧力をかけると、オートパイロットが外れるように設計されています。
これは「パイロットこそが飛行の主役である」と考える、ボーイング社の設計思想に基づくものです。
【ボーイング社の設計思想】今回のインシデントについては、海外の航空関係のフォーラムでも、かなり取り上げられています。
日本と違って?、海外のこの手のフォーラム(いわゆる掲示板ですね)では、比較的、航空関係の知識が深いマニアや、時には航空業界の方からの発言(投稿)も目立ちます。
そこで目に付くのが、「140便の機体がエアバスだったら、何も起こらなかっただろう。」という発言です。
いったい、この発言は何を意味しているのでしょうか?
▲A320のグレアシールドに装備されている、オートパイロット・コントロールパネル。エアバス社では、自動操縦システムに対する設計思想がボーイング社とは異なり、「パイロットはミスを犯す時もある」という想定でシステムが構築されています。
エアバスの機体は、パイロットが操縦桿(サイドスティック)を“普通に”操作しただけでは、オートパイロットは外れません。
“オーパイを外す”には、グレアシールド(正面計器盤の上端)にあるオートパイロット・コントロールパネル、もしくは、操縦桿に設置されているオートパイロットの解除ボタンを押す必要があります。
▲A320の機長席側のサイドスティック。黄色丸で示した赤いボタンがオートパイロット解除ボタン。これは比較的、悪天候が多い、ヨーロッパの気象条件を考慮したものだといわれています。
※ただし、A320以降、エアバス社はオペレータの要望により、操縦桿を“強く”操作すると、オートパイロットを解除できるオプションも追加しているそうです。
ボーイングとエアバスのどちらが優れているのか?あるいはどちらが安全なのか?という問題ではなく、重要なポイントは、パイロットを初めとする運用者サイドが、この特性を正しく把握して、機体を運航する必要があるということです。
そうしないと、1994年に名古屋空港で起きた、中華航空140便:エアバスA300-600R型機の事故※のように、パイロットがオートパイロット・システムの罠にはまり、機長が手動操縦に切り替えた時には、制御不能なほど機体の飛行形態が悪化していた、などということになりかねません。
▲中華航空のA300-600R。画像は事故とは関係ありません。香港啓徳国際空港(1998年7月に閉港)へのアプローチ。※名古屋空港に着陸進入中の中華航空(ダイナスティ)140便が、不適切な“オーパイの操作”によって、エレベーターが“アウトオブトリム”※※となり、機長が手動操縦に切り換えた時点で操縦不能となって機体が失速、空港敷地内に墜落した。乗員乗客264名が亡くなり、7名が重軽傷を負った。
※※当時のエアバス機は、自動操縦中にパイロットがオーバーライドしようとした場合、それがオートパイロットと相反するような不適切な操作でも、操舵面に反映されてしまい、操舵系統が異常な釣り合い状態(アウトオブトリム)になるという事例が、複数のエアバスオペレータから報告されていた。現在は改善されている。
話題をNH140便に戻しましょう。
【間に合わなかった修正操作】副操縦士のラダートリムの誤操作の結果、NH140便はゆっくりと左ロールに入り、同時に機首が下がり始めました。
ネット上の情報によれば、ラダートリムの操作では、B737のオートパイロットは解除されないようです(エレベータトリムを操作すると解除される)。
ではなぜ、NH140便の“オーパイは外れた”のでしょうか?
▲B737-700のコクピット。現時点では推測に過ぎませんが、副操縦士は左ロールに入りかけたNH140便の姿勢を、ラダートリムの再操作による修正や、オートパイロットによる自動復帰を待つことなく、反射的にコントロールホイールをつかんで立て直そうとした可能性が考えられます。
コントロールホイールに副操縦士の力がかかった結果、ボーイング製であるNH140便のオートパイロットは解除されました。
オートパイロットが解除されると、ボーイングの機体では、コクピット内で「ヴィ~ヴィ~」という独特のアラーム音が4回鳴ります。
機体の各種アラーム音は、パイロットが装着しているヘッドセットにも流れるようになっているので、副操縦士は直ぐに、オートパイロットが解除されたことに気がついたはずです。
素人考えでは、オートパイロットが“意図せずに解除された”のであれば、“オーパイを再びエンゲージ”すれば済むのではないかと考えてしまいますが、副操縦士がそうしなかったことは、NH140便のその後の飛行経過からみても明らかです。
副操縦士は手動で、左ロールに入った機体をウィングレベルの状態に戻そうとしましたが、修正量が不足していたのか、あるいは修正のタイミングが遅れたためか、機体を水平にすることはできず、やがてNH140便は左バンクに入ったまま、急速に高度を失い始めました。
▲B737-700のコクピット。左のCRTディスプレイがEADI(Electronic Attitude Director Indicator)で中央に姿勢儀があり、左にスピードテープ、右に高度バーが表示されている。右のCRTディスプレイはEHSI(Electronic Horizontal Situation Indicator)で、磁方位や飛行コースなど、水平面の飛行情報を表示する。夜間の高々度飛行(しかもNH140便は海上を飛行していた)では、水平線をリファレンスに飛行姿勢を制御することは難しく、副操縦士は正面インストルパネルのAD(姿勢指示器)を頼りに、機体の姿勢を把握していたものと推定されます。
実は、このように、オートパイロットで飛んでいる機体を、不用意にパイロットが手動操縦に切り替えることは、飛行形態やパイロットの技量によっては、非常に危険な状態に機体を陥れてしまうことがあります。
過去、類似のシチュエーションで、不用意にパイロットが“オーパイを解除”した結果、機体が危険な状態に陥ったり、最悪、事故に至ったケースもあります。
それでは次回は、NH140便の急降下から機体を立て直すまでを考察してみたいと考えています。
【You Tube動画:Night approach BBU 737-800 (NG)】
●続編はこちら(別窓で開きます)
【重大インシデント報告(エアーニッポンB737急降下:その3)】【重大インシデント報告(エアーニッポンB737急降下:その4)】【重大インシデント報告(エアーニッポンB737急降下:その5)】