今年になってから立て続けに、旅客機のテールストライク(滑走路での尻もち)事故が発生しています。
2月5日に仙台空港でエアーニッポンが運行する全日空731便:A320-200型機(登録記号:JA8384)が、また、3月31日には羽田空港で日本航空082便:B777-200型機(登録記号:JA701J)が、それぞれ着陸時に機体後部を滑走路に接触させるという、航空事故を起こしました。

▲FS2002で仙台空港でのANA731便のテールストライクを再現してみました。それにしても、FS2002デフォルトの仙台空港の殺風景なこと・・・。
そこで今回は、2月に発生したANA731便のテールストライク事故を、例によってfoxtwoなりに検証してみたいと思います。
※今回のテーマは、航空事故の当事者を批判するものではありません。事故の考察を通して、航空安全への理解と意識を高めようとすることが目的です。
【事故の経過】
2月5日、午前9時10分頃、伊丹発仙台行きの全日空731便(エアーニッポン運航)が、仙台空港に着陸した際に、機体後部を滑走路に接触させ、機体下面と圧力隔壁の一部を損傷しました。乗員乗客166名にケガ人などは出ませんでしたが、国土交通省「運輸安全委員会」は、本事象を航空法第76条で定めるところの「航行中の航空機の損傷」に当たると判断し、「航空事故」として調査を開始しています。

▲▼前年、沖縄で撮影されたテールストライクを起こした全日空のエアバスA320、JA8384号機。(You Tube:那覇空港 All Nippon Airways Airbus A320-200 JA8384 着陸)

この事故に関して2月15日、全日空が社内調査の結果、事故はANA731便の機長と副操縦士が共に、機体が滑走路に接地したことに気がつかないまま、着陸復航のために上昇姿勢をとろうとしたことが原因だったと公表しました。
「運輸安全委員会」の中間報告も出ないうちに、事故の当事者である航空会社から、事故原因が公表されるというのは極めて異例ですが、これは去年からインシデントが続いた全日空の、危機感の現われとも受け取れます。
そして、「運輸安全委員会」からも、全日空の社内調査公表から遅れること一週間後の2月22日、事故の進捗状況が公表されました。
▼運輸安全委員会「JA8384滑走路接触事故調査の進捗状況」
http://www.mlit.go.jp/jtsb/flash/JA8384_120205-120222.pdf
運輸安全委員会の「進捗状況」詳細については、次回で触れるとして、そもそも「テールストライク」とは、どのような事故なのでしょうか。
【テールストライク】
第二次世界大戦当時のプロペラ機の車輪の形式は、小型機、大型機を問わず、尾部が下がったスタイルの尾輪式が主流でした。

▲尾輪式旅客機の代表と言える、ダグラスDC-3型。地上では、旅客は坂道に座っている状態です。(FS2002)
戦後、航空輸送が盛んになるにつれて、特に旅客機では乗客の快適性の面からも、機体が地上で水平となる、前輪式が主流となりました。
※機体のジェット化が進み、ジェットエンジンの吸気効率の面からも、尾輪式は衰退する運命でした。

▲ジェットエイジになってから、旅客機は前輪式が当たり前となり、地上での旅客の快適性は、尾輪式とは比べ物になりません。(FS2002)
前輪式の機体は地上姿勢が水平なので、乗り降りする度に手荷物を抱えながら、坂道を登ったり下りたりするなどという、尾輪式の機体の不快さから乗客を解放してくれました。
パイロットからみても、前輪式の機体は、地上滑走中の前方視界が格段に向上しているので、尾輪式の機体ではお馴染みの、前方視界を確保するためにキャノピーを開けて座席をいっぱいに上げたり、蛇行しながらタクシーしたり、果ては誘導員を地上に配置する、もしくは、翼端に乗せるなどという、煩わしい手順を踏まなくても済むようになりました。

▲尾輪式のEA-1E(ダグラスA-1スカイレイダー攻撃機の電子偵察型)の飛行前準備の動画。パイロットが前方視界を確保するために、ヘルメットがキャノピーから外に出るほど、座席の位置を高くしています。▼このポジションのまま、タクシーアウトしていきます。(機体は民間所有機)
(You Tube:Wiley Post 8-29-09 EA-1E (AD-5W) Skyraider N188BP)

また、離陸滑走中の直進操作も容易なので、前輪式の機体はいい事づくめと言いたいところですが、尾輪式にはなかった問題、「テールストライク」にパイロットは注意を払う必要が出てきました。
前輪式の機体では、離陸のために機首を引き起こした(ローテーション)時、また、降下率を抑えるために機首を上げながら(フレア)着陸した時、相対的に尾部が下がるために、滑走路と機体下面のクリアランスが小さくなります。
この時、パイロットが不用意に機首を上げ過ぎると、機体後部を地面に接触させてしまうことがあります。

▲FS2002でもテールストライクを起こすと、火花と煙が上がります。さすが“As Real As It Get!”
このような事故を、機体の尾部(tail)を滑走路に打ちつける(strike)ことから、テールストライク(tail-strike)と呼んでいます。
※尾輪式の機体でも同様の危険はありますが、なんと言っても離着陸時には“尾輪”が下りているために、直接、機体を滑走路に接触させる可能性は、ほとんどありません。
もちろん、パイロットは訓練の時から、離着陸時にテールストライクを起こさないような操縦操作を学び、機体の操縦マニュアルにも、テールストライクに関する注意喚起が記載されてはいるのですが、残念ながら、この種の事故は、世界中の空港でしばしば発生しているようです。
次の動画は北アフリカ、チュニジアのチュニスエア(TUNISAIR)のA320(登録記号:TS-IMM)が、着陸時にテールストライクを起こしたと思われる動画です。
【You Tube動画:Tunisair A320 TAILSTRIKE [?] 】
▲着陸時に横風でも受けたのか、A320の機首が振られるのと同時にバウンドしてしまい(0:14)、やや高めのフレアが災いして、テールを滑走路に接触させているように見えます。少しボリュームを上げないと聞き取りづらいのですが、A320のテールが滑走路と接触しているように見える0:16から二回、にぶい金属の擦過音が聞こえます。
【過去の発生事例】
日本国内でもテールストライクは過去、数件発生していますが、「運輸安全委員会」の調査が終わった最近の事例として、2009年8月に全日空298便:737-800型機(登録記号:JA56AN)が羽田空港で、同年10月にアシアナ航空1125便:A321-200(登録記号:HL7763)が関西国際空港で、いずれも着陸時に起こしたテールストライク事故を考察してみましょう。

▲FS2002でANA298便のテールストライクを再現。発生は夜間でした。
国土交通省「運輸安全委員会」の事故調査報告によれば、どちらの事故も、次のようなシナリオで発生したものと推定されています。
①パイロット(どちらも副操縦士が操縦)がテールストライクの危険性に深く注意を払う事なく、大きなフレア角で接地操作に入った。
②接地する時の降下率が、運航規程の制限値を越えるほど大きかった。
▼事故機の接地寸前の降下率(事故調査報告書より)
ANA298便:ALT30FT=約700FPM
AAR1125便:ALT33FT=768FPM
※ALT:Altitude(高度:報告書では電波高度)、FPM:Feet Per Minute(毎分降下率:フィート)
③大きな降下率で接地した結果、メインギアが衝撃を吸収しきれず、ショックストラット(緩衝装置)が過度に圧縮されたことによる反発力で、機体がバウンドした。(AAR1125便はタイヤが接地したまま、ストラットが伸びきった)
④バウンド後の落着時に、メインギアのショックストラットが再び大きく圧縮され、グランドスポイラーの展開と、過大なフレア角の相乗効果によって胴体下面の地上高が著しく低くなり、機体の尾部が滑走路に接触し、テールストライクが発生した。
なお、いづれの事故機のパイロットも、③の機体がバウンドした際に、反射的にハードランディングを防ぐ意図で、機首の引き起こし操作を行っていますが、これはいわゆる、危険な“逆操作”だったと、報告書は指摘しています。

▲FS2002でAAR1125便のテールストライクを再現。事故当時の関空の気象状態はCAVOK(視程10km以上、雲高5,000ft以上の最も安定した気象状態)でした。
セスナやパイパーのような小型機ならいざ知らず、慣性の大きな大型機では、このタイミングでフレアをかけても降下率をコントロールすることは不可能で、むしろ、機首の引き起こしによって相対的に尾部が下がり、機体下面と滑走路のクリアランスをいっそう縮めることとなって、テールストライクの発生を助長してしまったものだと思われます。
先のチュニスエア:A320のテールストライクも、動画を見る限り、同じような経緯で発生した可能性が考えられます。
ハードランディングで機体がバウンドした場合、B737-800の「Flight Crew Training Manual」には“hold or re-establish a normal landing attitude・・・”、A320の「Flight Operations Briefing Note」には“Maintai a normal landing pitch attitude”、つまりどちらの機体のマニュアルにも「機体の姿勢を変えるな」と明記されており、これを守らない場合にはテールストライクを起こす危険があると警告されています。
ANA298便とAAR1125便の副操縦士は共に、このマニュアルの指示を守っていませんでした。
【報告書の分析】
事故調査報告書の分析によると、この二つのテールストライクは、どちらも操縦にあたった副操縦士が、接地寸前にもかかわらず、高い降下率と大きな迎え角という、不適切な着陸操作を行った結果、発生したものと推定しています。
また、ANA298便とAAR1125便の両者とも、副操縦士を補佐すべき機長が、TAKEOVER(テイクオーバー:操縦交代)や適切な助言を行った形跡がなく(AAR1125便はCVRが消去)、事故を未然に防止できなかったことについても、指摘しています。
※CVR:Cokpit Voice Recorder(操縦室音声記録装置)
ANA298便の事故調査報告書の最後には、事故発生後、全日空が(自発的に)B737-700型から800型(800型は700型より胴体が5.8m長い)への移行訓練の強化、テールストライク対策の履修、着陸時のバウンドに対するシミュレータ訓練の導入などについて付記されています。
ところが、皮肉なことに、今回、ANA731便の事故は、テールストライクの防止策を強化したB737-800ではなく、A320で発生してしまいました。
しかも、着陸時ではなく、そのテールストライクは離陸時に発生したのです。
【You Tube動画:Airbus A380 tailstrike 2 】
▲エアバスA380の離陸可能な最低速度テスト(VMUテスト)。テールを擦るのが予想されるため、機体の損傷防止のために、“スキッド・プレート”と呼ばれるバンパーを胴体下面に装着しています。
【なぜ接地に気がつかなかったのか】
2月5日に発生した、ANA731便のテールストライクは、これらの事故とは発生の経緯が異なります。
なぜなら、ANA731便のケースでは、機体が地上に接地していたにもかかわらず、機長と副操縦士が共に、まだ空中にあるものと“勘違い”して、テールを滑走路に接触させるという、極めて特異なケースだったからです。
果たして、自重63トンの旅客機が滑走路に着陸したのかどうか、コクピットのパイロットが二人揃って気がつかないなどということが、本当にあるのでしょうか?
そこで次回は、A320の着陸シーケンスにスポットを当て、ANA731便のテールストライク事故を更に考察してみたいと思います。
2月5日に仙台空港でエアーニッポンが運行する全日空731便:A320-200型機(登録記号:JA8384)が、また、3月31日には羽田空港で日本航空082便:B777-200型機(登録記号:JA701J)が、それぞれ着陸時に機体後部を滑走路に接触させるという、航空事故を起こしました。

▲FS2002で仙台空港でのANA731便のテールストライクを再現してみました。それにしても、FS2002デフォルトの仙台空港の殺風景なこと・・・。
そこで今回は、2月に発生したANA731便のテールストライク事故を、例によってfoxtwoなりに検証してみたいと思います。
※今回のテーマは、航空事故の当事者を批判するものではありません。事故の考察を通して、航空安全への理解と意識を高めようとすることが目的です。
【事故の経過】
2月5日、午前9時10分頃、伊丹発仙台行きの全日空731便(エアーニッポン運航)が、仙台空港に着陸した際に、機体後部を滑走路に接触させ、機体下面と圧力隔壁の一部を損傷しました。乗員乗客166名にケガ人などは出ませんでしたが、国土交通省「運輸安全委員会」は、本事象を航空法第76条で定めるところの「航行中の航空機の損傷」に当たると判断し、「航空事故」として調査を開始しています。

▲▼前年、沖縄で撮影されたテールストライクを起こした全日空のエアバスA320、JA8384号機。(You Tube:那覇空港 All Nippon Airways Airbus A320-200 JA8384 着陸)

この事故に関して2月15日、全日空が社内調査の結果、事故はANA731便の機長と副操縦士が共に、機体が滑走路に接地したことに気がつかないまま、着陸復航のために上昇姿勢をとろうとしたことが原因だったと公表しました。
「運輸安全委員会」の中間報告も出ないうちに、事故の当事者である航空会社から、事故原因が公表されるというのは極めて異例ですが、これは去年からインシデントが続いた全日空の、危機感の現われとも受け取れます。
そして、「運輸安全委員会」からも、全日空の社内調査公表から遅れること一週間後の2月22日、事故の進捗状況が公表されました。
▼運輸安全委員会「JA8384滑走路接触事故調査の進捗状況」
http://www.mlit.go.jp/jtsb/flash/JA8384_120205-120222.pdf
運輸安全委員会の「進捗状況」詳細については、次回で触れるとして、そもそも「テールストライク」とは、どのような事故なのでしょうか。
【テールストライク】
第二次世界大戦当時のプロペラ機の車輪の形式は、小型機、大型機を問わず、尾部が下がったスタイルの尾輪式が主流でした。

▲尾輪式旅客機の代表と言える、ダグラスDC-3型。地上では、旅客は坂道に座っている状態です。(FS2002)
戦後、航空輸送が盛んになるにつれて、特に旅客機では乗客の快適性の面からも、機体が地上で水平となる、前輪式が主流となりました。
※機体のジェット化が進み、ジェットエンジンの吸気効率の面からも、尾輪式は衰退する運命でした。

▲ジェットエイジになってから、旅客機は前輪式が当たり前となり、地上での旅客の快適性は、尾輪式とは比べ物になりません。(FS2002)
前輪式の機体は地上姿勢が水平なので、乗り降りする度に手荷物を抱えながら、坂道を登ったり下りたりするなどという、尾輪式の機体の不快さから乗客を解放してくれました。
パイロットからみても、前輪式の機体は、地上滑走中の前方視界が格段に向上しているので、尾輪式の機体ではお馴染みの、前方視界を確保するためにキャノピーを開けて座席をいっぱいに上げたり、蛇行しながらタクシーしたり、果ては誘導員を地上に配置する、もしくは、翼端に乗せるなどという、煩わしい手順を踏まなくても済むようになりました。

▲尾輪式のEA-1E(ダグラスA-1スカイレイダー攻撃機の電子偵察型)の飛行前準備の動画。パイロットが前方視界を確保するために、ヘルメットがキャノピーから外に出るほど、座席の位置を高くしています。▼このポジションのまま、タクシーアウトしていきます。(機体は民間所有機)
(You Tube:Wiley Post 8-29-09 EA-1E (AD-5W) Skyraider N188BP)

また、離陸滑走中の直進操作も容易なので、前輪式の機体はいい事づくめと言いたいところですが、尾輪式にはなかった問題、「テールストライク」にパイロットは注意を払う必要が出てきました。
前輪式の機体では、離陸のために機首を引き起こした(ローテーション)時、また、降下率を抑えるために機首を上げながら(フレア)着陸した時、相対的に尾部が下がるために、滑走路と機体下面のクリアランスが小さくなります。
この時、パイロットが不用意に機首を上げ過ぎると、機体後部を地面に接触させてしまうことがあります。

▲FS2002でもテールストライクを起こすと、火花と煙が上がります。さすが“As Real As It Get!”
このような事故を、機体の尾部(tail)を滑走路に打ちつける(strike)ことから、テールストライク(tail-strike)と呼んでいます。
※尾輪式の機体でも同様の危険はありますが、なんと言っても離着陸時には“尾輪”が下りているために、直接、機体を滑走路に接触させる可能性は、ほとんどありません。
もちろん、パイロットは訓練の時から、離着陸時にテールストライクを起こさないような操縦操作を学び、機体の操縦マニュアルにも、テールストライクに関する注意喚起が記載されてはいるのですが、残念ながら、この種の事故は、世界中の空港でしばしば発生しているようです。
次の動画は北アフリカ、チュニジアのチュニスエア(TUNISAIR)のA320(登録記号:TS-IMM)が、着陸時にテールストライクを起こしたと思われる動画です。
【You Tube動画:Tunisair A320 TAILSTRIKE [?] 】
▲着陸時に横風でも受けたのか、A320の機首が振られるのと同時にバウンドしてしまい(0:14)、やや高めのフレアが災いして、テールを滑走路に接触させているように見えます。少しボリュームを上げないと聞き取りづらいのですが、A320のテールが滑走路と接触しているように見える0:16から二回、にぶい金属の擦過音が聞こえます。
【過去の発生事例】
日本国内でもテールストライクは過去、数件発生していますが、「運輸安全委員会」の調査が終わった最近の事例として、2009年8月に全日空298便:737-800型機(登録記号:JA56AN)が羽田空港で、同年10月にアシアナ航空1125便:A321-200(登録記号:HL7763)が関西国際空港で、いずれも着陸時に起こしたテールストライク事故を考察してみましょう。

▲FS2002でANA298便のテールストライクを再現。発生は夜間でした。
国土交通省「運輸安全委員会」の事故調査報告によれば、どちらの事故も、次のようなシナリオで発生したものと推定されています。
①パイロット(どちらも副操縦士が操縦)がテールストライクの危険性に深く注意を払う事なく、大きなフレア角で接地操作に入った。
②接地する時の降下率が、運航規程の制限値を越えるほど大きかった。
▼事故機の接地寸前の降下率(事故調査報告書より)
ANA298便:ALT30FT=約700FPM
AAR1125便:ALT33FT=768FPM
※ALT:Altitude(高度:報告書では電波高度)、FPM:Feet Per Minute(毎分降下率:フィート)
③大きな降下率で接地した結果、メインギアが衝撃を吸収しきれず、ショックストラット(緩衝装置)が過度に圧縮されたことによる反発力で、機体がバウンドした。(AAR1125便はタイヤが接地したまま、ストラットが伸びきった)
④バウンド後の落着時に、メインギアのショックストラットが再び大きく圧縮され、グランドスポイラーの展開と、過大なフレア角の相乗効果によって胴体下面の地上高が著しく低くなり、機体の尾部が滑走路に接触し、テールストライクが発生した。
なお、いづれの事故機のパイロットも、③の機体がバウンドした際に、反射的にハードランディングを防ぐ意図で、機首の引き起こし操作を行っていますが、これはいわゆる、危険な“逆操作”だったと、報告書は指摘しています。

▲FS2002でAAR1125便のテールストライクを再現。事故当時の関空の気象状態はCAVOK(視程10km以上、雲高5,000ft以上の最も安定した気象状態)でした。
セスナやパイパーのような小型機ならいざ知らず、慣性の大きな大型機では、このタイミングでフレアをかけても降下率をコントロールすることは不可能で、むしろ、機首の引き起こしによって相対的に尾部が下がり、機体下面と滑走路のクリアランスをいっそう縮めることとなって、テールストライクの発生を助長してしまったものだと思われます。
先のチュニスエア:A320のテールストライクも、動画を見る限り、同じような経緯で発生した可能性が考えられます。
ハードランディングで機体がバウンドした場合、B737-800の「Flight Crew Training Manual」には“hold or re-establish a normal landing attitude・・・”、A320の「Flight Operations Briefing Note」には“Maintai a normal landing pitch attitude”、つまりどちらの機体のマニュアルにも「機体の姿勢を変えるな」と明記されており、これを守らない場合にはテールストライクを起こす危険があると警告されています。
ANA298便とAAR1125便の副操縦士は共に、このマニュアルの指示を守っていませんでした。
【報告書の分析】
事故調査報告書の分析によると、この二つのテールストライクは、どちらも操縦にあたった副操縦士が、接地寸前にもかかわらず、高い降下率と大きな迎え角という、不適切な着陸操作を行った結果、発生したものと推定しています。
また、ANA298便とAAR1125便の両者とも、副操縦士を補佐すべき機長が、TAKEOVER(テイクオーバー:操縦交代)や適切な助言を行った形跡がなく(AAR1125便はCVRが消去)、事故を未然に防止できなかったことについても、指摘しています。
※CVR:Cokpit Voice Recorder(操縦室音声記録装置)
ANA298便の事故調査報告書の最後には、事故発生後、全日空が(自発的に)B737-700型から800型(800型は700型より胴体が5.8m長い)への移行訓練の強化、テールストライク対策の履修、着陸時のバウンドに対するシミュレータ訓練の導入などについて付記されています。
ところが、皮肉なことに、今回、ANA731便の事故は、テールストライクの防止策を強化したB737-800ではなく、A320で発生してしまいました。
しかも、着陸時ではなく、そのテールストライクは離陸時に発生したのです。
【You Tube動画:Airbus A380 tailstrike 2 】
▲エアバスA380の離陸可能な最低速度テスト(VMUテスト)。テールを擦るのが予想されるため、機体の損傷防止のために、“スキッド・プレート”と呼ばれるバンパーを胴体下面に装着しています。
【なぜ接地に気がつかなかったのか】
2月5日に発生した、ANA731便のテールストライクは、これらの事故とは発生の経緯が異なります。
なぜなら、ANA731便のケースでは、機体が地上に接地していたにもかかわらず、機長と副操縦士が共に、まだ空中にあるものと“勘違い”して、テールを滑走路に接触させるという、極めて特異なケースだったからです。
果たして、自重63トンの旅客機が滑走路に着陸したのかどうか、コクピットのパイロットが二人揃って気がつかないなどということが、本当にあるのでしょうか?
そこで次回は、A320の着陸シーケンスにスポットを当て、ANA731便のテールストライク事故を更に考察してみたいと思います。