目を覚ますと
僕はソファーで寝ていた。


腕時計を確認すると
6時数分前を指していた。


ゆっくりと体を起こすと
頭がガンガンと響いた。


これが二日酔いの頭痛ってやつか・・・


僕は初めて二日酔いを経験した。


昨日はどうやら
人生初の二日酔いになるまで
酒を飲んだらしい。


森田がウチまで送ってくれたのは
なんとなく覚えている。


後でちゃんと礼を言わなくては。



ぼんやりとした目で眼鏡を探した。


眼鏡はソファーの前に置かれた
小さなテーブルの上にあった。



ん・・・?



僕のウチにはソファーの前に
テーブルは置いていない・・・



不思議に思いながら
眼鏡を手に取り掛けた。



すると妙な違和感を感じた。


置かれている家具も
その配置も微妙に違っていた。


今座っているソファーも
自分の物ではない。


明らかにカバーの色が違う。


カーテンの色も違う。


ダイニングテーブルには
花瓶に花が飾ってある。



ここは僕の部屋ではない。


部屋全体を見回しそう確信した。


間取りは同じようだ。


最近の賃貸マンションは
みんな似たような間取りなのだろう。



それはさておき、
ここは森田の部屋なのだろうか?


森田は自分のウチに
僕を連れてきて
介抱してくれたのだろうか?



でも僕の記憶では、
森田は僕と一緒にタクシーに乗って
僕の住んでるマンションまで
送ってくれた・・・・・はずだ。



えっ、それとも僕の思い違いで、
最初から森田のウチに来ていたの
だろうか?



僕は冴えない頭で考えた。



この部屋からは
僕の好きな香りがしていた。


やわらかい優しい香りだ。


今の状況でなければこの香りで、
かなり落ち着けたに違いない。



この部屋は、
それほど物は多くない。


きちんと片付いていて
洒落た小物や可愛らしい置物が
置いてある。


どことなく、
女性の部屋のような気がして
ならない。


いや、これも
森田の趣味なのかもしれない。





僕はお手洗いに行きたくなった。


立ち上がりふらつきながら
部屋を進んだ。


間取りは僕の住んでる
マンションの部屋と同じだった。


用を済まし、
お手洗いから出ると
洗面所には洗濯物が干してあった。


そこには、
どう見ても女性物の下着があった。



これも森田の趣味なのだろうか・・・


とは思えなかった。


洗面所をよく見回すと
女性用の化粧水やら何やらが
置いてあった。



僕は焦った。



ここは森田の部屋では
ないかもしれない。



玄関に行ってみた。



僕の革靴が綺麗に揃えられていた。



僕の靴の隣には、
パンプスというやつが
これまた綺麗に揃えられていた。


どんなに目を凝らしても
その靴は女性物にしか見えなかった。



もうこれは完全に森田の部屋ではない。



僕は頭が真っ白になった。



ヤバい・・・



ん・・ヤバいって何がヤバいんだ?



起きた時、僕はソファーにいた。



ちゃんと服を着ていた。



下着も履いているし、
ベルトも締めていた。



ベッドにいたわけではない。



この部屋の女性と
一線を越えたなんてことは
たぶんない・・・・・



正直、記憶が曖昧で自信がなかった。



でも、もしかしたら、
もしかするかもしれない・・・



服を着てるから、なんて事は
なんの当てにもならなかった。



そわそわした。



悔しさと寂しさと喪失感と
自分への怒りと・・・・・
そういうごちゃごちゃしたものを
抱えていたのは確かだ。


だけど、だからって、
それを紛らわすために
酒の力を借りて好きでもない人と
関係を持ったかもしれないなんて・・・


自分自身に失望し、
かなり落ち込んでいた。





ふらふらとリビングに戻った。



カーテンの隙間からは
朝日が射し込み、
部屋の中は明るくなってきていた。


ダイニングテーブルには
ショップからのダイレクトメールが
置かれていた。


僕はそのダイレクトメールを
手に取った。



これは、
この部屋の住人宛の郵便物だ。


僕は恐る恐るDMの宛名欄を見た。





へっ・・・





え・・・・・





どういうこと・・・?





宛名には、"長濱ねる 様" 
と書いてあった。


住所は僕と同じで、
部屋番号だけが違っていた。


501って・・・ 


僕、510・・・ 同じ階・・・・・



えっ!? 何!? どうなってんの!?



あっ・・・ これ夢だ・・・・・



そう夢だよ!


僕はまだ夢の中にいるんだ。


こうだったらいいなぁ・・なんていう
想像の中にいるんだ。


だから都合良く
長濱さんの名前が出てくるんだよ。


全く、リアルな夢を見てるもんだわ・・・



僕はソファーに戻り目を瞑った。


次に目を開けたら、
きっと自分の部屋にいる。


そう念じて、呼吸を整えた。



だけど、
目を開いても、
目の前に映る映像は
何一つ変わっていなかった。



僕は手の甲を
おもいっきり抓ってみた。



痛かった。  可怪しい・・・



右頬を叩いてみた。 


痛かった・・・


左頬も叩いてみた。 


これも痛かった・・・



いや、可怪しいだろ・・・・・ 



夢の中の痛覚というのは
ここまで過敏なのだろうか?





夢か現かの判定が出来ないでいると
どこからかアラームが鳴った。


その音はとても現実的で、
僕が夢の世界に居ないことを
証明してくれた。



リビングの隣の部屋から
微かに物音が聞こえた。


アラームが止まった。



たぶん、
目覚まし時計の音だったのだろう。



さっきよりも物音が大きくなった。


この部屋の住人が起きたようだ。





この部屋の住人・・・・・





僕はDMを再度確認した。



同じ住所、同じマンション名、


同じ階の違う部屋、501、


そして、"長濱ねる 様"・・・・・





一気に鼓動が早くなった。



余りに自分の心臓が
早鐘を鳴らすものだから、
息が乱れて苦しくなった。


僕は、立っていられなくなり
その場にしゃがみ込んだ。



二日酔いのガンガンとした頭痛と
今にも心臓が飛び出すような
バクバクが重なって、

体が打楽器にでもなったみたいな
感覚だった。





隣室の扉がゆっくりと開いた。



僕は直視できず、
目を瞑ってうずくまった。



足音が近づいてきた。



その足音は僕の背後で止まった。



背中を優しくさすられた。



「大丈夫・・・?」



彼女のやわらかい声が聞こえた。



尚も背中をさすってくれた。



背中に彼女の手の温もりを感じた。



嬉しかった。



だけど、
どうしようもなく
自分が情けなく感じた。



泣きそうだった。



それを彼女に悟られまいと
必死に奥歯を噛みしめた。



でも心は正直だった。



うっすら目を開けると
目の前が滲んで見えた。



眼鏡のレンズが曇り
余計に目の前がぼんやりしていた。



床に一滴の雫が落ちたのがわかった。





かっこわりぃ・・・・・





僕は彼女の家のリビングで
むせび泣いていた。





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