あの運命的な朝から1年が経った・・・
わたしの部屋には
朝日が煌々と射し込む。
今日も朝日を浴びた。
清々しく気持ちの良い朝日。
東向きの部屋に住む特権だろう。
わたしは、
この部屋が結構気に入っている。
でも、今日でこの部屋とはお別れだ。
この部屋には、
一人の思い出と
二人の思い出がある。
一人の思い出は、
ちょっとビターで時にしょっぱかった。
もうあの味は、
味わいたくないけれど
確実に人生の糧になった。
二人の思い出は、
甘いけど、かなりスパイスが効いた
ものだった。
一度目の甘さより、
二度目の甘さは少し大人の味に
なっていた・・・・・ と思う。
彼がわたしの名前を呼んだ。
二人で一緒にカーテンを外した。
日差しが目一杯部屋に降り注いだ。
荷物はもう
ほとんど段ボールの中。
部屋がとても広く感じた。
窓を開けると、涼しい風と共に
ぽかぽかとしたお日様の匂いがした。
絶好の引っ越し日和だ。
今日から彼と同棲を始める。
あの日から、
わたし達は着実に進展している。
彼との"やり直し"を始めた時、
実のところ、
失敗を恐れる自分を
想像してしまっていた。
だから、
無駄に慎重になってしまうと
思っていた。
でも、いざ再スタートを切ると
そんな不安は最初だけだった。
わたしも彼も
数年間でチョットは成長していた
みたいだ。
少なくても
一方的に言葉を投げつけたり、
気持ちを押し込めたままにする事は
なくなった。
まだまだの所も多々あるけれど、
これから二人で成長していけたら
いいと思っている。
引っ越し業者が来た。
手際よく次々と荷物を運び出していく。
この部屋には愛着があるから、
引っ越すとなると少し寂しさもある。
だけど、
この部屋とのお別れは、
新たな生活のスタートでもある。
これから始まる生活を思うと
やっぱり胸が高鳴る。
引っ越し先の部屋は南向きだ。
ベランダに出ると
朝日も夕日も見える。
明日からは毎朝、
彼と朝日を見ることが出来る。
また小さな幸せが
増えていきそうだ。
荷物が全て運び出された。
わたしは窓を閉め、
心の中で部屋にお礼を言った。
そして、
新たな部屋で朝日を浴びる
彼とわたしを想像していた。
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僕が住んでいた部屋からは
朝日が見えなかった。
その代わり、
焼けるような夕日が見えた。
真夏は西日がギラギラと射し込み
暑かった。
僕はあの部屋が気に入っていた。
物が運び出され
ガランとした部屋を見た時は
少し寂しかった。
あの部屋に住んだから今がある。
ちょっと大袈裟な言い方だけど
そんな気がしている。
彼女とちゃんと向き合えたのは
あの部屋に住んでいたからだ。
もし違う場所に住んでいたら
今の幸せはなかったかもしれない。
だから僕は部屋にお礼を言った。
今日、引っ越しをした。
彼女と同棲を始めるためだ。
前の部屋とお別れをした時は
少々センチメンタルになった。
だけど、
彼女との新生活を想像したら
心が踊った。
それと同時に身が引き締まった。
実は最近僕は、
彼女に内緒である物を買った。
まだ彼女に見せていない。
僕も見ていない。
どのタイミングで
見ればいいのだろうか?
当然一緒に見たい。
僕の仕事用の鞄には
今、結婚情報誌が入っている。
一緒に暮らしながら
将来的な計画を立てていければ
と思っている。
僕達二人は一度遠回りをした。
だから不安はある。
でも、それ以上に
遠回りした事で得た自信が
僕の背中を押していた。
この先、僕と彼女には
様々な風が吹いてくると思う。
それは、暖かい風や、
涼やかな風ばかりではないだろう。
熱風や空っ風
時には吹雪なんて事も
待ち受けているかもしれない。
どんな風が吹くか予測は出来ない。
だけど、
怯えてばかりはいられない。
一歩一歩進み、
でも、時には立ち止まって
二人で成長できたらと思っている。
ああ、でもホント
どのタイミングで見せたらいいんだ・・・
ここはやはり
後で志田先輩に聞いてみよう。
何かいいアドバイスが
もらえるかもしれない。
そんな事を思いながら
新しい部屋で
荷物の片付けをしている。
新しいこの部屋は
南側を向いている。
ベランダからの景色が良い。
朝日も夕日も見ることが出来そうだ。
網戸にしている窓から
心地よい風が入ってきた。
カラスの鳴き声が聞こえた。
窓に目を向けると
外の景色は茜色に染まっていた。
彼女が僕の名前を呼んだ。
ベランダに出て僕を手招きしていた。
彼女の隣に並ぶと
大きな夕日が見えた。
暖かい色をしていた。
夕日に照らされた
彼女の横顔は美しく愛おしかった。
今まで部屋から見える夕日は
一人で見送るものだった。
今はこうして
彼女と二人で見送っている。
小さな幸せが
また一つ増えた。
夕日を見送ってから
二人で近所のスーパーに買い物に
出掛けた。
帰り道、
マンション近くのパン屋の前で
鈴の音を聞いた。
クロの赤い首輪に付いていた
銀色の鈴の音に似ていた。
周りを見回しても
影はなく気配も感じない。
鳴き声もしゃべる声も
聞こえなかった。
彼女と顔を見合わせ微笑んだ。
(もう手間は取らせないから)
僕はそう心の中で呟いた。
彼女の手をしっかり握り
マンションに帰った。
玄関のドアを開けると
新調した傘立てが目に入った。
そこには、
赤い傘と濃紺の傘が
寄り添うようにして収まっていた。
ーーーーーーーおしまいーーーーーーー
「朝日を浴びて、夕日を見送る」を
お読み下さりありがとうごさいました。
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