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☆今作は「ため息とあくび」
(K探偵事務所シリーズ)の続編です。
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♪勝って嬉しい花いちもんめ
♪負けて悔しい花いちもんめ
♪お山の鬼さんちょっとおいで
♪人がいるからよういかん
♪角を隠してちょっとおいで
♪それでも怖くてよういかん
♪あの子が欲しい
♪あの子じゃわからん
♪その子が欲しい
♪その子じゃわからん
♪相談しましょ
♪そうしましょ
童歌の“花いちもんめ”は
昭和初期にはすでに存在していたようだ。
各地で歌われ、
伝承によって今もなお残っている。
地域ごとに多少歌詞は違うようだか、
意味合いはどの地域も同じだ。
ん!?
ちょっと待て。
さっき聴こえてきた“花いちもんめ”の
歌詞、少し可怪しくなかったか?
気のせいだろうか・・・
でももし、
そんな童歌が歌われている地域に
探偵が依頼を抱え行くのなら、
それは注意が必要だ。
どうしてかって、
それは・・・
「責任とってくれるんだよね、平手君」
またこの話だ。
「あの、ちょっと土生さん。
だから覚えてないんですって。
僕、幼稚園児だったんですよ」
毎度言い訳をするのも
いい加減飽きてきた。
「それはわかってるよ。
でも約束したよね。
クリスマスカードがその証拠だよ」
証拠って・・・
一方的すぎますって、それ・・・
土生さんはニコニコ顔で
僕の肩をぽんぽんと叩いた。
後々の証拠のために
幼い頃の僕にカードを贈ったと?
可愛い妹のためなら
手段は厭わないわけだ・・・
それチョット怖いな・・・
こうなってくると僕は次の言葉を
なかなか見つけられなくなる。
「いや・・でも・・・」
「何が“でも”なんだい。
僕はもうとっくの昔に
心の準備が出来てるんだよ」
いやいや、土生さんはよくても
僕は全く準備が出来てないんですってば・・
しかもこれ、
僕だけの問題じゃないし・・・
「あの・・・だから・・
ホントちょっと待って下さいよ。
あの・・そう、時間を下さい」
僕がそう言うと
土生さんは小さい子供のように
口を尖らせた。
そして、やたらと可愛らしい顔をして
「え~、待てないよぉ」
と言った。
何なんだまったく。
僕はこうなった後の
対処方法がわからない。
そして毎度、墓穴を掘る。
「でもほらっ、
由依さんの気持ちも聞かないと・・・」
ん・・・
あっ!?やばっ・・・
「気持ち聞くための
プロポーズでしょうがぁ・・・
まったく平手君、
早く僕の弟になってしまいなさい」
またやってしまった・・・
この話はいつもここで止まる。
「ほらぁ~、おにーちゃんですよ~」
酔ってるな。
もうこれ完全に酔ってるな。
酔う度にこれを繰り返す。
しかも土生さんは酔うと
何故だか僕の頭を撫でてくる。
正直、困っている。
でも、邪険にできない僕がいる。
あぁぁ・・撫でないで下さい・・・
今から半年以上前に
初めて土生さんと飲みに行った。
その時、彼はとある事情から
酔っぱらったフリをした。
よくよく考えたら、
そんなフリをしなくても
よかったのではと思っている。
お茶目なのか、
ただ面倒臭い人なのか・・・
けれど、憎めないから不思議だ。
僕はこの人が人として好きなのだろう。
ただ、今はもう芝居でも何でもない。
正真正銘の酔っぱらい。
面倒臭いというのが本音だ。
「土生さ~ん、もうそろそろ帰りましょ」
このセリフも言い飽きた。
「むっふぅ~・・・じゃあ帰る」
土生さんはかなり眠そうだけれど
顔はニコニコしていた。
えっ!?
あの、土生さーん
しなだれかからないで下さい。
そして頭を撫でないで下さい・・・
しなだれかかられるなら
由依さんが良かった・・・
なぜに兄貴の方なの・・・
ハァァ・・・
僕が思い切れないのが原因かぁ・・・
ため息が出た。
僕はタクシーをつかまえると
土生さんと共に乗り込んだ。
タクシーが信号で停まると
土生さんはにこやかに言った。
「平手くん・・・
由依のことよろしくねぇ。
でもさぁ・・・
指一本でも触れたら
承知しないからぁ・・・」
土生さん、それ矛盾だらけですよね。
どっちが本音なの?
土生さんはニコニコしながら
頭をボビングヘッドの様に
左右に小刻みに動かした。
すると、
「アッハァ~・・・
ん・・・気持ち悪くなってきた・・・」
と言い僕を見た。
酔っぱらってるのに
そんな風に頭を動かしたら
気持ち悪くもなるでしょうよ!
「大丈夫ですか?
一度降ろしてもらいましょうか?」
僕がそう尋ねると
土生さんは満面の笑みを浮かべた。
「うふっ・・嘘です。
平手くん優しいなぁ・・・
弟になろうよぉ~・・ねっ」
そう言ったかと思えば
カクッと頭を垂れて寝ていた。
この土生さん、
かつて一時的に僕の部下だった。
そして今は将来的に
義理の兄になるかもしれない人だ。
話がかなり飛躍していて申し訳ないが、
ここでその経緯を説明するのは
正直面倒臭いので割愛させてもらう。
まあ、色々あったもので・・・
僕はK探偵事務所という
小さな探偵事務所の調査員をしている。
事務所は所長と僕だけ。
現在、調査員を募集中なのだが
なかなか人が来てくれない。
このご時世、
駆けずり回らなきゃならない職業に
好き好んで飛び込んでくる人は
少ないということだろうか。
無理に勧誘はしたくないし、
これは気長に待つしかないのだろう。
そうそう、
先程から話題に出てきている由依さん。
彼女がK探偵事務所の所長で、
土生さんの妹、
そして僕の大切な人だ。
大切な人なのだけど、
幼馴染みということもあって・・・
いやそうじゃないな・・・
幼馴染みを言い訳に、と言った方が
この場合は適切なのかもしれない。
うん、そうだ、
幼馴染みを言い訳に
心地よく生ぬるい関係が
だらだらと続いる状態だ。
こんなにハッキリ言うことでは
ないのかもしれない。
けれど、事実なのだからしょうがない。
自分でも、かなりもどかしい。
僕自身は由依さんとの関係が
進展することを望んでいる。
普段、表情には出さないけれど、
もう切実に・・願うほどに・・・
けれど、きっかけを掴めない。
別に空回りしているわけではない。
いざという瞬間を逃しているだけだ。
そんなわけで、
今現在は進み方を模索中といった感じだ。
だけど、
あまり悠長に構えてはいられない。
土生さんの圧が
日に日に増している気がしている。
気のせいではないはずだ。
たぶん僕が由依さんに
プロポーズするまで続くのだろう。
ホントため息が出る。
土生さんを自宅まで無事に送り届けると
待たせていたタクシーに乗った。
信号待ちで停車すると、
すでに営業を終えた花屋の
ショーウィンドウが目に入った。
土生さん宅には
いつも玄関に花が飾られている。
かなりの頻度でお宅に
お邪魔しているのだが、
行く度に花が違うし、
枯れているのを見たことがない。
僕は花には疎いので
花の種類や名称なんかはよく知らない。
でも土生さん宅の花は
いつもさりげなく飾られているのに
綺麗でつい見とれてしまう。
さっき土生さんを送った時も
鮮やかな黄色の花が飾られていた。
少し前に、土生さんの奥さんである
美波さんに玄関の花の事を聞いた。
すると、花は全て土生さんが
美波さんへのプレゼントとして
買ってくるらしい。
美波さんが嬉しそうに応えてくれた。
土生さんは相当マメな人のようだ。
その時、美波さんが僕に
「平手君は由依に花とか贈らないの?」
と聞いてきた。
美波さんは由依さんの義理の姉だけど
それ以前に友人でもある。
僕と由依さんの関係に
土生さん程ではなくても
やきもきしているのは確かだった。
僕は美波さんに、
「そんな柄じゃないですよ」
と応えた。
正直、僕には土生さんのようなマメさは
備わっていない。
すると美波さんに
「そんなこと言ってちゃダメよ」
と言われた。
美波さん曰く、
花を贈るのに柄は関係ないらしい。
そもそも、“そんな柄じゃない”なんて
言ってること自体がナンセンスだと
言われた。
贈る理由はなんでもいい。
大切な人から贈られたら、
それだけで嬉しい。
だから四の五の言わずに贈れ!
と仕舞いには喝を入れられた。
けれど僕は未だに
由依さんに花を贈る事ができていない。
彼女が喜ぶ顔は当然見たい。
見たいのだけど、
気恥ずかしさが先行していた。
「花を贈る、かぁ・・・」
僕はため息混じりの独り言を言いながら
自宅の玄関ドアの鍵を開けた。
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