平手くんはソファーで
一定のリズムで寝息を立てたまま
起きる気配は微塵もない。


わたしは急いでシャワーを浴び
着替えをした。



何を焦っているのだろう・・・



彼は隙をついて襲ってくるような
人じゃない。


でも内心、
彼になら襲われてもいいかなと・・・・・


って・・・

あーホントにもう
何考えてるんだろ、わたし・・・



自分で勝手に妄想しておいて
顔が熱くなっているのを感じた。



夜中の1時を過ぎていた。


明日は理佐と約束があるから
寝坊は出来ない。


夜更かしをしたいわけではないけれど
全く寝れる気がしない。


二十数年生きていれば
寝れない夜がいかに長いか知っている。


今夜はそんな
長い夜になりそうな予感がして
心がぐるぐるしていた。



ベッドに腰掛けスマホを見た。



今、理佐に連絡したら迷惑かな・・・


迷惑だよね。深夜だし。


志田くん明日お仕事かもしれないし、
寝てたら起こしちゃうよね・・・


でも、電話したい、話がしたい・・・


起きてないかなぁ・・・





一分一秒と進むにつれ
鼓動が早まっていった。


心のぐるぐるは
収まることを知らず
思考にまで影響を及ぼしそうだった。



このまま黙っていても朝は来る。


朝が来たら当然彼は目を覚ます。


でも、このままだと
何の心の準備も出来ていない。


もしこのまま素面の平手くんと
向き合ったらフリーズしてしまう。


平手くんだって、
何でここにいるのか
わからなくてフリーズしてしまう
かもしれない。


そうしたら、
どう言って切り抜けよう?


平手くんがわたしの部屋の前で
寝ていたので拾いました、とか・・・


そんな、
猫や犬じゃないんだから・・・


彼のことだから恐縮しまくって
謝り続けてしまいそうだ。


そして、
わたしから顔を逸らしたまま
自分の部屋に戻ってしまう。


そういう事が容易に想像出来た。



彼の気持ちと、
わたしの気持ちが
同じだとわかった今、

もう振り出しに戻るような事は
したくない。


彼とほんの数ミリでも
先に進めるなら、
その道を選択したいと思った。



わたしは今の決意を
理佐に伝えたかった。


迷惑な事だとはわかっている。


でも信頼できる理佐に
話を聞いてもらえるだけで
この決意は
揺るぎないものになると思った。



わたしは迷惑を承知で
理佐に電話を掛けた。


驚くほど早く応答があった。



(もしもし、どうしたの?
 珍しいねこんな時間に)


「ごめんね。
 どうしても話したいことがあって。
 少しだけ大丈夫?」


(全然大丈夫!)


「志田くん起きちゃうんじゃない?
 いいの?」


(あはっ、
 気にしなくても大丈夫!
 二人とも明日休みだし、
 今映画のDVD観てるとこだし。
 それよりどうしたの?)



ああ、そういえば
あの二人宵っ張りだった・・・


そう思うと
少しだけこの時間に電話した
罪悪感が薄らいだ。



「あのね・・・
 驚かないで聞いてくれる」


(うん)


「今ね、わたしの部屋に
 平手くんがいるの・・・・・」


(え・・・)


「この前ね、
 同じマンションに住んでるって
 わかったの・・・」


(えー・・・ そうなの)
 

「その事を明日・・・じゃないね
 もう今日だね・・・
 話そうと思ってたんだけど・・・」 
 

(うん)


「会社から帰ってきたらね、
 平手くんがわたしの部屋の前で
 泥酔してて・・・
 ウチに入れてあげたら
 ソファーで寝ちゃった・・・」


(そうなんだ・・・
 平手くんねるに気づいた?)


「うんん・・・気づいてない・・・
 声が似てますねって、
 酔っぱらって言ってた・・・
 朝になったら覚えてないかも」


(そんなに酔ってるの!?
 平手くんって確か
 お酒弱くなかったっけ?)


「うん、弱いはず・・・
 でもね、その酔った原因が
 わたしだったの・・・・・」


(どうゆうこと?)





わたしは平手くんが
酔っぱらった勢いで
さっき話してくれた事を
理佐に話した。



すると理佐が急に謝ってきた。



(あー・・なんかごめんね)


「なんで理佐が謝るの?」


(もう正直に言うね。
 あのね、わたし、実は知ってたの
 ねると平手くんが
 同じマンションに住んでること)


「えっ・・・」


(結婚式の出席者名簿を
 確認した時にね、
 もしかしたらって・・・
 それでね、
 本当に同じマンションなのか
 旅行に行く前に確認したの。
 ほら、私、変なこと言って
 誤魔化したでしょ、
 自分の胃袋の確認とかなんとか
 訳わからないこと言って・・・)



あの時の理佐の不自然さは
気のせいではなかったんだ・・・



そうだよね、
名簿見れば住所なんて
一発でわかるよね・・・・・



あははっ(笑)、なんだぁ



なんか理佐にものすごく
気を使わせちゃった・・・



肩の力が少しずつ
抜けて行くのがわかった。


それに、おかしくって
クスクス笑ってしまった。



そのクスクス笑った声が
理佐にはシクシク泣いているように
聞こえたらしく
スマホの向こう側で焦っていた。



「泣いてるんじゃないよ(笑)。
 なんだかおかしくって
 笑ってたの」


(そうなの?
 なんかもう焦ったじゃん。
 ん~でも、ホントごめんねぇ)


「ううん、大丈夫!
 自分で蒔いた種だから
 自分でしっかり刈り取る!!」


(なんか前向き~。
 ちょっと安心した)


「今まで
 ご心配をおかけしました(笑)。
 わたし、このチャンスは絶対
 逃さないから!!
 応援してくれる?」


(勿論! 絶対上手くいく!!)


「ありがとう!
 あっ・・・ってことは、
 志田くんも知ってるって事だよね」


(はい(笑)。
 彼も今日、平手くんとこに行く
 約束してるの)


「そうなんだ」


(でも、夕方以降
 ず~っと既読がつかなくて
 なんかやきもきしてた)


「じゃあ、志田くんにも
 この事伝えてくれる?」


(うん、っていうか
 今隣でチラチラこっち見てる(笑))


「あはっ(笑)」


(ん~・・・お土産渡すの
 来週に延期しようかな)


「えっ、どうして?」


(折角のチャンスなんだし、
 平手くんとしっかり
 向き合う時間にした方が
 有意義なんじゃない。
 お土産なんて、
 その後で大丈夫でしょ)


「うん、そうしよっかな。
 本当にありがとう」


(うんん。
 わたしの方こそありがとう。
 謝るチャンスもらっちゃった。
 後で絶対埋め合わせするから、
 その時はまた美味しいものでも
 食べに行こう)


「期待してます!
 じゃあ、頑張ってみるね」


(うん、頑張れ!!)


「うん、ありがとっ! またね」


(またね)





わたしはそっと
耳からスマホを放した。


電話する前はガチガチになっていた
表情筋が和らいでいた。


理佐に電話してよかった。



平手くんは相変わらずソファーで
子供のような顔をして
寝息を立てていた。



わたしはいつもより
少しだけ遅く目覚まし時計を
セットした。


そして
ベッドに寝そべり布団を掛けると
そっと目を閉じた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー