嫉妬、絶望、怒り、悲しみ・・・・・
僕の中では、
負の感情が入り乱れていた。
特に自分に対する怒りは
なかなか収まらなかった。
なんとか会社に戻った僕は
正気を保つため、
休憩室の自販機で
エナジードリンクを買い
飲み干した。
飲んでから考えた。
こういう時に
カフェインを摂取しても
いいものなのだろうかと・・・
もっと気持ちを落ち着かせるものを
飲むべきだったんじゃないかと・・・
まあ、でも、もう遅い、
飲んでしまった。
それに、いろいろと遅かった。
遅すぎた。
考えるよりも先に
もっと早く行動を起こしていれば、
別の展開が訪れていたかもしれない。
過ぎてしまったことを悔やみ
自分に腹が立ってしょうがなかった。
デスクに戻ると、
半ばやけくそでパソコンの
キーボードを叩き書類を作成した。
精神的には
多少不安定になっていたけれど、
仕事はちゃんと終わらせた。
深呼吸を繰り返して、
平静を取り戻そうとした。
手洗い場で顔を洗い、
眼鏡のレンズを拭き
ネクタイを締め直して、
なんとか体裁を整えた。
日がだいぶ傾いた午後6時、
森田と共に会社を出た。
森田が連れてきてくれた店は
小洒落た内装の創作和食の店
だった。
メニュー表を見ると、
スパークリングの日本酒が
おすすめみたいだった。
森田も僕もそのおすすめのお酒と
前菜、肉料理等を注文した。
自分ではだいぶ平静を取り戻したと
思っていたけど、
森田に顔色が悪いと心配された。
「大丈夫、大丈夫」と言って
笑って誤魔化した。
どんなに取り繕っても、
僕の心情はわかり易いくらい
顔に現れてしまうらしい。
お酒と前菜が運ばれてくると
僕はまず本題から話し始めた。
昨日僕が見聞きした
田村さんの事を
先に話してしまいたかった。
そうした方が、
もし仮に今日この先
僕が酒に走ってしまったとしても
一応役目を果たしたことになる。
僕は酒を一口飲むと、
森田に僕が知っている
田村さんの情報を全て話した。
「それもう十分すぎるくらいの
情報だよ。ありがとう!」
「いえいえ。
タイミングよく田村さんが
話してくれたから」
「そうかぁ・・・実のところさ、
そういう事を聞き出すために
ちょっとだけ
探りを入れて欲しいって
頼もうと思って今日誘ったんだよ」
「それじゃあ、
これで僕の任務は完了だよな」
「ははっ(笑) うん、そうだな。
ホントありがとう!
後は自分で何とかするよ、
早めに行動に移さないとなっ!!」
早めに行動かぁ・・・
あーあぁ・・・ホントその通りだ・・・・・
僕の心の声が聞こえたのか
森田が心配そうに聞いてきた。
「平手、お前本当に大丈夫?
なんか疲れきった顔してるぞ。
早めに切り上げるか?」
「あー 大丈夫、大丈夫」
僕はグラスが空いたので、
お酒を注文した。
「お前、酒弱くなかったっけ?
ちょっとペース早くないか・・・」
「え、そうかぁ・・・」
「なあ、何かあったのか?」
「ん・・・ いやぁ・・・・・」
「相談にのってもらったし、
よければ話し聞くよ」
森田が真面目な顔で聞いてきた。
僕は志田先輩に話をするまで
"彼女"の事は誰にも話さない
つもりだった。
だけど、もう限界だった。
森田なら信用も信頼も出来る。
こいつなら話しても大丈夫だ。
そう思ったら、
堰を切ったように話し出していた。
話せば話すほど
彼女への想いが溢れ、
それと同時に
自分に対する嫌悪感が増していった。
森田は真剣に話を聞いてくれた。
ありきたりな言葉で慰めたり、
形だけ勇気づけようとしたりはせずに
ただ僕の話に耳を傾けてくれた。
今の僕にはそれが心地よかった。
森田が同期の仲間で良かったと
心から思った。
一通り話をすると無性に喉が渇いた。
酒を注文した。
もう何杯目かわからなかった。
森田は止めてくれたが、
それに構わず飲んだ。
今日見てしまった事の残像が
頭にこびりついていた。
その残像を消したくて
酒を飲んだ。
でも、どれだけ飲んでも
消えてくれなかった。
頭のスクリーンに
映し出された"彼女"は、
僕の知らない男と
抱き合ったままだった。
自分が惨めで情けなくて
段ボールに入れられ
雨の日に捨てられた子犬のように
思えてどうしようもなかった。
いっそ段ボールに入ってやろうかと
思っていた。
拾ってくれる人がいるかもしれない。
うわぁ・・・
なに馬鹿なこと考えてるんだ・・・
頭はまだ多少は
冴えているつもりだったけど、
視界がぼやけて地面が揺れていた。
完全に酔っぱらっているのが
自分でもわかった。
腕時計を見ると
かろうじて文字盤を確認出来た。
まだ午後10時を回ったばかりだった。
ふわふわした状態が気持ち良くて
もう一軒寄ろうと森田を誘ったが
優しく諭されタクシーに乗った。
気が付いた時には
マンションの前に到着していた。
森田はタクシーを待たせ、
ふらつく僕を支えて一緒に
エレベーターにのってくれた。
階数ボタンは
なんとか自分で押すことが出来た。
エレベーターを降りると
僕は「ここで大丈夫だから」と
森田に伝えた。
「大丈夫じゃないだろ」と
心配されたけど、
「大丈夫」で押し切った。
僕は方向がいまいちわからなく
なっていたけれど、
いつもの感覚で廊下を歩いた。
一番奥まで来て
鞄から鍵を取り出すと
森田が、
「部屋までついていこうか?」
と聞いてきた。
僕は、
「タクシー待たせてるだろ、
ここまでで大丈夫だから。
ありがとう」
と、森田に礼を言った。
でも森田はなお心配そうな顔を
僕に向けていた。
呂律は回っているはずだ、たぶん・・・
あとは・・・
部屋に入って・・・鍵を閉めて・・・
靴を脱いで・・・
ソファーにダイブする・・・
おおっ、完璧じゃないか・・・
森田は僕の肩を
ぽんぽんと軽く叩くと、
「水ちゃんと飲めよ!
あと、絶対風呂には入るな!!
溺れるぞ」
と言った。
僕は大きく頷いて
もう一度礼を言った。
森田は手を振りながら帰っていった。
最後まで心配そうな顔をしていた。
本当に良いやつだ。
うん、今日は絶対風呂には入らない。
森田との約束だ。
僕は鍵をドアの鍵穴に差し込んだ。
がしかし、上手く回せない。
何度やっても回せない。
ん・・・・・?
壊れたかぁ・・・・・
立っているのが大変になり
地面に座った。
ドアを背に寄りかかると
ひんやりとしていて気持ちよかった。
意識がどんどん
遠ざかっていくのがわかった。
強烈な睡魔だった。
"彼女"はもう他の男のもの・・・
未練たらたらで格好悪ぃ・・・
もうどうでもいいや・・・
眠たい・・・
あ・・・・・今、スマホ鳴ったかも・・・
鞄開けるの面倒くさい・・・
鍵、開かないし・・・
部屋、入れないし・・・
もう面倒くさい・・・
瞼は重く、
目を開けていようという気力は
一切残っていなかった。
ここで寝たらヤバいかな・・・
眠たい・・・・・
眠たい・・・・・・・・・・
酔っぱらった僕は、
たぶんここで
眠気との壮絶な戦いに負けた・・・
・・・・・zzz
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