気が付いたら
夕日はほとんど沈んでいた。


それでも辺りはまだ
ほんのり明るさが残っていた。



カーテンを閉めて、
電気をつけると部屋の隅に
置いてある
大きめの旅行トランクが目に付き
心が踊った。


ねると平手くんの事も
当然大事だけど、

やっぱり
自分自身を大事にしなくちゃね。


そう思うことで、少しでも
気持ちを切り替えようとした。



二人で夕食の準備を始めた。



「ちょっと太めのスパゲティ
 選んだんだけど、どうする?」


お鍋に水を張りながら
夫が聞いてきた。


私は冷蔵庫を覗き、
野菜とキノコを取り出した。


「このピーマンとマッシュルーム
 使っちゃいたいから
 久しぶりにナポリタンに
 しよっか」


「いいねー! あっ・・・・・」


「どうしたの?」


「あー・・・いや、平手がさ、
 そのうち俺が遊びに行ったら
 鈴本さん直伝のナポリタン
 ご馳走してくれるって
 言ってたから・・・・・」
 

「そっかぁ、
 じゃあどうする?」


「え、んー あっ、
 冷凍してたバジルがあるから
 それを入れて
 バジル風味スパゲティ
 ってのはどう?」


「うん、それいいね!
 それに決定!!」





私は今、
平静を装っているけれど、

実のところ少々
嫉妬心が湧いている。



夫は平手くんが好き過ぎる。


余程、可愛いのだろう。


夫の平手くんに対する
友情というか、愛情というか・・・


たまに何となく
父性のようなものまで
感じてしまう事がある。


彼のそういった情に厚いところは
魅力でもあるのだけど、

平手くんに対しては
どこかこう・・・なんて言うか・・・


例えるなら、
息子に甘いパパ
に見えてしまう事が多々ある。 


それが悪いわけでは
ないのだけれど・・・・・



今は、言ってやりたい。


夫にではなく、
ねるに言ってやりたい。



ねる、

私の夫がねるに
これでもかっ!て嫉妬するくらい

今すぐにでも、
平手くんを捕まえてよ!!



平手くんは
ねるのモノでしょ・・・・・





そんな事を考えながら
お鍋を見ていたら
お湯が沸騰していた。



私はスパゲティをお鍋に投入し、
タイマーのスイッチを押してから
次いで塩をひとつまみ入れた。


隣でピーマンを切っていた
夫を見ると、その手が止まり
神妙な面持ちで私を見ていたので
笑ってしまった。


私の心の声が
聞こえていたのだろうか?


それとも嫉妬心が顔に
うっすら滲みでちゃったかな?


でも、
なんとなく察してくれたみたい。


それだけで嬉しくなった。



旅行中は
おもいっきり甘えちゃおうかな・・・





どういうわけか
彼の耳が赤くなっていた。


なに想像してんだか(笑)。





夫は人懐っこい子猫のような
笑顔で私を見ると、
またピーマンを刻み始めた。





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妻が鍋を覗いたまま動かない。


その顔には少し憂いを感じる。


気のせいだろうか・・・・・



結構前に妻が言っていたことを
思い出した。



(平手くんのお父さんみたいだね)



確かに俺は平手が可愛い。


だけどそれは
アイツに弟のような
感覚を持ってしまうからで・・・


別に父親目線になったことは
一度も・・・・・たぶん・・・ない・・・


と思う・・・・・。


あー・・・・・ 


なってるのかぁ・・・?


自分ではわからない。



でも、
なんとなく妻がそのことで
やきもちを焼いているのでは?

と、感じることがある。



もしそうだとしたら、
俺は幸せ者過ぎる。


こんな美人に
やきもちを焼かせるって、

俺の特権すげーよな。


でも、
俺が外野だったら
俺の事たぶん、ぶっ飛ばしてるわ・・・





お湯が沸騰すると
妻は何事もなかったように
スパゲティを鍋に入れた。


そして
隣でピーマンを切っている
俺の顔を見ると、

白い歯を見せて
可愛い笑顔を向けた。


俺の野暮な憶測を
蹴散らすくらい
綺麗で弾けた笑顔だった。


その笑顔を見る度に
俺は彼女を、理佐を
一生大切にしたいと強く思うんだ。



理佐、

俺の一番はいつだって
理佐だからな。



おおっ!!

なんかこのままだと
ハネムーンベイビーも
あり得るかもしれない。



そんな想像をしていたら
少し恥ずかしくなってしまった。





彼女の笑顔に安心し
俺も自然と笑顔になっていた。


俺はまた、
まな板に向かった。


新婚旅行
楽しみで仕方ない!





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